第102話
「はぁ?そ、それはちょっと……。」
俺はいきなりナツキに付け加えられた条件に驚き、なんとも歯切れの悪い受け答えをしてしまった。
「私にも勝った時のご褒美がなかったらおかしいじゃん?この条件をのんでくれなかったら、セイが勝った時のご褒美も無しね。」
「そうか。それならそれでいいよ。」
「何?私に勝つ自信がないの?」
「ああないよ。普段からスポーツしてるナツキと全くしてない俺では明らかにナツキの方が有利だからな。」
「この意気地なし!男だったら勝てそうにない勝負でも勝ってみせる!くらい言ってみなさいよ!」
ナツキが無茶苦茶なことを言いながらビーチボールを俺に向かって投げてきた。ナツキが投げてきたボールをキャッチした俺は、「今の時代、男だからどうとか言ったら良くないと思うぞ!」と言い返してボールを投げ返した。
キャッチした時に気付いたのだが、ボールは表面がざらざらしていて明らかにボロボロだった。きっとナツキが小さかった時に使っていた物を引っ張り出してきたのだろう。
俺が投げ返したボールをキャッチしたナツキは、「何言ってんの?セイが陰で私のこと『女子っぽくない。』って言ってるの知ってるんだからね!」と言って、またボールを投げつけてきた。俺はそれを何とかキャッチした。
俺がそんなことを話すのは、この世で1人しかいない。クソッ!キョウヘイの奴、ナツキに告げ口していたな!
キョウヘイに対する怒りを感じながらも、ナツキのことを女子っぽくないと思っているのも事実だなと思い、ナツキに対して申し訳なさを感じていた。
しょうがない。ここは勝負を受けるしかないか。どうせ彼女にハナザワさんを選ぶつもりはないのだからな。まあ、ナツキも選ばないのだけれど。
「分かったよ。勝負するよ。」と俺が答えると、ナツキはすごく驚いた顔を一瞬したが、すぐに喜んでいる表情をしながら、「ホントに!ホントに勝負してくれるの⁈」と聞き返してきた。
「ああ、勝負するよ。」
「絶対だからね!もう取り消せないからね!」
「分かったよ!とりあえず、まずはルールを決めよう!」
その後、俺とナツキは勝負のルールを決めた。
勝負は1本勝負。ルールは大体バレーと同じでボールを掴むのはなし。ボールにはレシーブを含めて2回触れる。相手にボールを返すことができなかった方の負け。ただし明らかに取れないボールを相手に返したら、返した方の負け。
というルールになった。
先攻はじゃんけんに勝った俺からになった。とりあえず、ボールを上に放って思いっきりボールをナツキ目掛けて打った。自分としては渾身の出来だったのだが、ナツキはあっさりレシーブしてしまった。そしてレシーブして上げたボールを思いっきり打ち返してきた。
俺は何とかそれをレシーブしたが、ボールはナツキの方へ行ってしまった。ナツキはそれを強く打ち返してきた。そしてそこからは俺がレシーブで返して、またナツキが打ち返すという繰り返しになってしまい、はたから見たら俺のレシーブ練習にナツキが付き合ってくれてるみたいになってしまった。
だがレシーブで返すのがやっとの俺にはこの状況をどうすることもできなかった。そんな俺の状況を理解したのか、ナツキはボールを打つ力を段々と強くしてきた。
「ほらほら、どうしたの?そんなんじゃ私には勝てないよ!」
ナツキは勝利を確信しているのか、俺をあおってきた。
「クソッ!調子に乗っていられるのも今の内だけだからな!勝つのは俺だ!」
正直、食らいつくのがやっとだったが、何とか言い返すことができた。だが、言い返すことに気を取られてナツキの方へ高くボールを返してしまった。
ナツキは俺の返したボールをそのまま打ち返すのではなく、まずトスをしてボールを打ちやすくしてから、ジャンプしてスパイクの態勢を取った。
ヤバい!やられる!
「これで終わりよ!」
ナツキは思いっきりボールをスパイクした。