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第31話


馬車に揺られて数分。ほどなくして瀟洒なつくりの店の前に到着した。ショーケースには美しいドレスが飾られている。さりげなく掲げられた看板には『エイミー・ハートリー』と書かれていた。門構えからしてわかる。ここ高いお店だわ。

まだ事業もそこまで軌道に乗っているわけでもないし、ちゃんと払えるかしら……。両親にねだるのもやや気が引けるし……。


「ギルさま、こちらのお店ですか……?」

「ああ、そうだ。我が家もよく世話になっている」

「あの……大変申し上げにくいのですが、おそらくこちらでドレスを作るのは、わたくしは分不相応かと……」


さすがに国王一家が使用するメゾンでドレスを作るのは無理よ!


「何を言っている。リリアに分不相応なものなどないだろう」


そうしてギルは私の手を取ると、反論する間もなく入店してしまった。


「ギル坊ちゃま、お待ちしておりました。そして……まあ、なんと美しい方でしょう。ギルさまからお話は聞いておりましたが、こうしてお会いできる日を楽しみにしておりましたのよ」


そうして満面の笑みで出迎えてくれたのは妙齢の女性だった。おそらく私の祖母位の年齢かしら……? ギルとも付き合いが長いのか、二人の間には柔らかな空気が流れている。

――もうここまで来たら、なるようになれ、ね。お金のことは後で考えよう、うん。


「エイミー、リリアが驚いているぞ。それに坊ちゃまはやめてくれ」

「あら、坊ちゃまは坊ちゃまですもの。そしてリリアさま、名乗らずに大変失礼いたしました。この店をやっておりますエイミー・ハートリーと申します。坊ちゃまがそれはそれは小さいころからお付き合いいただいておりますので、こうして女性をつれてこられる日を心待ちにしていましたわ。わたくしのことはぜひエイミー、とお呼びくださいね」


そうして、エイミーはちょっとだけ不格好なウインクをしてくれた。

なんてチャーミングなおばあちゃんなのかしら。ギルも坊ちゃまと呼ばれているのを口では嫌がっているけれど、まんざらでもなさそうだ。

一つだけ引っ掛かることがあるとすれば、私のことをギルのパートナーとして勘違いしているらしいこと。でもこんなに素直に喜びを表現されると、訂正するのもちょっと心が痛い。


「エイミーさま、初めまして。リリア・ロレーヌと申します。素敵なお店にお伺いすることが出来て光栄ですわ」


とりあえず、ギルも何も言わないので肯定も否定もせずに挨拶をする。おそらく今回が最初で最後だから、今日一日くらいはエイミーに幸せな気持ちでいて欲しいと思ってしまった。


「まあ、そう言っていただけて嬉しいですわ! 今日はきっと来月の舞踏会のドレスのお仕立てですわね?」

「ああそうだ。リリアに似合うものを一つ頼む」

「ええ、ええ、承知いたしましたわ。ではリリアさま、こちらに。ギル坊ちゃまはサロンでお待ちくださいね」


そうして導かれた先の部屋には、壁一面に数多の生地が収納されていた。色とりどり、そして素材も光沢があるものやレースなど、様々だ。


「うわあ……素晴らしい品ぞろえですね……」

「ええ、皆様にご満足いただけるように、世界各国から生地を買い付けてきているんです。リリアさまはドレスについて何かご希望はありますか? もしよろしければ、わたくしがいくつか見繕っても?」


私にはドレスの知識が無く、いつもクラリスに任せっきりだから、エイミーの提案に対して「ぜひお願いいたします」と答える。

そうしてエイミーが部屋の中をちょこちょこ動き回って、中央に備えられた机の上に用意してくれたのは、クリーム色のチュール生地や淡い若草色の生地に金糸で刺繍が施された生地をメインとしたものだった。


「こちらのふたつの生地をメインにお仕立てするのはいかがでしょうか? リリアさまの髪や瞳の色も映え、そしてギルお坊ちゃまの瞳の色味も、刺繍で入れ込んでおりますわ」


相手の色味を自分のドレスに入れるということは、視覚的にも“パートナーである”ということを示すことになる。エイミーに“ギルの色”と言われて、少しだけ逡巡してしまう自分がいた。


「リリアさま? どうされましたか?」


返事をしなかったので、エイミーが心配そうな顔をしている。いけないいけない。今回はギルのためでもあるんだし、ちゃんと役割を果たさなくちゃ。


「ええ、とっても素敵な組み合わせですわ。ぜひこちらでお願いしたいです」

「それは良かった。ではこちらでお仕立てしましょうね」


エイミーはそう言うと、パン! と手を叩いて「さあみんな! はじめるわよ!」と高らかに宣言した。


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