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14 祝宴前夜

ヒドゥンは本気です。


     ◇


 和平の祝宴――とはいうものの、招かれる人選には偏りがあった。

 平たくいえば、女王派の人間ばかりが招かれている。

 もちろんそれだけでなく、確かな実績を残す、人望の厚い国士たちも大勢招かれたのだが、多忙な彼らは祝辞だけを送り、欠席を表明していた。


 そんな中、表立って身分は明かせないものの、女王の最大の協力者にもお呼びの声がかかる。

 誰あろう、ギフティアの長であるルナだ。


「――ってことで、オレと一緒に出席してもらうからな~」

 祝宴を明日に控え、フォーマルな深青のドレスをあてがって姿見を確認しながら、ルナはこともなげにヒドゥンに告げた。

「まったく気が進まないんだが」

「オレだって進まねーっての。けど、しばらくは利害が一致する関係だしな。ここで断って角を立てるより、女王の顔を立てたほうがいいだろ」

 言葉遊びをしながら笑うルナの隣で、ヒドゥンは用意された礼服を睨み、疲れたように息をもらす。

「ルナが出る理由はわかるが、オレは行かないほうがいいんじゃないか?」


 アシュラムたちがどう報告したかは知らないが、立場的にヒドゥンは、女王の命令を途中で放棄した脱落者だ。

 しかも来賓として出席する魔王国にとっては、すべての刺客を返り討ちにした仇敵でもある。

 元仲間たちを含め、誰にも合わせる顔がないというものだ。


「そりゃあいつらが無能なだけだったって、もう証明されてんじゃん。それに勇者が魔王と面通ししてんのに、ヒドゥンだけ恨まれるってのもおかしーだろ」

「それは……まぁ、そうなんだけどな」


 そもそもの話として、そういうフォーマルな場が苦手というのもある。

 辺境出身の平民で、冒険者で、裏組織の構成員なんて人間が、王宮の式典だか祝宴だかに出席するなど、気後れするばかりだ。


「オレが気後れしてねーと思うか?」

「……してないだろうな」

「いや、そりゃしてねーけどさ……」

 そう返されると思っていなかったのか、彼女はバツが悪そうに頬を掻く。

「むー……あー、もうっ! だとしてもだよっ!」

 ドレスを投げだし、ヒドゥンの座るベッドにボスンと腰を下ろしたルナは、その腰に甘えるように抱きついた。


「……たぶんだけどな。オレが呼ばれてんのは、てきとーな貴族のボンボンでもあてがって、そっからギフティアを掌握するためだ」

「なんだと?」

「いわゆる政略結婚ってやつだな」


 要するに――自分の息がかかった家の子息と、ルナを結婚させてその縁戚とし、家ぐるみで王家に仕えさせようということだ。

 女王がそこまでギフティアに執心しているのは驚きだが、若い女王が武力も含めた手駒を欲するなら、そのくらいはするのかもしれない。


「別になびくつもりはねーし、ヒドゥン以外の男にゃ興味もねーけど、飯の最中にずーっと隣でベッタベタされんのは気にくわねぇ」

「……わかった、そういうことなら話は別だ」

 宴席にて、華やかで大胆なドレス姿の彼女に、なんの苦労もしらないような貴族の男が触れる――それを想像するだけで、殺意が湧いた。


「近づくやつは、全員殺していいんだな?」

「そこまでは言ってねーよ! いや、めっちゃうれしーけどさぁ!」

 ニヤニヤを隠しきれない表情で、ルナがこちらを見上げてくる。

「……婚約者だって紹介すっから、オレから離れんなよ?」

「ああ――わかってる」

 離れるつもりも、放すつもりもない――そう伝えるように、ヒドゥンはいつもより強く、彼女の肩を抱き寄せた。


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