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8/22

08 ティアナを襲う悲劇

少しかなり鬱かもしれません。ご容赦ください。

 ※21/10/14追記

 警告入ったので大幅カットしました。


     ◇


 困窮した懐具合も改善した勇者一行だが、彼らはいまだ、辺境の小さな町に逗留していた。

 理由は言うまでもない、リネアが完全に気力を失っているからだ。


「リネア、今日も出てこないわね……無理もないけど」

「ああ……だけど、無理に引きずりだすわけにもいかないからね」

 アシュラムの言葉はやさしいように聞こえて、厳しいものである。

 彼らがリネアに望むものは、自分の足で立ち、悲しみを乗り越え、再び魔王討伐の旅に復帰してくれることだ。

 どうしても不可能ということがわかれば、無理にでも連れだし、別れを告げ、馬車に押し込んで、王都に強制送還することになるだろう。


 だが、まだそのときではない。

 いつまでも待つことはできないが、訃報を聞いてからの日数を考えれば、まだ判断を下すには早いタイミングである。

 少なくともアシュラムは、そう考えていた。


「――ともかく、せめて彼女が顔を見せてくれるまでは、滞在しておかないとね」

 そういって立ち上がる彼には、今日もギルドの仕事が入っている。

 薬草摘みの実績のおかげか、少し前から簡単な討伐依頼も受注できており、資金調達は順調だった。

 王家からの援助金はもちろん残っているが、さすがに彼らも学習はしており、すぐに手をつけたりはしない。

 それはいざというときの備えで、少なくともリネアが戻ってくるまでは、ギリギリの生活でしのぐつもりだった。

 皮肉なことに、まず文句を言いそうな彼女は、その元気すらない状態だ。


「それじゃあ、いってくるよ」

「ええ、気をつけてね」

 出かける彼を見送ったティアナは、まるで夫婦のような会話だったと思いいたり、頬を熱くする。

 ヒドゥンが去ってからの厳しい道中で、ティアナは幾度もアシュラムに励まされ、支えられてきた。

 そんな彼に惹かれないはずもなく、慰められ、唇を重ねたこともある。


 初めてキスをしたときは、ミラに申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、最近は気にならなくなっていた。

 いまの彼女は――あまり口にしたくない、聖女らしからぬ仕事をしている。

 それをアシュラムに伝えないのは不誠実だし、そんなミラが彼の隣にいるのは、はっきりいって好ましくないと感じていた。

 自分がその分、彼に誠実に尽くそうと考えるのは、少なくともティアナにとっては自然な発想なのである。

(別に、ミラが邪魔っていうわけじゃないけど……私のほうが想っているって、彼には伝わっているのかしら……)


 この感情を無理にでも擁護するなら、ヒドゥンと別れ、過酷な生活を続けたことで、ティアナの精神もギリギリまで摩耗させられていたのだろう。

 その心を支える――悪くいえば依存する対象として、彼女の無意識はアシュラムを選んだのだ。


 彼の心を惹きつける方法を考え、やがてティアナはポンと手を打つ。

「……そうだわ。討伐依頼なら、きっとお腹を空かせて帰ってくるわよね。今日は少しだけ、手の込んだ料理にしようかしら」

 安宿は食事も出ないため、食生活は基本的に自炊である。

 四人のうち、まともに料理ができるのはティアナだけであり、食費についてはある程度の裁量が与えられていた。

 それを活かしてアシュラムの胃袋をつかもうと、ティアナは鼻歌まじりで財布を手にし、食材の買いだしに向かう。

 その行動が、彼女にとって最大の悲劇を招くとも知らず――。


     …


 辺境の町というだけあり、その土地は非常に貧しかった。

 しかも一行が泊まっているのは、貧しい町でも選りすぐりというべきか、最安値のボロ宿である。

 そうした店ばかりが並ぶ界隈は、いうなればスラムだ。


 そんな場所をか弱い女魔術士がひとり、武器も持たず無防備に、財布だけを持って歩き回るなど、明らかな自殺行為である。

 その女魔術士が美しく、豊満なバストを中心にスタイルもよく、上質なローブを着た小綺麗な格好をしているとなれば、的になることは避けられない。

 欲望、羨望、嫉妬、憎悪――。

 様々な感情をぶつけられながら、それらにまったく頓着しないティアナは、薄汚れた路地を抜けて大通りへ向かおうとする。


 それでも普段なら、アシュラムという存在が付近にいることを危惧し、そうした悲劇は招かなかっただろう。

 だが、彼らは知っていた。

 その男は先ほどギルドに出かけ、その依頼で町の外へ出向いていることを。


 あるいは『彼』さえ残っていれば、そんなことにはならなかった。

 あらゆる悪意から彼女を守り、幼いころからナイトとして傍にいた存在。

 自分が傍にいられないときでも、自衛のために必要なことを教え、それを守るよう徹底して言い含めていた。

 せめて、それだけでも覚えていればよかったのだが――もはやあとの祭り。


 彼から離れたことが原因か、それとも、厳しくも平穏な日常を送ることで、危機感が薄れてしまったのか。

 はたまた、意識的に彼の存在を頭から消し去ることで、いまのパートナーにすべてを捧げていると、自身の心を演出したかったのか。

 いずれにせよ彼女は、大事な教えすらも忘れ去ってしまうという、最大の過ちを犯していた――。


     …


「確か、ここを抜ければ近道なのよね――んぅっっ!?」

 一瞬の出来事だった。

 ほったて小屋のような薄暗い家屋から伸びた手が、ティアナの口を塞ぎ、四肢を捉え、暗がりの中へ引きずり込む。

「んぐっっ、んんんぅぅっ! んんぅぅ――っっ!」

 目を見開いて暴れるも、中には複数の――おそらく男たちがいたのだろう、女の手ではなんの抵抗もできない。

 四肢を押さえつけられ、目隠しと猿轡を噛まされ、開かされた脚を曲げさせられ、屈辱的な体勢をしいられる。


(なにっ……なんなのっっ!? なにがっ……誰が、いったい――いやぁぁっっ!)

 ローブの裾が限界までめくられ、太ももの付け根までを晒された羞恥に、耳の先までが熱く染まった。

 恥辱はそればかりではない。

 別の手が刃物を手にしているのか、ローブの胸元がたやすく引き裂かれる。

「あぐっっ、んぐぅぅぅっっ! んぅっ、んむぅぅぅっっ!」

 抵抗する声を響かせるティアナだったが、その身体は恐怖に強張っていた。


(いやっ、いやっっ、いやぁぁぁっっ! 助けてっ、誰かっ……誰かぁっっ!)

 見開いた目に涙が浮かび、開いた口端から涎がこぼれ、表情は屈辱に染まる。


(どう、して……どうして私が、こんなっ……こんな、目にっ……ひぃっ!)

 硬直し、動けなくなった哀れな獲物に、無数の獣欲が襲いかかる。

 その恐怖と恥辱にまみれた時間は、永遠にも思えるほどに長く続き、繰り返され、ティアナは身も心も尊厳も、ズタズタに引き裂かれた――。


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― 新着の感想 ―
この女魔術士は気が緩みすぎだ!! 何の装備なしに一人でスラムを歩くなんてどうぞ襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ!。
この時までティアナって未経験…?
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