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「えーっと、それは……あうぅ」


 夜羽は完全に茹でダコのようになってしまっている。庇護欲をそそられるその姿に思わず許してしまいそうになるが、このまま曖昧にしていたら元の木阿弥だ。もう気付いている答えを、それでも私は()()夜羽の口から聞きたかった。


「好きじゃない、なのにエッチはしたかったって事? 性欲を満たすためだけに、手近なとこで済まそうってそういう……」

「違うぅ!! 好きじゃなきゃ、あんな……あんな事……」


 鬼畜な問いかけで無理やり言わせてしまったせいで、夜羽は涙ぐんでいる。ヒックヒックと嗚咽が上がるが、続きが聞けるのを私は無言で待っていた。

 やがて、おずおずと夜羽が口を開く。


「ミトちゃんの事、ずっと好きだったんだよ。小さい頃からお嫁さんにしたいくらい。だけど泣き虫は嫌だって言うし、お姉さんぶってたから、今の僕が言っちゃいけないって思ってた。

本当は……強くなりたい。かっこよくなって、好きになって欲しい。彼氏も……作って欲しくない」

「エッチもしたい?」

「ヒエッ」

「したくないの?」


 耳元を囁くと、過剰反応してベッド端まで逃げられた。傷付いた、と言いたげに頬を膨らませると、もじもじしながら小声で「……したいです」と呟きが返ってきた。


「うん、いいよ」

「え……へぇっ!? ほほほほんと!?」

「ほんとほんと。まあさすがに今日このままって訳にはいかないけど。その辺ちゃんと仕切り直してよ」

「いいの? その……ミトちゃんの弟じゃなくなっても」


 夜羽が疑いたくなるのも無理はない。長らく私にとっての彼は可愛い弟だし、彼を差し置いて他の男に(騙されたとは言え)恋をして、一度は付き合ってたもんな……

 でも今の夜羽が私によって作られてきたように、きっと夜羽がそばにいたからこそ、今の私であれたんだ。


「私、夜羽の事好きだよ。恋かどうかはまだ分かんないけど……私は隣にいるし、夜羽にもいて欲しい。本当に夜羽がそれを望んで、私を選んでくれるなら――」


 私の返事は、最後まで言えなかった。夜羽にぎゅうっと抱きしめられたからだ。その力は信じられないほど強くて、でも優しい。彼に背を追い越されたのは、いつだったんだろう?


「好き……」

「うん」

「大好き。僕と付き合ってください」


 涙をポロポロ零しながらの告白は、とても高校生とは思えないけど。これが、夜羽なのだ。……うん、せめて鼻栓は取ろうか。

 ポンポン背中を叩いて腕を放させると、返事の代わりに私は塩辛い唇にキスをした。


「――っ!? ミ、ミト……」

()()()()()とは、初めてになるわね。あ、大事な事だから言っとくけど」


 真っ赤になって口元を押さえつつ、乙女の如く不安げに私に注目する夜羽。ニヤッ、と意地悪な笑みで指を突き付ける。


「私、ヤンキーとは付き合わないから」


 意味分かるわよね? と言いつつ、視線はベッド脇のテーブルに置かれたサングラスに注がれる。それに気付いた夜羽も一瞬そちらを向こうとするが、すぐにコクコクと勢いよく頷いてみせた。

 いや本当、早く()()()なしでも頼り甲斐ある彼氏になってよね!?



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