表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/60

第15話


「あん? なんだ兄ちゃん。こっちは仲良くやってんだわ。お前が入る隙はねえっつーの」

「そこの彼女は嫌がっているように見えるが?」

「お前に関係ないだろ」


こちらが暗がりだから、黒い人の表情が良く見えない。


「た、助けてください!」


お願い……助けて……。


「はぁ、魔物よりもタチが悪い人間もいたもんだ」


そう言うやいなや、黒い人は瞬間移動でもしたような速さで私たちの目の前に立ち、男たちの首筋に手刀を入れた。


「グフっ」

「ぐぁッ」


一瞬の出来事で、彼らも何が起こったか分からないうちに昏睡したのだろう。

掴まれていた腕は赤い痕を残して解放された。

そして、私もまるで狐につままれたような気持ちだった。

あまりにも、一瞬で終わってしまったから。


「あ、ありがとうございます」


下を向いて首をコキコキする黒い人にお礼を言う。

全身真っ黒だったから余計影のように見えたの……ね……? ん?


「あ―――――――――っ! 態度悪男―――――――!」


また思わず指をさしてしまった。

黒い人は、まぎれもなくあの態度が悪い剣士、グレンだった。


「またお前か……。俺には何か役病神でもついているのか? 《ラツク》を上げる装備でも買うか」


相変わらず今日も態度が悪すぎる。心の底から嫌そうな顔をしている。

でも、今回は本当に助かった。


「その、助けてくれてありがとう」

「礼はいい。それにしてもなんでこんな道を通ったんだ。マスターも言っていただろう。この町にはこういう奴らも集まってくる。お前みたいな奴が一人で無防備に歩ける場所じゃない」

「それは……確かにちょっと意識が足りなかったわ。でも、どうしてもまたフロギーの酒場に行きたかったの」


もちろん色々観察したいという気持ちもあったけれど、あそこはなんだか居心地が良かった。お屋敷にいて、限られた人としか交流しない中で、外の人と会話出来ることが純粋に嬉しかった。


「まあいい。俺には関係ないが、忠告したからな。あとは自由にしろ」


そう言うと、くるりと黒革のコートを翻し、スタスタと歩き始めてしまう。

レディが怖い思いをしたんだから、もうちょっと慮る言葉を掛けられないの!? と思うけれど、態度悪男だからしょうがないか。早くこの場を去って、フロギーの酒場に行こう。ならず者も来るかもしれないけれど、マスターが居ればきっと大丈夫な気がする。

そして、一歩を踏み出そうとした時に、足首に鈍い痛みが走った。


「いった……」


どううやら最初に男の足を踏みしだいた時、足首をひねってしまったらしい。絡まれている最中はあまり感じていなかったけれど、安心を得た今になってズキズキし始めている。

ヒールを脱いで歩きたいところだけれど、道に何が落ちているかは分からないし、怪我をして今よりも状況を悪化させてしまうかもしれないし……。

仕方ない。我慢してひょこ、ひょこ、と歩き始める。ヒールが石畳を打ち、変則的なリズムを奏でた。


「――おい」


ほんの数メートル歩いたところで声を掛けられる。

ずっと足元を見ていて気付かなかったけれど、顔を上げればすぐそばにグレンがいた。


「その足、どうしたんだ」

「さっきのゴタゴタでひねっちゃったみたいで……って、あなたまだ行ってなかったの?」


グレンは蒼翠色の瞳を私の足首に据え、相変わらず眉間を寄せてムスっとした表情をしていたけれど、何を思ったか突然右ひじを突き出してきた。


「ん」

「えっ?」


な、何? 突然のひじ攻撃……? 全然届いてないけど……。


つかまれ」


思わぬ申し出に頭が混乱してしまう。嘘でしょ? 態度悪男が? 歩くのが大変そうな私を支えようとしてくれている?

まじまじと、ひじを見つめてしまう。っていうか革のコートとか暑そう……。


「必要がないなら、いい」


あまりにも私が何も言わないことに痺れを切らしたのか、グレンはすっと腕を下ろしてしまった。


「あ! ちょっと待って! ありがたく摑まらせていただきます!!」


――なんだ、態度悪男にもいいところあるじゃない。

ちょっとだけ見直して、小声で「失礼しまーす……」と言いながら腕に摑まる。

革のコート越しに、その下のしっかりとした筋肉を感じた。ちゃんと鍛えているのね。


「フロギーの酒場でいいんだな?」

「ええ!」

「酒場までだからな」


そうして、私はグレンに支えられながら、ゆっくりと歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ