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第11話


城下町に降り立った私は人の多さに圧倒されてしまう。

今まで高級住宅街のような貴族のタウンハウスエリアにいたから、まさかこんな世界が広がっているなんて思ってもみなかった。


「す、すごい……こんなに人がいるのね!」

「ええ、お嬢様。ここでは私からはぐれないようにして下さいね。残念ながらいい方ばかりではありませんから」

「大丈夫よ! だってお母さまが《加護》? を授けてくださったでしょう?」


そう。私がこの城下町に来ることを心配したお父さまとお母さまだったけれど、お母さまが私に《加護》の魔法をかけてくれた。どうやら不運な出来事を避ける確率を上げてくれる魔法らしい。

それはお母さまの家系に代々伝わっているものらしく、「気休めくらいのものですから、ちゃんとクラリスのいう事を聞くのですよ」と念を押してきたけれど。


でも私もいい年した大人でしたからね! はしゃいで迷子になるなんてことはないから安心して! 


「――ね! クラリス!」


……あれ?


周囲を見回してもクラリスがいない。

あら?

左右に並ぶお店を眺めるのが楽しくて、ずんずん進みすぎたかもしれない。


「ク、クラリス~……」


早速やっちゃったわ。

この世界ではもちろん携帯なんてないし、基本的な交信手段は手紙らしい。魔法が使えればその限りじゃないみたいだけれど。

でも、今の私は魔法が使えないし、手紙じゃリアルタイムでやりとりできない。

こういう時はどうすればいいんだろう。馬車は一旦帰してしまったし、降りた場所へ戻るにしても、もう分からない。こういう時はこの城下町で人が集まる場所に行ったらいいかしら……。

私がプレイしているゲームで人が集まる場所といえば……


「酒場!」


城下町に不似合いなドレス姿で「酒場!」なんて叫ぶ私のことを周囲はやや奇異の目で見つめてきたけれど、のっぴきならない状況ですもの。

そうして、ちょうど横にいた男性に声をかけた。


切れ長の目に光る蒼翠色の瞳が、横に流したアッシュゴールドの前髪の合間から覗いている。眉間は寄せられていて、どうやら私、警戒されているみたい。

全身を見てみると、黒革の長いコートに黒いベルトが沢山ついたロングブーツ。腰回りや太ももにもベルトが巻かれていて、その手には長剣があった。


――この人絶対剣士でしょ! ラッキー! 酒場の場所を知らないわけないよね!?


「ね、突然ごめんなさい。あなたこの町で一番大きい酒場を知っているかしら?」

「知らん」


真顔で即答だった。そして言葉が宙に溶け込む前に、既に雑踏の中に消えている。

なによ。すっごい感じ悪い。

地下鉄のホームで肩あててくるおじさんレベルで感じ悪い。

っていうか、場所くらい教えてくれても良くない?

お母さま、《加護》効いてないです!


プリプリしながら何となく人の密度が濃そうな場所に向かっていくと、開けた場所に出た。どうやらここは、広場になっているらしい。ぐるっと円を描いた広場の周囲には、様々な店が並んでいる。


その一画。入口の前に大きな掲示板を出している店があった。

ひょっとしたら、市民の交流でメッセージを残したりできる場所かも? と思い近寄ってみる。


「あら? これってもしかして、討伐依頼書?」


それは全て、魔物の名前、出現場所、倒す難易度、倒した場合の賞金額などが書かれた紙だった。じっと眺めていると、「ちょっとごめんよ」と言って体格のいい男性が一枚取って店の中に入っていく。


入口の上に掲げられた看板に目を移すと、【フロギーの酒場】の文字。


「ビンゴ!」


そうして私は、ヒールを高く鳴らしながら両開きの木の入り口に手を掛けた。


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