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第52話


ほどなくして現れたギルに、少しだけ人心地がついた気持ちになる。

でも、相変わらず不穏な緊張感を拭えずにいた。


「そろそろお前たちの式について考える頃合いだと思っている。ギルは卒業してからと以前言っていたが、リリアが学生でなくなった今、早めに婚姻関係を結んでおいたほうがいいだろう。聞けばリリアの行っている仕事も軌道に乗ったようであるし、実務は他のものに任せていいのではないか? お前は経営者として関わればよいであろう」


上の空で会話に参加していたら、女王陛下から突然不穏な発言がなされた。

私には“断る”というカードがない。

うまく返事が出来ず、間を持たせるようにカップを手にして紅茶を一口含む。

心を静めて、この場を切り抜ける言葉を探していると――


「それについて、母上にお伝えしたいことがあります」


ギルの固い声が静寂に終わりを告げてくれる。


「ほう? それは一体何だ?」


ピリ、とした空気で肌に痛みを感じるような気すらする。

それほど、この女王陛下は、“怖い”。

そっとカップを置く手が小刻みに震えている。


そんな様子の私を見て、ギルは安心させるようにそっと微笑んでから女王陛下に向き合い、言葉をつづけた。


「学園に入り、私は様々なことを学び始めました。そこで改めて気づいたのです。この世には、私の知らないことが多すぎるということを。そして、それらをしっかりと把握し、王太子として、また人として成長した上で新たな一歩を踏み出したいと強く思うようになりました。私も、そしてリリアもまだ社会というものを多く知っていません。ですから、母上には本当に心配をおかけしていることは重々承知の上で、せめて結婚を私の卒業を待ってからにしていただくことを、お許しいただきたいのです」


女王陛下を真剣な瞳で見つめ、心をこめて話かけるギル。

確かにここで婚約破棄の話をすればより一層事態は混迷を極めるだろうし、とりあえずはこの場をやり過ごして時間稼ぎをし、そして得た猶予で今後の対策を考えるのが一番いい選択だろう。


女王陛下は言葉の真意をはかるように、何も言わずじっとギルを見つめている。

一瞬が、永遠のように感じられるが、女王陛下がパチン!と大きな音を立てて扇を閉じ、「つまらぬ」と一言告げると、席を立ってしまった。

慌てた執事たちが後を追う様子を、ただただ見つめることしか出来ない。

そして姿が見えなくなると同時に、ギルが大きな溜め息をついた。


「ふー……リリア、突然こんなことになってすまない。母上がリリアを呼んだと聞いて嫌な予感はしていたんだが……。そしてさっきの話も。俺が上手い事母上を説得できていないからこんなころになってしまった。――本当にごめん」

「そんな……ギルさまが謝らないでください……! 元はと言えば、私のお願いから始まったことです。むしろギルさまにこのような役回りをさせてしまい、申し訳ありません」


私が最初に婚約を破棄をしなければ。この状況は回避できたかもしれない。

自分の行動の重さ、そして代償を、今更ながら痛感する。


――そして再びガゼボに静寂が訪れる。

日が差し込み、場の空気とは反対にぽかぽかとした陽気に包まれる中、私の胸元が突然ひやりとした。

一瞬混乱するも、そこにロケットペンダントがあることを思い出し、急に血の気が引く。

慌てて胸元からロケットペンダントを取り出し、中を確認する。

ここには、何かあった時にすぐ気づけるように、グレンとの魔導紙を小さく切り取ったものを入れてあった。

ペンダントを手にする手が震える。嫌。絶対違う。待って。気のせいであって。


そして――

開いたペンダントの中で、魔導紙のかけらが通信相手の危険を知らせる青色に染まっていた。


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