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 お父さんから聞いた、観司郎さんの思い出。


 観司郎さんは家を継がなきゃならない重責に耐えられず、学生時代はかなり荒れていたそうだ。家出をして、友人たちの家を転々と渡り歩いていたのだと。(特に炎谷さんは献身的に支えていたとか)そんな中で唯一、夜羽のお母さんである真理愛さんとの出会いだけが救いだった。


 それでも大人になった観司郎さんは、実家の意向に逆らえず連れ戻され、他の女の人と結婚した。家を捨てて働こうにも、手を回されてどこにも雇ってもらえなかったらしく、真理愛さんも身を引こうとした事で、観司郎さんはついに屈せざるを得なくなったのだ。


 どうして観司郎さんは、それほどまでに憎んでいた大人と……自分が受けた仕打ちと同じ事を夜羽に強いるんだろう? 彼自身、逃れようとして諦めた事で、そんな大人たちと同類に染まってしまったんだろうか。


 それとも……?


「生意気言ってんじゃねぇ。甘ったれたガキが、親の庇護なしで生きてけるわけねぇだろ」

「お父さんが言ったんですよ、嫌なら高校やめてでも働けって。

だけどミトちゃんのお父さんに聞いたら、奨学金制度なんかもあるから、挑戦してみたらどうかって……すごく大変な事だけど、ミトちゃんと一緒にいるためなら僕、やってみたいと思ってる」


 お父さんと相談していたのはこれだったのか。あのぽやーっとした夜羽が、将来の事をしっかり考えてるなんて……しかもそれが、私のためだなんて。どうしよう、すごく嬉しい。こんな時に何だけど、何かこう、プロポーズみたいで。


「それだって無償じゃねぇし、住む場所はどうするんだ。俺や杭殿カンパニーが裏で手を回して、どこ受けても不採用にさせるとは考えねえのか」

「ああ、それってお前が親にされた事だよな」


 観司郎さんの説得に、お父さんが割り込んできた。観司郎さんは目を剥いて睨み付けてくる。


「午男、てめぇ他人の息子になに吹き込んでくれてんだ」

「何が他人の息子だよ。三田を隣に住まわせたのも、どうせお前の差し金だろ? おかげで夜羽君の事も生まれた時からよく知ってる……少なくとも、父親のお前よりはな」

「……鶴戯から、随時報告は受けている」

「だが直接会ってはいないし、触れてもいない。お前、赤ん坊の頃の夜羽君を抱っこした事はあるか? 子供はすぐに重くなるよな。高い高いや肩車や飛行機はしてやったか? 一緒に風呂に入ったり、休日に釣りや遊園地に連れてってやったりは?  

お前のは所詮『知ってる』程度だ。お前自身が体験したわけじゃない」


 ガツッ


 その瞬間、お父さんが殴られたので悲鳴を上げる。ひえっ、大人同士の喧嘩こわい……

 駆け寄って支えようとするが、お父さんは二、三歩たたらを踏んだ程度で踏み止まっていた。


「昔よりは威力が落ちたな。なまったんじゃないか?」

「手加減したに決まってるだろ。……お前には世話になったからな」

「だったらついでに夜羽君の事も、働いて返せるようになるまではうちで預かってやる。どうせ今までもそうやってきたしな……いっそ入り婿として美酉が養うっていうのはどうだ? こいつ、お前に対抗するために茂久市六に乗り込んで、OBと話しつけようとするくらい夜羽君に惚れ込んでるからな」


 お、お父さん本人の前で言うのは恥ずかしいからやめて! 夜羽も私と同じくらい赤くなって俯いている。楽々ヱさんは「へえ、やるじゃない」と茶化す気満々の笑みを浮かべているし、観司郎さんもこれには驚きを隠せないようだった。


「鶴戯、夜羽の女ってのは()()()()()()なのか?」

「ええ、まあ……幼い頃から、こうと決めたらどんな無茶な事でもやり遂げるので、見ていてハラハラし通しでした。もっとも、坊ちゃんはそういうところに惹かれていたようですが……」

「そうか……真理愛は大人しかったから、そこらへんは違うんだな」


 やめてー!!(恥)



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