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 夜羽が弱いのは、一人で何もできないのが私のせいなら、私は……


「っ!!」


 抵抗が止んだ私の服を、夜羽の手が一気に捲り上げた。一緒にブラまで押し上げられて、思わず顔を背ける。刺さるような視線が怖くて夜羽の顔が見れない。


「へえ? 少しは恥じらいは覚えたか。平気で人前でも着替えるもんだから、女捨ててんのかと思った」

「別にっ、人前でも恥ずかしくないなんて事……ひっ!」

「じゃあ、やっぱり俺の事なんて男じゃないと思ってんのか。どうなんだ?」


 反論しようとした口から悲鳴が上がった。剥き出しになった胸を掴まれて硬直する。炎谷さんによってアホみたいに鍛えられた握力だ。恥じらいよりも、このまま握り潰されるんじゃないかって恐怖が先に立つ。


「やだ……」


 夜羽が本気で怒っているのなら、罰として受け入れようとも思う。

 だけど、()()()()()()

 仮に今のが本心だとしても、夜羽が自分だと認めないのなら、私にとっても別人だ。二重人格だろうと暗示だろうと、()()()()()()()()()()()()()

 後で「これは僕じゃない」なんて否定されるくらいなら、今のこいつには好き勝手されたくない。だって傷付くのは両方なんだもの。


「嫌だ……夜羽じゃなきゃ、嫌だ!」

「何言ってんだ? 俺だって夜羽……」

「だったらそのサングラス、今すぐ取ってよ! あんたが夜羽なら、それがなくても言えるはずでしょ!!」


 涙で滲む視界の中、夜羽の顔が歪むのが見えた。

 私はこいつが嫌いだ。無慈悲で凶暴で傍若無人。わざと傷付くような言動で私を振り回す。だけどそれが、夜羽が今まで押し隠していた気持ちなら……大好きな幼馴染みを、大嫌いなヤンキーに変えてしまったのは、私のせいでもあるんだ。


「う、うぐ……グスッ」

「泣くなよ……そんなに嫌か、俺が」

「ひっく……、嫌ってるのは、あんたでしょ。私が嫌いだから、こんな事」


 嗚咽で言葉にならない中、それだけ伝えるともうダメだった。涙と鼻水でグシャグシャになった泣き顔はさぞやブサイクで萎えるだろう。夜羽は私の体から退くと、頭を掻きながら溜息を吐いた。


「はあ……鈍いとは思ってたけど、ここまでとは参ったな。

分かったよ、取ればいいんだろ? 言っておくが、()()謝らねえからな」


 そう呟くと、夜羽はサングラスに手をかけ、ゆっくりと外した。レンズを通さない裸の瞳が、私と絡み合う。


「夜羽……」

「ミトちゃ……うっ!!」


 その直後、鼻血をドバッと噴き出しベッドから転がり落ちる夜羽。半裸の私に興奮した……訳でもなく、顔に痣があったしキスも血の味がしていたので、元々鼻に傷があったんだろう。

 しかし、人格が変わった途端に我慢できなくなるとは……やっぱり情けないわ。


「ごめ、ミトちゃ……あれは、僕っ」

「いいから先に鼻血止めなさいよ」

「ふえぇっ」


 ティッシュを鼻に突っ込んでやりながら、私は手の震えがバレないよう、わざと強気に振る舞った。ついさっき夜羽が見せた『男の顔』が、やっぱり少し怖かったのだ。



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