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第51話


「リリア、久しいな。息災であったか」


馬車に揺られて到着した王城では、私の到着を待ち構えていた執事によって庭に設えられたガゼボに通された。クラリスとは途中で別れてしまったので、非常に心細い。

私の知らない時代のリリアはこうして女王陛下にお会いしていたのかもしれないけれど、私がリリアになってから女王陛下にお会いするのは舞踏会以来……。

正直、ちょっと怖い部分がある。


「はい、この度はお招き頂きましてありがとうございます。なかなかご挨拶に伺うこともせず、失礼いたしました」


ガゼボに入る前に、丁寧に礼をして口上を述べる。

どのような距離感なのかを計りかねて、とりあえず問題にならなさそうな会話を心掛けてみたけれど、どうかしら……。


「そんなに固くならずとも良い。ほら、そこへ」


女王陛下は、口元に当てていた扇をパチンと閉じ、空いた席を指し示した。

ダークレッドのドレスを纏い、さわやかな新緑の中に、少しだけ毒をはらんだ薔薇が紛れ込んだように錯覚してしまう。


「はい、失礼いたします」


尻込みしてしまいそうな気持ちをなんとか奮い立たせ、指示通りに腰を下ろした。

そして女王陛下が再び扇を開くと、メイドたちが紅茶の準備を始める。

あらかた準備が整い、メイドも離れたところで再び女王陛下が口を開いた。


「して、リリア。事業は好調なのか?」


口元は笑っているけれど、目の奥が鈍く光っている。まるで品定めをされているようだわ……。絶対に嘘は付けない雰囲気。いや、嘘を吐く必要はないんだけれども。


「はい、おかげ様でみなさまに好評頂き、なんとか経営出来ております」

「ふむ。まさかそんな才能があったとはな。学園もやめたと聞いてどうしたのかと思っていたが、いろいろと考えてのことなのだろう」


――全てお見通しだわ。

ギルの話しぶりからすると、まだ婚約破棄については伝えてないようだったけれど……。

爽やかな日差しが差し込むなか、私の額には冷や汗が浮かんでくる。


「はい、みなさまに私のわがままを聞いて頂き、本当に感謝しております」

「だが――」


私の言葉を遮るように、また扇が高い音を立てて閉じられた。


「一つだけお前のわがままを許す事は出来ない」


つう、と汗が滑り落ちた。


「譲歩して城下町で仕事をすることは許す。だが、グレンと共に働くことは許さない。お前はギルの婚約者だ。その立場をわきまえろ」


射るような視線。口答えは許されない。

どれほどの時間が経っただろうか。

私のが拍動がドッ、ドッと響き渡っているように錯覚する。


「まあ、そうは言ったものの今後は大丈夫だろう。それより最近忙しくてギルとの時間も取れていないのではないか? ここに呼んでやろう」


そして女王陛下は執事を呼び出し、ギルを呼ぶように言いつけた。

――でも、ちょっと待って。

“今後は大丈夫だろう”ってどういうこと……?

今私に釘を刺したから、ちゃんと対処するだろうと思っているということ、だよね……?


ふと感じた違和感。

すっかり冷めた紅茶の味が、全くしなかった。


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