表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/60

第41話


「ハァッ……ハァッ……」


――お願い、何も問題ありませんように。

――どうか、いつもの表情で「何しに来たんだ」って言ってくれますように。


焦燥感だけが募る。

気持ちばかりが急いて、駆けている足がもつれる。でも、今転ぶ訳にはいかない。

一刻も早く、彼の元に行かなくちゃ。


舗装されていない山道。

思わずバランスを崩し、倒れそうになるけれど、並走してくれる人がすかさず手をとって助けてくれる。

とにかく、急がなくては。


どれくらい走っただろう。

だんだんと、緑の草木の香りの中に、不穏な匂いが混じり始める。

――血だ。

嫌な展開しか考えられなくなる。

どんどん前に進めば進むほど、その匂いは濃くなってゆく。


大丈夫、だいじょうぶだから。

自分に言い聞かせて、重たい脚を前へと進める。


そして開けた場所に出て――


血濡れた、彼を見つけた。




「キャ―――――――――――――ッ!」


叫びながら上半身を起こす。

山の中にいたはずなのに、そこは見慣れた私の部屋だった。

まだ心臓がバクバクいっている。


「な、何だったの……」


先ほどの光景を思い出して、涙が零れ落ちた。


「リリアお嬢さま、大丈夫ですか!?」


血相を変えたクラリスが、ドアをすごい勢いで開けて飛び込んできた。

ベッドの上でガタガタと震えている私を見て、何かを察した様子でそっと近寄り、優しく肩をさすってくれる。


「ひょっとして、怖い夢でも見られましたか……?」

「ええ……夢。あれは夢、よね……」


怖い夢。でも、何だろうこの胸のざわめきは。

日本にいた時も何度も悪夢は見た事があったけれど、どこか辻褄が合わない所があったりして、目覚めた瞬間に「夢」だと理解できた。

でも、今回のは――。


「なんだか、夢にしては、とてもリアルだったの……。夢だとは思えないほど――」

「お嬢さま……怖い内容を見られた時に申し上げるのは心苦しいのですが、それは『予知夢』だと思われます」


予知夢。私が持っている能力。

そこで見た夢は絶対に実際起こるという、あの。


「そんな……」


絶句する私を心配そうに見つめたクラリスは、「まずは一旦、落ち着きましょう」と言って他のメイドを呼び、温かいラベンダーティーを用意させた。

湯気と共に私を包み込む香りが、だんだんと心を静めてくれる。


そうして、しばらくしてからクラリスが静かに話し始めた。


「リリアお嬢さまは、過去にも予知夢で悪夢を見られたことがありました。名の通ったセンティアが、魔獣と戦い命を落としてしまう、という内容だったそうです。この世界もまだ魔王軍が猛威を振るっていた時期ではありましたが、そのセンティアも強い事で有名でしたので、我々周囲の大人たちはただの「夢」だろう、と思っておりました」


魔王軍が居た頃、ということは五年以上前の話ね……。


「ですが、それから一か月後。お嬢様が夢で見られたことが現実となったのです。それ以来、お嬢様は何度か夢を見られました。それは全て、現実のものとなったのです」


予知夢の始まりが、センティアが命を落とす様子だったなんて――幼いリリアはきっと心に傷を負ってしまっただろう。


「何回か夢が現実になることを受け、検証が始まりました。それによると、お嬢様は『予知夢』しか夢はみないこと。そして夢の内容は、時期は分からないけれど絶対に起こることが、確認されました。ですから、大変心苦しいのですが、今回みられた夢も、恐らく……」


絶対――。私がギルに婚約破棄をする為に使った能力。

その時に感じた「絶対」との重みが全く異なっていて、軽々しく使ってしまったことを後悔する。ひょっとして、今回の夢はその罰なんじゃないか――


「どうしよう、クラリス……あんなこと、絶対に現実になって欲しくない。阻止する方法を見つけないと」


“絶対に”助けてみせる。

グレン、あなたは死なせない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ