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第35話


両陛下の登場によって会場は水を打ったように静かになったものの、一曲目のワルツの演奏が始まり、フロアに降り立った両陛下が踊り始めると、周囲もそれに合わせて踊り始める。


「リリア、我々も踊ろうか」


そうしてギルは私の手をとると、空いているスペースに移動して、反対の手を私の腰にあてる。クラリスとこの日の為にダンスの練習をしてきたわけだけれど、ギルの整った顔が想像以上に近いし、腰に添えられた手の温もりにドキドキしてしまう。

それに、つないだ手は大きく骨ばっていて、私のちいさな手はすっぽりとギルの手のなかに収まってしまった。


「――信じたくないものだな」

「?」

「夢、だ。どこかでリリアの夢を否定したい自分がいる。君の夢は必ず実現すると知っているのにな」

「ギルさま……」


否定したい。それはつまり、私に対してまだ想いがあるということで。

ギルはあの婚約破棄の出来事があっても、私に想いを寄せてくれているんだわ……。


悲しみを湛えた金色の瞳が揺れる。

この先聖女と出会ってギルが幸せな生活を送ることになるのは知っているけれど、そのために夢の嘘をついたことが、こんなにも彼を苦しめてしまうなんて。


「本当にごめんなさい……」

「いや、いいんだ。それにしても、俺は一体こんな素敵なリリアではなく、他の女性になびくなんて一体何を考えているんだ?」


自嘲気味につぶやいた言葉は、ワルツの調べに溶け込んで消えた。


そう。本当は私が聖女に嫌がらせをすることによって、あなたは私のことを断罪することになるの。でも、その工程が消えてしまった。

まさかここまでリリアがギルにとって大切な人だったなんて、ゲームからは伺い知れなかったわ。

こうなったら……もたもたしている聖女の動きを確認しないと。これ以上推しの切ない顔を見ていられない。


そうしてワルツが終わると、静かに執事が近寄って来てギルに国王陛下からの呼び出しを告げた。


「リリア、すまない。少しこの場を離れるが大丈夫か?」

「ええ、問題ありませんわ。お気になさらないでください」


一人になった私は踊る気になれず、夜風にあたるためにバルコニーに出る。


「ギル、辛そうだったな……」


エイミーがかけてくれた、歩くたびに輝くスカートの魔法の光を見つめながら先ほどのギルの表情を思い返すと、思わず言葉がこぼれてしまった。

――私はこの世界での楽しみを見つけた。だからギルにもしっかり幸せを享受してもらいたい……!


「うん! 絶対に幸せにしないと……!」


決意を込めて顔を上げると、そこには先客がいた。

こちらに背を向けて柵に体を預けている、漆黒の燕尾服を身に纏った男性。

暗闇に浮かぶ月のように、アッシュゴールドの髪が輝いている。


「あっ……すみません。人がいるとは思わず……」


慌てて頭を下げて謝罪する。


「いや、いい。ここを使いたいなら使え。俺は移動する」


どこかで、聞いた声……? それに、この感じ悪いしゃべり方……。

そーっと顔を上げると、見知った顔がこちらを向いていた。


「え?」

「は?」


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