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第54話


私の真剣な表情をみて思う所があったのか、クラリスも真剣な顔つきで「承知いたしました。では、やるべきことをいたしましょう」と、私の手を取って外へと促す。

あまりにも力強い足取りに、思わず思考が停止してしまう。


「え、クラリス、私たちどこに向かっているの……?」

「王城の外です、リリアお嬢様」

「外、って、ギルさまに何も言わずに……」

「実は、この展開を想定しておりましたので、既に執事の方には屋敷に戻ると言ってありますのでご安心ください。ギルさまからのご連絡も、私を通じて受け取れるように手配しております」


冷静なクラリスの話と行動力に私も少しずつ冷静さを取り戻してくる。

確かに、クラリスがギルとの連絡手段を確保しているならば、彼が戻る前に外にでても問題はないわね。後は、グレンが行ったと思われる場所をしらみつぶしに探すしかない。私とクラリスだけでは、きっと日が暮れてしまうだろう。

私たちに力を貸してくれそうな人に、一人だけ心あたりがあった。


「クラリス、あのね、グレンの居場所を探すために力を貸して欲しい人がいるの」

「フロギーの酒場の、マスターさんですね?」

「!」


私の考えや行動の二歩も三歩も先を読んでいるの……?


「え、ええ、お願い出来るかしら……」

「もちろんです。ですが、王城を出てからにいたしましょう」

「……?」


なぜ、王城を出る必要があるのかしら。連絡は今すぐにでもしたほうが良い。そして、伝達魔法は割と簡単な部類と聞くし。

でも、ずんずんと進むクラリスの足取りには迷いがなくて、“王城の外に出る”という行動についても、何等かの理由があると考えられる。


その後、私たちは言葉を交わすことなく、王城外の庭園にある背の高い薔薇の生垣があるところまで移動をした。

黄色い薔薇が今を盛りにと咲き誇り、かぐわしい香りを放っているけれど、今起こっている出来事と、この幸せであたたかな空間の差に眩暈がしてしまいそうになる。


「――ここならよろしいでしょう。リリアお嬢さま、マスターさんにご連絡いたしますね」

「ええ、お願い。グレンの命に危機が迫っていること、そして救出する為にもマスターの力を貸して欲しいと伝えて」

「畏まりました」


マスターなら、絶対に力を貸してくれるはず。

連絡を取って、急いでマスターの元に向かって、探し場所のあたりを付けて、手分けをするなどして……


――本当にそれで、間に合うの?


私の心に不安の魔の手がそろりと差し込まれる。

目の前で伝達魔法を使うクラリスが、やけに遠くに感じられる。

一度芽生えた不安に心が侵食されそうになったそのとき。

目の前のクラリスのそのまた先、薔薇の生垣が風もないのにざわざわと揺れ始めた。

段々とその揺れが大きくなり、光の粒子がどこからともなく表れ、人の形を成していく。


なに、これ? 目の錯覚……?


目をごしごしこすっている間にも、どんどん粒子は密度を増し、

そして――


「リリアさん、そしてクラリスさん、連絡してくれてありがとう」


目の前に、いつもの柔らかな雰囲気ではなく、固い表情をしたマスターが現れた。


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