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第5話


半信半疑のクラリスは、抵抗しながらも席についてお茶を飲みながら色々と教えてくれた。


いわく、リリアの両親は健在で、現在は領地の視察で不在にしていること。なんとか入学式には間に合うように帰ってくると言っていたが、現時点で帰っていないのでおそらく間に合わないのではないか、ということ。


「今回のお嬢さまの体調不良の件もご連絡しようと思っていたところなのですが……」

「いいのいいの、お二人を心配させたくないから。だって私は大切な一人娘なんですものね?」


そう、どうやら私はこのロレーヌ家の大切な一人娘で、十六年間蝶よ花よと育てられた。そしてシナリオ通り同い年の皇太子のギルと婚約関係にあるらしい。ギルとの仲は悪くはないようだ。


「それはもうリリアさまは大切にされておりますので、お嬢さまご自身も自由にお過ごしされております。でも、ギルさまの前ではかなり……その、しとやかにされているようでして。ギルさまもお嬢さまのことを大切にしてくださっている様です」


クラリスは言葉を選んでくれているけれど、それって『両親は親バカで娘の自由奔放な行動を許していて、その娘は婚約者の前では猫を被っている』ってことよね⁉︎

リリア……。なかなかやるわね……。

まあ両親が溺愛しているのは好都合だわ。皇太子との婚約破棄なんてちょっと事が大きすぎるもの。問題は“家”に及んでしまうかもしれない。でも、ギルが私のことを大切にしてくれているのなら――。


「ねえクラリス、一つお願いがあるのだけれど」


難しい顔で無言になった私を心配そうに見つめるクラリスに対して告げる。


「明日、学園へ行くための服を用意したいの。でもなんだか趣味まで変わってしまったのか、今あるドレスはどれも好きじゃなくて。もっと私に似合うドレスを用立てたいのだけれど、出来るかしら?」

「もちろんですお嬢さま。ですが、学園の制服は既に用意しておりますが」

「そうね、でも明日は必要ないわ」

「承知いたしました。実はずっと、お嬢さまにお似合いになりそうな生地を用意しておいたのです。日の目をみることができて嬉しいです。早速お持ちしてもよろしいですか?」


瞳が輝き始めたクラリスの勢いに押され頷くと「では失礼いたします!」と彼女は早足で部屋を出ていった。そして数分もたたない内に戻ってくる。


その手には、私の瞳の色と同じ柔らかそうな水色の生地の他、装飾用のビーズや針などの裁縫セットが用意されていた。


「まあ、素敵な色!」


そっと肩から布をあててみると、白い肌をより引き立て、空色の瞳やホワイトベージュの髪にも見事に調和が取れていた。


「やっぱりお似合いですね。原色のものよりもお嬢さまには柔らかい色味の方がいいと思っておりました」


あー、やっぱりあれはリリアの趣味だったか……。棚に詰められた極彩色のドレスを思い返す。


「ええ、これでいいわ。でも仕立てるのに時間がかからないかしら」

「お嬢さま、魔法のこともお忘れですか?」

「あ、そうだわ! この世界には魔法もあるのよね‼︎」

「この世界?」

「な、なんでもないわ!」


すっかり忘れてた! このゲームは剣と魔法の世界が舞台なんだった!

クラリスは訝しげな表情をしたけれど、深く疑問に思わないでくれたみたい。そうして「ではお見せいたしますね」と告げると、手に持った針とハサミにフゥっと息を吹きかけ「お仕事ですよ」と語りかける。


そこから起こったことは、まさに“魔法”だった。


鋏がサッと生地を裁断し、針が勝手に縫い合わせていく。宙を、まるで花から花へと飛ぶ蜂のように舞い続ける。飾りのビーズが繊細な柄を生み出していく様子を、ただ口をあんぐりと開けて見つめるしかなかった。


「完成ですわ」


いつの間に用意されていたのか、トルソーにふわりとドレスがかけられた。

そこには、シンプルで美しい水色のドレスが出来上がっていた。


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