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 プップクプー! パラパラパッパッパー♪


「うるさっ! 着メロこんな曲だったっけ?」


 月曜日、耳障りな音に飛び起きてスマホを確認すれば、夜羽からだった。途端に昨日の事を思い出す。ヒロシ先輩が浮気してて……別れるために着拒して、ついでに先輩からお勧めされてた着メロも腹立ったんで変えたんだった。夜羽はいつもモーニングコールをかけてきてくれるので、一発で起きられるようなのがいいと教えてくれたのが、このラッパの音だ。


「てきめんじゃん……」

『おはよう美酉ちゃん、起きてる? 辛いなら今日は学校お休みする?』

「目が覚めたよ……うん、別に気を使わなくていいよ」


 辛いなら、という夜羽の言葉に苦笑する。小さい時から泣き虫で気が弱い彼ではあるけれど、人の心の痛みが分かる優しい子なのだ。これでもうちょっとだけでも度胸があればねぇ。


 朝の支度を済ませて玄関のドアを開けると、夜羽は待っていてくれた。いつも通りの光景――どうしてそんなに朝早く起きられるのか聞いてみたところ、炎谷さんが毎朝起こしてくれるんだそうだ。私だって目覚ましかけて母からも直接起こされてるのに、それでも最終的に夜羽からのモーニングコールが来るまでは起きない。

 ひょっとして、夜羽がいないとダメなのは私の方なんじゃ? と思いかけて首を振ると、訝しげな顔をする夜羽を伴って学校に向かった。



 私の幼馴染み、角笛夜羽には家族がいない。彼の母親がうちの隣に越してきた時の表札は【三田】さんだったと聞いている。その頃既にお腹が大きくなっていた『三田』さんは、お手伝いの炎谷さん以外にほとんど誰とも接触せず、夜羽を産んで二、三年で亡くなった。そして炎谷さんは幼い夜羽を施設に預ける事なく、あの家で引き続き育てているので、両親も私も炎谷さんが父親だと長らく思い込んでいた。

 だけど表札が【角笛】に変わった事から、夜羽の出自には何か深い訳がある事が察せられた。炎谷さんは隣同士のよしみで親しくしてくれるけれど、この辺りの事情には踏み込ませず、また両親もあまり他人の家の事に首を突っ込むべきではないと判断した。


 夜羽は、親がいなくてもすくすくと良い子に育っていった。炎谷さんが親代わりだったし、私たち輿水家とも家族同然の付き合いをしてきた。金銭的にも困っていない……ただ、やっぱり寂しかったのだろう。

 彼は気が弱く、甘えん坊で泣き虫だった。いじめっこに威嚇されるとすぐに涙目になって私の後ろに隠れてしまう。そんな彼を情けないと叱りつつも、可愛い弟のように思ってきた。いつかは、こんな関係でいられなくなる事を予感しつつも。


 夜羽との穏やかで優しい日常が、いつまでも続くと、根拠もなく思い込んでいた。



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