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第30話


その後、ボリスのパーティーは無事に討伐を完了して、リリーフィオーレに戻ってきてくれた。賞金の分配もすでに決まっているから雑念もなく、各人の連携もスムーズに行ったとか。道中も特にトラブルもなく、仲間割れの危険もなかったようで、さっそく次の討伐にも同じメンバーで行くことを決めたらしい。


「本当に大丈夫か心配だったけれど、よかったわ」


二回目の討伐契約書を眺めながら、やりたかったことが実際に軌道に乗せられたことに安堵する。本当に良かった……。


そうしてうまく事が動きはじめると、いい風が吹くもので。

リリーフィオーレには話を聞いたセンシャルが扉を叩き、登録者数が増えたリリーフィオーレは相性のいいパーティーをどんどん生み出すことができる。


まさに、好循環ね。それにしてもいつまで一人で回せるかしら……? 嬉しいことにボリスたちのようにリピート利用も増えているし、そろそろ事務要員も欲しいわね。グレンにできれば一番いいけれど、一応用心棒って扱いだし、そもそも仕事をしてくれる様子が全くもって想像できない。


――そんなことを考えながらも、慌ただしい平日を何とか一人でこなして迎えた週末。


「やっっっと休みだ―――――っ! もう休む。今日は休むわよ」


痛いくらいの朝日が差し込んで目が覚めてしまったけれど、今日はもう休むと固く心に誓ったので、もぞもぞと再びベッドの中に潜り込む。こんないい天気だけど問題ないわ。むしろいい天気だからこそ、二度寝するのよ……!

微睡に身を委ねてだんだんと夢か現かわからなくなったとき、クラリスの声で私は現に引き戻された。


「お、お嬢さま‼ ギルさまが……ギルさまがいらしております……!」

「え?」


思わず間抜けな声が出てしまった。

ギル? こんな朝っぱらに? 訪問? 先ぶれもなしに?


「なにやら、お嬢さまとお出かけがしたいとのことでして……お仕度がすむまで、いくらでも待つと仰られております」


お出かけする理由は、きっと今度の舞踏会の衣装など必要なものを準備するためかしら。この間別れ際に『追って連絡する』と言っていたけれど、まさか本人がやってくるとは思ってもみなかったわ……。


「わかったわ。早急に準備をしなくちゃ」


そういうや否や、クラリスは承知とばかりにほかのメイドを呼び出して私の身を清める準備をする。手練れのメイドたちによって綺麗に磨き上げられた後は、外出用の淡いローズピンクのドレスを着せられ、髪をハーフアップするのと同時に、ほんのり色づいたメイクも施された。


「まるで昔観たキャスパーの装置みたいね……」


私が大好きな映画に、レールの上に載せられた椅子に座っているだけで、朝の支度が完成するという夢のような装置が描かれていたのだ。

今の私も、椅子はないけれど静かに佇んでいるだけですべての準備がなされていく。


「お嬢さま、完成です。今日もお美しいですわ」


クラリスの声で我に返り、目の前の鏡を見ると、花がほころぶような美しい少女が立っていた。クラリスをはじめ、メイドたちも満足げな表情をしている。正直、すごい。彼女たちが元居た世界でトータル美容サービスを始めたら絶対人気が出ると思う。技術力がすごすぎる……。


「みなさん、短時間でここまで仕上げてくださってありがとう。さ、ギルさまの元へ向かいましょうか」


感謝の気持ちを述べたところ、まだ慣れないのかクラリス以外のメイドは驚いていたけれど、すぐに皆気持ちのいい笑顔を見せてくれた。




我が家のサロンは庭園のバラに面して作られている。ちょうど今時期が満開で、開け放った窓からは優しく甘い香りが漂っていた。


「ギルさま、大変お待たせいたしました」


バラの花を見つめているギルに入口から声をかける。今日は学園の制服ではなく、深緑の生地に金糸の刺繍が入った細身のスーツを身に纏っている。ギルの四肢の長さが際立ち、髪の色も映える素敵なデザインだった。


ふ、と振り返ったギルは私を見てやや驚いた表情を見せたけれど、その後何事もなかったかのように「リリア、突然すまない。こんなに性急に舞踏会の準備をしようとは思っていなかったんだが、あまりにも天気がいいからつい来てしまった」と、視線を彷徨わせながら言ってきた。


「天気がいいから、ですか……ふふっ」


思わず笑みがこぼれてしまう。天気がいいから来ちゃうって、なんだか夏休みの子供みたいだわ。

どうやら私の周りには少年の心を持った男性が多いみたいね……?


そうして、ギルにエスコートされながら私たちは馬車に乗ってタウンハウスエリアにあるオートクチュールメゾンへと向かった。


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