蟲化人バイロ
蟲化人バイロ
目が覚めるとマジックミラーの様な湾曲したガラスの筒の中にいた、ガラスの中には水の様な液体が充満していて自分の体はその中で浮くように漂っている。
うん…とこれはまた今までと違うな…徐々に息苦しくなってくると、このガラスの様な容器を壊して外へ出ることにした。
(バキン ガシャン ジャー)
容器が壊れ中の溶液が外へ流れ出す、自分の体を見回すと皮膚は甲羅のようでまるでロボットのように見えた。
しかも目は複眼なのか視覚がまるで万華鏡のように沢山見える、このままだと目が回りそうなので気功術を使い気力を目に集中、視力を一つにまとめるように意識すると数秒後に視覚が統一された。「ここは研究所か?」この部屋には別に緊急用のブザーや検体が逃げ出した時の障害になる檻やゲートもない、ぱっと見て研究所にしてはかなりお粗末だ。
「何処だ?ここ」
多賀は自分の体とその周りを見回し今の状況を探る、気功術は難なく使えている。
研究室の明かりはほとんどなく壁沿いに電子機械やタッチパネル式の医療用とみられる機材が並んでいるがどれも旧式だ、中にはホルマリン漬けのようなものもあった。俺が入れられていたカプセルの様なガラスの筒が4つほど並んでいたが他の筒には何も入っていなかった。
研究員ハムサム
「ん 研究室で音がしたな」
ハムサムは準備室のPCを閉じると少し離れたラボまで調べに行った、この施設は確かに国の施設だがこの施設の研究にはあまりお金を掛けられていない、本来この施設での研究は終わっているはずだからだ。
国にばれると何故まだこの研究にお金を使っているのかと言われかねない、当然ながらその責任を取らなければいけなくなる。
この研究所の研究内容は現在の蟲化人研究とはかけ離れており、最初の研究である人と蟲の融合研究は失敗してすでに終了しているはずだからだ。
最初の研究を捨てきれない研究所の所長が研究内容を偽り、何十年もこの施設で研究してきたわけだ。
だから研究員もこの研究の真の意味はおろか内容がかけ離れているとも理解していない。
検体のデータの取り方も他のラボで行われている蟲の大型化研究と違わないし、記録の内容も解る人間にしかわからないからだ。
ハムサムが研究室の扉を開けると割れた飼育器が残っているだけだった。
多賀は隠れていたドアの陰から出ると研究員ハムサムに隷属の魔法を掛け、この場所や施設のことを質問した。
「心意掌握・ここは何処だ」
「蟲化人研究施設用飼育有建物」
「言語解析、自動翻訳魔法起動」
「ここは蟲化人の研究所だ」
「この国はどこの国だ?この場所は?」
「中国の甘粛省蘭州市の南」
「この個体の名は?他にはいないのか?」
「固体名はバイロ1号、他にはいない」
多賀は研究員から得た情報でおおよその事は把握できたが、まさか蟲化人の体とは思ってもみなかった。
研究員の話によるとこの検体は唯一成功した蟲化人らしい。
性別は今のところオスだが蟻と言うのは女王蟻以外は通常雌がほとんどで1年に一度種族繁栄の為か羽蟻(♂)を産卵する。(新たなコロニーを作るため)
だがこの身体はそれとは違い自然な状態で培養されておらず蟻とのハイブリッドのせいか、悲しいかなこの身体には人の様な生殖器官は見られない、勿論蟻のオスとしての器官も見当たらない。
オスと言う話だがどちらでもない中性的な感じがした、確か蟻がオスを作る場合は特殊な餌を女王蟻に食べさせると聞いたことがある。
さらにこの個体には意思が無い、研究員が言うには脳みそはあれど蟲とのかけ合わせによる不具合なのか魂と言うものがないとの事。
確かに気を纏い脳の中を探ってみてもこれまで生きてきた意思や記憶が感じられない。試験管の中じゃ記憶も作れやしないが、この検体はいわゆる脳死状態に近い、前に他人の体に憑依した時は必ずその体の意志や記憶のかけらを感じることが出来た。
だからこそ1日も掛けずにその時代のその状況に対応することが出来たのだ。
多賀は一通り質問すると着る物を探すよう研究員に求めた、するとロッカールームに通され中から適当にサイズの合う白衣を手に入れた。