表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/22

16 祝宴にて、その2

イメージ的には姫様拷問の魔王をもちょっと人っぽくしたような魔王。


     ◇


「魔王――陛下、だな」

「ふはは、そのとおりだ。とりあえず、座ってもよいかな?」

 首肯すると、小さな椅子を押しつぶさんばかりの圧で、彼は腰を下ろす。


「本来なら、ほかの者も連れてきたかったのだがな。残念なことに、まだそなたをこころよく思っておらぬ者も多い。余、ひとりの挨拶で許されよ」

「当然のことだろ、気にしなくていい」

「そーそー、ヒドゥンってば容赦ねーからな~、いひひひ♪」

 こちらは狙われたことを気にしていないが、それを返り討ちにされたということは、親しい顔見知りが亡くなるということだ。

 起こり得る帰着だったとはいえ、心の整理がついていなくとも仕方がない。


「話のわかる男で助かる、お嬢さんもな」

「んまー、お花畑の連中とは違うわなぁ、そりゃ~」

 酔ってないように見えて、実は顔に出ないだけで酔っているのだろうか。

 魔王相手にいつもの調子を晒すルナに、水のグラスを押しつけておく。

「で――わざわざこんな末席にきて、なにか話でも?」

「話が早いというのも、ありがたいことだ」

 テーブルに手を組み、魔王の巨体がグッと乗りだしてきた。


「実はだな……魔王国で働く気はないかと、そなたに声をかけにきたのだ」

「おほぉ~、スカウトかよ~? さっすがヒドゥン、モテモテ~♪」

 やはり酔っているらしい。

 バシバシと上機嫌で肩を叩いてくる彼女は放っておき、ヒドゥンは答える。

「話はありがたいが、さっき言ってたことがあるだろ」

 ヒドゥンをよく思わない連中はまだ多く、しかもそれが、和平調印に連れてくるような重鎮たちにもいるのだ。

 わかりましたと答えたところで、安心して働ける環境とは思えない。


 そんなヒドゥンの指摘に、魔王はニヤリと笑う。

「ふむ、まぁな! とはいえ、近い将来にそうはせぬかと、挨拶くらいはしておきたかったのよ……もちろんお嬢さんも、ともにきてくれればよい」

「へぇ~、オレもかよぉ~、太っ腹ぁ~♪」

 妙にテンションの高いルナの反応、その理由に気づいて苦笑しつつ、ヒドゥンは小さく首を振った。

「魅力的な話だが、すぐには答えられない。もしかすると、もっとそっちの役に立てる方法が、あるかもしれないからな」

「ふむ……であれば、そちらにも期待しておこうか」

 一応は納得したようにうなずき、魔王は席を立ち上がる。

「情勢が落ち着けば、いずれまた話そう……ではな!」


 そうしてのっしのっしと大股で歩き去る姿を見送り、ルナはふぅとため息をもらした。

「いやー、すげー迫力だったな~」

「そうだな。あのテンションじゃなけりゃ、気圧されてても仕方ない」

 酔った演技というより、無理に気を張った結果が、あの反応ということだ。

「ま、恐縮して縮こまるよか、オレらしくてよかったろ?」

 確かに、そのおかげでヒドゥン自身も平静でいられた、というのはある。


「んで――どーすんだ? オレはとーぜん、ヒドゥンについてくけど♪」

 なにをと問い返すまでもない、スカウトの話だ。

「悪くない話だとは思う――が、その仕事はわざわざ、魔王国に抱えてもらってやることでもないだろ」

「あん? それってどういう――あ、なるほど♪」


 頭の回転が速いルナの反応は、本当に助かる。

「支部を置くなりなんなりして、あっちでもギフティアとして、仕事を受けりゃあいい――ってことだな?」

「そういうことだ。時期や人員の問題はあるが、なんなら支部の設立は俺たちがやってもいい」

 組織の稼ぎは増えるし、あちらの問題を解決することは女王国のためにもなるのだから、まさに一挙両得、三方得というところ。


「いいね~、魔王国支部♪ 新婚旅行ついでに、現場視察といくか~」

 そんな気の早いことをのたまいながら、またもグラスを空にするルナ。

 けれど――そのグラスを、新たなワインと交換しようとしたところで、彼女の目はピクリと揺れ、鋭く細められた。


 その原因は、わざわざ確認するまでもない。


「――久しぶりだな」

「ああ……元気にしていたかい、ヒドゥン」

 テーブルを挟んで向かい立つのは、旅先で別れた元仲間たちだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ