第24話
「へえ、そんなことがあったとは、面白いねえ。僕も食べるのが楽しみだよ」
今日は『リリーフィオーレ』の定休日。開店してから少し時間が経ってしまったけれど、やっとマスターを招待することが出来た。グレンにも声をかけたけれど、来る確立はきっと3%くらいね。
「お待たせしました、お口に合うかわからないですけれど……」
コトリ、と唐揚げを盛った皿をマスターの前に置くと、マスターは丁寧な所作で「いただきます」をした後、一つ口に頬張り「う~ん、これは確かにおいしいねえ」と破顔した。
◆
「――で、リリアさん、グレンとはどう? 上手くやってる?」
あっという間に唐揚げを平らげ、食後の紅茶を飲みながら最近のことを話していると、マスターが切り出してきた。
「上手く、かどうかはわからないですけれど。基本的にソファーで寝転んでいるか、ご飯食べているかのどっちかです。でもまあ、いてくれて安心感があります」
「そっかあ、態度はアレだけど、グレンがちゃんと店に来ている事が僕は驚きだけどな。きっと居心地がいいんだろうねえ」
そうなの? 口を開けば文句しか出てこないし、基本的にだらだらしているだけだけど。一応店にはちゃんと来てくれていることが、特別なことだと認識していなかったわ……。
「グレンはね、自分が嫌だと思ったことはしないし、そのあたりははっきりしている奴だよ。リリアさん、これからもグレンのことをよろしくね」
マスターが優しいほほえみで語りかけてくれる。きっとマスターなりに、グレンがずっと酒場に入り浸っていることや、仲間を見つけられないことを心配してたんだろうな。
「ええ、少しずつ、ちゃんと仕事をしてもらえるように頑張ります」
「はは。さすがリリアさんだ。僕も安心していられる。リリアさんも、早く魔法がつかえるようになるといいねえ」
「ええ、本当に。まだ魔法使いのお客様は少なくて、技を盗み見る機会もなかなかないんです」
「それにしても、魔法が使えなくなるなんて厄介なこともあるんだねえ……」
カチャ、とマスターがカップを置く。
そうして、マスターは優しい菫色の瞳をすう、と細めて――
「で、きみは一体だれなのかな?」
静かな店内に、マスターの固い声が響いた。




