表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/60

第13話


「なっ……世間知らずですって!?」

「それ以外に形容する言葉があるか? ここは明らかに未成年のお前が、そんなひらひらした服で来るような所じゃない」

「だって……」


確かに一理ある。でも、私にだって理由があるんだから。

口を開いて反論しようとしたところで、マスターが助け舟を出してくれた。


「まあまあ、グレン。こちらのお嬢さんも初めてらしいし、どんな店かわからなかったんだろ。ほら、椅子に掛けて」


グレン、と呼ばれた剣士は「フン」と鼻を鳴らして私から視線を外した。

ていうかなんでこんな初対面でボロカス言われなきゃならないのよ。店の前に入店制限なんて書いてなかったし、ちゃんと入口から入ったのよ? なによ。ちょっと顔がいいからってなんでも言っていいわけじゃないんだから!

言いたいことは山ほどあるけれど、私もレディですから。グッとこらえて席に着く。


「はい。これを飲んだら帰るといい。ここはね、魔物討伐の仲間を集めるための酒場なんだ。だから、あまり大きな声じゃ言えないがならず者だって来る。そんなところにこんな可愛いお嬢さんひとりでやってくるのはあまりお勧めできないな」

「はい……」


殊勝に返事をして出された飲み物を口にする。優しい甘みが喉を滑り降りて行き、少しだけ冷静さを取り戻した。

あとは静かにクラリスを待とうと思ったのに――


「はん、可愛いだって? マスターちょっと目が悪いんじゃないか?」


はい、第二ラウンド決定。売られた喧嘩は買いますけれども? 私をその辺の静かなお嬢さんだと思ったら大間違いよ! 後悔しても遅いんだからね!


「あなたね……!」

「お嬢さま!!!!!!!!!!」


私のグレンへの怒りの言葉は、それよりも大きな声でかき消された。

呼び声がした入り口へ目を向けると、静かに怒りを湛えた表情のクラリスが仁王立ちしている。

あ、これやっちゃったやつだ。

直前まで抱いてきたグレンへの怒りはしゅうっと急速に萎む。

完全に私が悪い。ちゃんとお怒りを受け止めよう。

 

「クラリス、はぐれちゃってごめんなさい!」


ツカツカと傍まできた彼女に、素直に謝る。


「ご無事でいらっしゃって安心いたしました。本当に、良かった……」


怒られると思っていたけれど、彼女は眉尻を下げ、ほっとした表情をしていた。額には大粒の汗が浮いている。きっと、必死に探してくれたんだわ。


「本当にごめんなさい。私、少しはしゃいでしまったの。でも、ここならいつかクラリスに会えると思って……」

「ええ、ある意味目立つ店にいてくださったので見つけやすくて助かりました」


「お嬢さん、迷子だったのかい。お連れの人に会えてよかったねぇ」と、マスターも優しい声をかけてくれる。


「リリアお嬢さまにご親切にして頂いたようで、ありがとうございます」


クラリスがカウンターに置かれた飲み物を見てマスターにお礼を言うと、グレンが「リリア……?」とつぶやいた。


「リリアさま、こちらの方はお知り合いですか?」

「いいえ! 全く知らない方です」

「そうでしたか。それではもうあたりも暗くなってきましたのでお屋敷に帰りましょう」


グレンとの会話は最早なかったことにしましょう。

それにしてもいつの間にか時間が経っていたのね。店内は窓も少なくて薄暗かったから全然気づかなかったわ。


「ええ。マスター、お騒がせしてごめんなさい。飲み物とても美味しかったわ。ありがとう。また来るわね!」


そうしてくるりと踵を返し、店を後にした。



お騒がせ少女が去った後の店内は相変わらず喧噪につつまれていた。


「また来るわね、って言ってたけれどこちらの話を全然聞いてなかったってことなのかなあ」


彼女が置いて行ったグラスを洗いながらマスターは苦笑する。


「リリア、って言ってたよな?」

「ああ、そうだね。グレン、知ってるのかい?」

「いや――」


天井から下がったオイルランプの芯がジジッと音を立て、光を揺らした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ