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私の人生にはいつも猫がいた   作者: 青木幽鬼
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第1章②

私は、小さい時から人見知りが激しかった。何があっても母親の後ろに隠れるような子供だった。話しかけられても首を上下か左右に振ることしかしてなかったから、親戚のおばさんが「はるちゃんは、お耳が悪いのかしら?」と母親に尋ねていたくらいだった。

1980年、6歳になったばかりの私は近所の小学校に入学した。私は3月生まれだったからか他の子に比べて小柄で、読み書きがあまり得意ではなかった。入学してもいままでと同じようにほとんど喋らなかった。

「はるちゃん遊ぼうよー!」、「はるちゃん何してるのー?」

そう言われてもうなずいたり、指をさしたりしかしなかった。そんな私に目をつけたのが、クラスのガキ大将である。「おまえなーんも喋んないよなー」、「いっつもモジモジして毛虫みたーい」

私は、泣いた。どうしたらいいかわからなくて、なんて言い返せばいいのか分からなくて、途方に暮れて、泣いた。

「うわー泣いてるー泣き虫ー!」、「ちょっと!はるちゃんに謝りなさいよ!」、「はるちゃん、大丈夫?」

教室にいろんな声が飛び交う。私はさらに泣いた。今度は、皆に注目されているという恥ずかしさで泣いた。

家に帰ると、弟の卓也が私のモンチッチにトミカをぶつけて遊んでいた。「あっおねーちゃんだ!おねーちゃんおかえり!おねーちゃん!ごりらとくるまどっちがかつとおもう?ぼくはね、ぼくはね、ごりらがくるまをたべちゃうとおもう!」と、右手でモンチッチの首根っこを掴んだ卓也が満面の笑みでこっちに近寄ってきた。今はゴリラと車のどちらが勝つかなんてどうでもいい。卓也を無視して自分の部屋に引きこもった。しばらくして、卓也の泣き声とお母さんの「卓也、どうしたの?お姉ちゃんが何かしたの? ちょっと!春子ー!出てきなさい!卓也を泣かせないの!お姉ちゃんなんだから!」という私を戒める声が聞こえた。

いまは、私が泣きたい気分だ。お願いだから静かにして。

それから、私は丸々3ヶ月学校に行かなくなった。


事情を知ったお母さんは、「春子が行きたい時に行けばいいからね。」と言っていたが内心、焦っていたと思う。父方の祖母が毎週土曜日にある公民館の手芸サークルの帰りに家によって私の様子を見に来ていた。「君子さん、はるちゃんが学校に行かなくなったのは、あなたのしつけが甘いからなのよ。もっとちゃんとしなさい。」と紅茶をすすりながらリビングでくつろいでいるのを障子の隙間から何度も見たことがある。お母さんは悪くないのに。全部私が悪いのに。そんなことを思いながら、とうとう夏休みに入ってしまった。

ある日、お母さんは、右手にチラシを握りしめて私にこう言った。

「塾に行きなさい。」と。塾?あの塾?お金持ちとかが行ってるような?あの?私は、ぽかんとした顔でお母さんを見つめた。それを悟ったようにお母さんは微笑みながら軽く横に首を振った。「ああ、お金持ちの子とがが行ってるような塾じゃなくて、団地の集会所で、近所の子供を集めたこじんまりとした塾なの。勉強だけじゃなくて、遊んだりもできるみたいなのよ。まあ、小学生の保育園みたいなものね。ここなら、春子もきっと仲のいいお友達を見つけられて、同じ学校の子が大半らしいから学校にも行きやすくなると思うの。」

私は、戸惑った。人づきあいが苦手だから行きたくない。でも、これ以上お母さんを困らせたくない。折角見つけてきてくれたのに。すると、お母さんは笑顔でこう言った。「きっと楽しいよ!春子みたいな子もいるみたいだし。何より、先生が70歳くらいのおばあちゃんなんだって。ほら、優しそうでしょう?」右手に握っていたチラシをこちらに見せた。”古賀ツル(75)元小学校教師”と書かれてあり、その上に笑顔のおばあさんの似顔絵がかかれてあった。このとき、亡くなった母方の祖母を想像した。父方の祖母はまだ生きているが、母方の祖母はもう亡くなっている。しかも、お母さんも私も会ったことがない。お母さんが生まれた時に産後の鬱で自殺したらしい。もし、自殺していなかったらお母さんみたいにいつも笑顔でおっとりしたおばあちゃんなんだろうなと思っていた。

私は、塾に行くことに決めた。これから厳しい試練が待ち受けていることをまだ私は知らなかった。


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