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第4話


――さて。

ひとしきり盛り上がった私は、はた、と我に返った。

そうと決まれば、明日に向けて色々と準備をしなくては。私には主人公のエミリエルが行動した流れしか知らないから、このリリアの情報を集める必要がある。

まずは着替えて……と、洋服が入っていそうな棚を開く。


「う……っわぁ」


突然の原色の洪水に目がくらくらする。

ひとつ取り出してみれば、どぎつい赤にこれでもかというほどの薔薇モチーフの装飾。

ちょっと、リリアにはセンスというものがないのかもしれない。素材はいいのに、纏うのがこれじゃ勿体無いレベル。


「ネグリジェが一番まともじゃない」


着たい服が一切見つからず、ため息をついていると、コンコンと扉がノックされた。


「お嬢さま、よろしいでしょうか?」


きっとさっきのメイドさんだ。ちょうど良い、色々とリリアについて聞いてみよう。


「ええ、どうぞ」


すると、予想通りなにやら良い香りがする食器を持って、先程のメイドさんが入ってきた。


「! お嬢さま、お着替えをされるのにお手伝いが遅くなってしまい申し訳ありません!」


棚の前に立つ私をみるやいなや、バッと頭を下げて突然の謝罪。

え、私何も怒ってないけど……?


「ど、どうしたの? 私が勝手に着替えようとしただけだし、謝るほどのことでもないし」


顔を上げて? と肩に手を置いて声をかけると、「……本当に、リリアお嬢さまなのですよね?」とメイドさんは不安げな表情を見せた。


「実は、お医者さまにはお話しなかったのだけれど、今朝目覚めた時から過去の記憶が曖昧なの。正直あなた名前も思い出せないのよ。でも、皆を困らせたくなくて……。だからお願い、私がこんな状況だというのは、私とあなたの秘密にしてもらえるかしら? そして、私の記憶が戻るように手伝って欲しいの」


怪しまれているなら、早めに状況を説明したほうがいい。そう思い一気にまくし立てると、メイドさんは突然の告白に驚きの表情を見せたものの、「そういう事だったのですね……」と、どこか納得した様子をみせた。


「承知いたしました。私でよろしければ、お嬢さまの記憶の回復にご協力出来ればと思います。では改めまして、私はリリアさま付きの第一メイド、クラリスと申します。お嬢さまからは“あなた”や“おまえ”などと呼ばれておりました」

「え」


ちょっとちょっとちょっと。お世話してくれる人に対してそりゃないんじゃないの⁉︎ リリアは名実ともに悪役令嬢として日々を過ごしていたのね……。


「ごめんなさい。なんだか私、とっても嫌なやつだったのね。今までの事は謝るわ。改めて、これからよろしくね、クラリス」


これからは“私”と関わってもらうんだから、関係構築はちゃんとしなくっちゃ!


「本当に、こんなことが起こるのですね。《《あの》》お嬢さまが私の名前を……」


クラリスは感動のあまり手が震え、持っている食器がカチャカチャと音をたてる。


「ねえ、ぜひ色々と教えてもらいたいし、その良い香りがしているご飯を一緒に食べながらお話ししない?」

「メイドがお嬢さまと卓をご一緒することは許されません」

「良いのよ、だって私たちは秘密の共有者なんだから。それにクラリスが立ったままで私だけ食事をするなんて、とっても居心地が悪いわ」


クラリスの背後に回り、背中を押して部屋の中央に置かれたテーブルセットに誘導すると、「信じられない」とクラリスの呟きが聞こえた。


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