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第49話


しゃきっとしなければいけないのに、ボーっとしてしまう。


「――リリアさん? 大丈夫ですか?」

「あっ、すみません! こちらにサインをお願いします」

「珍しいですね、何かあったんですか?」

「いえ……」


リピーターのお客さんに心配されて、ついグレンに視線を向けてしまう。

彼は――私の狼狽がばからしくなってしまうほど、通常営業だった。

気を引き締めなおして「なんでもないんです!」とにっこり笑顔で対応をし終え、なんとか今日一日を乗り切って一息つく。


いつも営業終了後はクラリスが迎えにきてくれるまで、なんやかんやでグレンも一緒にいてくれる。

他愛もない雑談(主に私が沈黙に耐えかねて話かけるだけなんだけれども)をして時間をつぶす訳だけれど、今日はなんだか心がバクバクして上手に話せる気がしない。


「やけに静かだな」

「そ、そう?」


顔を上げたグレンが、テーブルで一息ついてお茶を飲んでいる私をじっと見つめてくる。そして、おもむろに立ち上がると、私の傍に来て顔を覗き込んできた。

アッシュゴールド髪の毛がさらりと落ちて、長いまつ毛に縁どられた蒼翠色の瞳が私の視線を縫い留めて離さない。

突然の思わぬ接近に、私の鼓動が静寂に包まれた店内に響き渡ってしまいそう。


そしてグレンは、そっと右手を持ち上げて私のおでこに触れた。


「熱は、なさそうだな?」

「―――――ッ!?!?!?!?!?」


グレンの予想外の行動に私の脳がバグを起こす。

グレンの骨ばって大きな手が、予想外に温かくて、優しい触れ方だったものだからもうバグを通り越して故障してしまいそう。

耳と頬がぐんぐん熱を持って行くのがわかる。


「? 熱くなってきたぞ?」

「だ、大丈夫だから……!」


これ以上は危険……! 脳がアラートを出し始めたので、慌てて顔を下に向けてグレンの手から逃れる。


「何だ? 具合悪いなら今日は早く休めよ。お前がそんなんだと調子が狂う」


ポリポリと頭を掻きながら背をむけ、グレンがソファーに戻ろうとする。

でもちょっと待って……? 調子を狂わせられているのはむしろ私のほうなんですけれども⁉


まだ火照りを残したまま、昨日の言葉の真意を尋ねたいという気持ちがむくりと沸き上がり、私はあわてて席を立った。


「あ、あのね、グレン」


グレンの背を追って数歩歩いたところで――

脚がもつれて身体が前にぐらりと傾ぐ。

スローモーションの世界。ゆっくりと振り返ったグレンが、少し慌てた表情で手を伸ばす。


なーんだ、グレンも慌てることがあるのね、なんて冷静な自分もどこかに居て。


そして――

私はすっぽりと、グレンの腕の中に抱きしめられていた。


「あっぶな。お前こんな何もないところでこけるなよ……」


細身の身体だと思っていたけれど、予想に反してがっしりとした胸。

そして、ふわりと鼻をくすぐるシダーウッドの香り。

以外と力強い腕。


もう、だめかも。頭が思考を停止して、言葉にならない。

数秒が、長い時に感じられる。

このまま、抱きしめられていたい。


――チリンチリン

でも、私の想いを遮るように無機質な店のドアベルが鳴って。


「リ、リリアお嬢様……⁉」


店内にクラリスの声が響き渡った。


これにて第五章終了きっとです!

いつもお付き合い頂き、ありがとうございます(*^^)

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