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 夜羽が話し終えると、沈黙が訪れる。項垂れた彼の頬からは、また涙が伝って床にポタポタ落ちている。

 私は、憤りとやるせなさで拳を握りしめた。夜羽のお父さんがどんな人なのかは、直接会ってないから知らない、けど。こんなのって酷過ぎる。今まで放置してたのに、勝手過ぎるよ……


「夜羽はそれ、受け入れちゃったの」

「だって! あの家は売りに出したって言われたし、逆らったらもうここの高校通えないし……そうしたら、ミトちゃんにも会えなくなる」

「でも、今まで通りの生活を続けるには、婚約しなきゃいけないんだよね。どうするの、夜羽。あんた今、二股かけてるんだよ?」


 私は今、すごく残酷な事言ってる。最低な家族と引き替えに裕福な今の暮らしを捨てて、それでも自分を選んでみせろと。自分だったら、できるわけないくせに。勝手なのは、私も同じだ。


「う、グス……ッ、僕ミトちゃんと別れたくない。でもサングラスがないと、鶴戯がいないと何もできなくて……ふえぇ」

「まあ、こんなところにいらしたのですか。いけませんよ、学生は勉強が本文なのですから」


 その時、杭殿つばさが階段を上ってきた。私が睨み付けてもどこ吹く風で、にっこり笑って夜羽にハンカチを差し出す。夜羽の方は私の反応を気にして、手を出せずにいるけど。別に、涙でも鼻水でも好きなだけ拭けばいいじゃん。


「輿水さん、何か勘違いなさっているようですが、角笛社長はあなたたちを別れさせる気はないんですよ?」

「あんたはさぁ、それでいいの? 言っとくけど、重婚は犯罪だって知ってるよね?」

「もちろんですわ。だから夜羽君のお母様同様、あなたも恋人関係を続けてよいと申しているのです」


 恋人と言うか、愛人だよね。私にそれをやれってか、ふざけんな!


「それで夜羽が、夜羽のお母さんがどれだけ苦しんできたと思ってるの!? どれだけ寂しくて、孤独を味わってきたか……」

「ですが、それを選んだのは真理愛様でしょう? お辛いなら角笛社長と別れる事だってできたのに、自ら日陰者になる道を選んだ。ご両親が決められた事を、私たちがあれこれ口を出しても、どうにもなりませんわ」

「私は嫌だからね。夜羽、あんたはどうなの」


 二人から注目されて、夜羽はピャッと飛び上がるとポケットをゴソゴソする。サングラスはもうないのに……思った以上にまだ『赤眼のミシェル』への依存が抜けていないようだった。


「夜羽君、私はちゃんと理解してますから。お寂しいのでしたら、輿水さんと三人で暮らすという手も……」

「だから戦国武将の家庭かっての。夜羽、はっきり言ってやってよ」

「ふえぇ、あううぅ……」


 パニックを起こした夜羽は目をグルグル回して奇声を発している……あ、ダメだこれ。


「もういい、じゃあね!」

「あ、ミトちゃん……」


 踵を返して階段を下りようとすると、弱々しい声を出されるが……ここで手を差し伸べれば、今までと変わらない幼馴染みでしかなくなってしまう。私におんぶに抱っこは、誰より夜羽自身が許せないだろう。


「悪いけど、そっちの問題が片付くまでは関係を白紙にするしかないよ。二股は嫌だって、あんたなら分かってるよね?」

「……っ」


 泣きそうな表情から顔を背けると、私は階段を駆け下りた。

 私だって、別れたくなんかない。だけど私に、何ができるの? どうしたら夜羽の力になってあげられるの。散々お姉さんぶってきたけど、結局私って、何の力もないのよね……



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