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第2話


ぱち、と目を覚ますと、天蓋があった。ふわりと柔らかそうなオーガンジーが周りを囲っている。

見慣れない風景に戸惑いつつも上半身を起こす。


「ここ……どこ?」


暮らしているはずの8畳1Kの家とは程遠い、広い部屋に高級そうな調度品。

天井からはシャンデリアが堂々と下がっている。

そろりとベッドを抜け出すと、自らも柔らかなネグリジェを纏っている事に気づいた。

色々な事が、記憶と一致しない。

豪華な装飾が施された鏡台の前に立って、ますます困惑した。


「あなた、誰……?」


そこに居たのは、柔らかくウェーブがかかったホワイトベージュの髪の毛を腰まで伸ばし、さわやかな夏空を思わせる水色の瞳を携えた少女だった。目は大きく、鼻梁が通っている。間違いなく美少女の部類に入るだろう。

おもわず鏡に前のめりになって見つめていると、背後の扉が開く音がした。


「お嬢さま、おはようございます。お早いお目覚めですね」


いわゆるメイド服を着た女性が入ってきた。

私と同じくらいの年齢かな……?


「お、おはようございます」


私の選んだ言葉が間違っていたのか、メイドは驚いた表情を見せた。


「リリアお嬢様……お熱でもあるのですか? ご様子がいつもと違うようですが」

まずい。よくわからないけれど、一旦ごまかしたほうが良い気がする。

「え、ええ、そうね、ちょっと体調がすぐれなくて……もう少し横になっていてもいいかしら」

「もちろんです。念のためお医者様をお呼びいたします。あとでスープをお持ちいたしますね」

「ありがとう……」


最後の感謝の言葉にもぎょっとした様子を見せたメイドは、そそくさと部屋を後にしてしまった。


「てか、なにこれ―――――?!」


何となく、状況は理解した。

これ、あれだわ。転生ってやつだわ。

私が最後の記憶としてあるのは、いそいそとコンビニにビールを買いに行って、それから道路を渡ろうとしたら何かにぶつかった……という事。

きっとここで、私の身に何かあったに違いない。


そして今のこの鏡に映るお嬢さん、彼女はまさにプレイしようとしていた【聖女と12人の騎士】に登場する、聖女・エミリエルのクラスメイト、リリアだったはず。

でもリリアって……


「主人公を妨害してくる悪役令嬢ポジじゃん……」


そう、かなり昔の記憶だけど段々と思い出してきた。

このリリアお嬢さんって、聖女ほどじゃないけれど魔力に秀でてるから学園に選抜されて、クラスメイトとして存在するんだよね。

優秀な公爵家のご令嬢ということもあって自分が一番ちやほやされていたんだけど、突然庶民のポッと出女子が聖女として学園に入学してきて、注目されなくなるのに腹をたてちゃって。

挙句の果てに自分の婚約者である皇太子のギルとエミリエルが仲良くなっちゃうから色々な策略を企ててエミリエルの邪魔をするキャラクターなんだよなあ……。

まあ、ギルは攻略対象だから仕方ないんだけど。私の推しだし。


ゲームでは常に目を吊り上げてるイラストしか見てこなかったけれど

こんなに柔らかい印象の女の子だったとは。


「可愛い。かわいいけど、私死んじゃってこれからリリアとして生きるってこと?」


いやいやいや、ひょっとしたらビール一本しか飲んでないけど、悪酔いの結果変な夢をみてるだけ、って事もある。


「よし、寝よ」


きっともう一度寝て起きたらすべて解決する気がする。

ふかふかのベッドに身体を滑り込ませると、ほどなくして睡魔が訪れた。


そして――


「お嬢さま、お医者様がいらっしゃいました」


わたし、一条雪は、リリアとして生きていく事を決めた。

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