60歳おじさんの旅が始まる
60歳おじさんの旅が始まる
(所は変わり主人公であるおじさん美容師は)
12月になりこれから忙しい冬が来る購入した宝くじが当たるのもこの月のはず、今のところワクワクしながら待ち続けているが。
まあ時代が違うだけならば可能性はあるが夢に見た世界が異世界だった場合まったくの無駄に終わる。
月々数百円から買えるお楽しみなのでそんなに期待はしないが、うまく行けば老後は安泰だ。
午前中は掃除や洗濯をし、散らかった部屋の片付けをしておいた。
午後からは駅前の銀行で各種振込みを済ませお楽しみである宝くじを購入、今日の予定もこの後はいつも行くスーパーマーケットで夕御飯の買い物だ。
いつも決まっているメニューは豆腐と納豆それからメカブ、最近増えたのが鳥のレバー実はレバーに含まれる鉄分やビタミン類が足りないと神経伝達速度が遅くなり歳をとると脳の働きに支障をきたすと言う。
独り身の状態ではそこまで栄養を考えることもなかったので、放っておいたのがまずかったのか最近神経痛がひどく腕の上げ下げだけで痛みが走る、ビタミン類もかなり足りていない。
気功術で少しは楽に過ごせるが、そろそろ仕事を止めて田舎暮らしをしようか、とも考えることが多くなってきた。
(宝くじが当たったら田舎に別荘でも買おうか…そんな空想ばかり考える)
今日は娘が家に遊びに来ると言うので夕食と酒のつまみをスーパーマーケットで買うことにした。
アパートに帰ると買い置きの冷凍食品や、今日買ってきた野菜を調理し食事の用意を始める、御飯はすでに炊いてあるのでおかずが足りない場合はレトルトもあるしまあ大丈夫だろう。
娘は今年28歳になり現在は医療関係の事務員として働いているが、なかなかいい男がいないと嘆いていた。
(お前みたいな我儘な娘と付き合う物好きは居ないだろう)
と会うたび俺に性格を指摘されるせいか妻が死んでからは訪れることも少なくなった。
今どきの若者は我儘に育っている場合が多く我儘同士ではうまく行くはずもない、恋愛や結婚は妥協や忍耐そして努力だ、数十年の結婚生活で得た教訓が今でも俺を支えている。
愛情や幸せは一握りのスパイスでしかない、俺は幸せだったと思うよ今でもね。
(お 娘が来た)
「パパ久しぶり」
娘と久々に昔の話しをし、これからの事や彼女の仕事の話などを聞きながら、酒を飲み味の濃い料理に文句を言われ。
思い出の写真を見ながら久々に1人じゃない夜を過ごす、娘はここからそれほど離れていないアパートに住んでいる。
夜遅くまで酒を飲んでも近ければ心配をしなくて済む、秘蔵のワインまで開けて久々の贅沢を味わった。
そして娘が帰った後、片付けながら残ったワインを飲み干すと、ソファに腰かけ開いてあった昔の写真をモニターに写し酒の肴にする。
妻は約2年戦った、膀胱がんだった最初の手術はうまく行ったが約1年後再発、他の臓器への転移が見つかりその後は急激に体調が悪くなるとあっという間にこの世を去った。
(またよくなったら旅行に行こうね…最後の言葉が幾度となく頭をよぎる)
今日は飲みすぎたか…目をつぶるとそのまま俺はソファで眠りについた。