10 ルナの不安
微エッチなのでセーフ。いやアウフ。
※21/10/14追記
警告入ったので大幅カットしました。
◇
「おっと……あーらら、ついにこうなっちまったかぁ~」
裸でシーツにくるまったまま、隣で報告書のチェックをしていたルナが、思わせぶりにそんなことをつぶやいた。
つぶやくというには、ずいぶんと大きな声だが。
「……なにか、おもしろいことでもあったか?」
聞いてほしいのだろうと思い、ヒドゥンは視線を向ける。
「おー、あったあった♪ あの女――えーっと、あれ……ティナ、だっけか?」
「ティアナのことか?」
「あー、それそれ。そのティアなんとかが、スラムで十人以上にマワされちまったみてーよ。んで、パーティは崩壊寸前だってさ」
なかなかに衝撃的なことをサラリと言ってのけるあたり、ルナはもしかすると、そうなることを期待していたのだろうか。
そんなことを考えているヒドゥンを、ルナの不満そうな視線がねめつける。
「おい~、なんとか言えよ~。嫉妬しちゃうだろぉ~?」
「……信用がなくなったとはいえ、あいつは幼なじみだぞ。あいつの両親にも、ずいぶんと世話になったんだ……気の毒だな、くらいには思うさ」
不服でふくらんだ頬を軽く突くと、むくれた顔はそっぽを向いた。
「ふーん、あっそ」
「どんな状況だったんだ? あいつが杖を持っていれば、ごろつき程度じゃどうにもできないと思うが」
なんとか機嫌を直してもらおうと、髪やあごをやさしく撫でながら、報告書の内容を確認しておく。
「……そんなの聞いて、どうすんだよぉ」
「ティアナでも勝てないほどの相手がいるなら、ギフティアのほうでも人員を強化する必要があるだろ」
「――あはっ、そういうことかよ♪」
仕事上の話だったことに気づいてか、彼女の目がいつものように細められる。
「ま、そこは心配いらねーよ、ティアなんとかは丸腰だったらしいからな」
ティアナだ、と返すこともできず、ヒドゥンは思わず絶句する。
心配などではなく、純粋にあきれ返っての沈黙だ。
「はぁ……ひとりで出歩くなら、ロッドは必ず持ち歩けと言っておいたんだがな」
…
魔術を使うために必要なものは、才能と、魔力と、発動媒体だ。
その発動媒体こそがワンドやロッド、スタッフなどの杖。
あるいは高額な加工を施された指輪ということになるのだが、一般的に好まれるのは、邪魔になりすぎず周囲からも目立つ、ロッドだとされている。
身近に魔術士がいるヒドゥンはともかくとして、実は一般的には、魔術士という存在の詳細は、あまり認知されていない。
どのように魔術を行使するのかがわからず、けれど威力だけは知れ渡っているため、場合によっては恐怖すら与える存在でもある。
ロッドはそのための、いわば威嚇用の武器だ。
それを持っているということは、魔術士かもしれない――そう思うだけで、相手は手だしをためらうことになる。
魔術が使えないのに、護身用にロッドを持ち歩く女性もいるほどだ。
…
「はぁ~ん? まぁ、あれだな――ヒドゥンが過保護にしすぎたんじゃね?」
「ああ……そうかもな」
ヒドゥンが護衛のような役割を果たしていたため、普通の女性なら気を配る身の危険に、意識が向かなくなったのかもしれない。
定期的に、ひとり歩きするときはロッドを持つように言い聞かせていたが、それがかえって、そういった用意の自主性を奪ってしまった可能性もある。
「……いや、冗談だかんな? 本気にしないでくれよぉ、ヒドゥン~」
シーツにもぐり込み、脚に抱きつくようにすがりつくルナ。
その小さな身体を引っ張りだし、抱き寄せ、ヒドゥンは首を振った。
「いや、実際のところティアナだけじゃなく、ほかのメンツについても、俺は少し過保護すぎたと思ってるからな」
知る必要はない、どうせ自分がいるのだから――。
そう思って勝手に暗部を担った結果が、いまのパーティ崩壊なのだとしたら、たとえ彼らが傷ついても、現実を教えてやるべきだった。
信じてもらえないなら勝手にしろと、あのときは冷淡に思ったものだが、自分もずいぶんと意固地になっていたことがわかる。
追放という扱いを受け、ティアナを奪われ、彼女に裏切られ――気にしてたまるかと思っていたつもりなのに、心の奥底では恨んでいたのだ。
だからこそ――いい気味だ、と。
昏い感情が、心の中で嗤っている。
「……ヒドゥン、大丈夫か?」
珍しくルナが、心配そうな表情を浮かべ、顔を覗き込んでいた。
「え――あ、ああ……すまん、考えごとをしていた」
極力、声に感情を乗せずに言ったつもりだが、彼女には通じなかったらしい。
泣きそうに顔を歪め、けれど涙は流さず、ルナは黙って抱きついてきた。
「やっぱり……未練あんだろ? とりあえず、レイプしたクソどもは拘束してるから、報復くらいできると思うけど――」
「……未練はない、本当だ」
なだめるように彼女の背を撫で、脱力した肢体を横たえさせ、のしかかる。
「そっちはギフティアのやり方で処分すればいい。俺は忙しいんだ」
「忙しいって、なに……んっ、ふっ……」
なめらかな肌を撫で、頬や耳に幾度も口づけ、体温を移すように肌を合わせた。
「ルナを安心させる役目がある。むさ苦しい男なんて、相手にできるか」
「っ……も、も~、なんだよそれぇ……ひっ、んぅっ……」
冷たかった彼女の肌が温まり、しっとりと汗ばんでくるのを感じる。
その温かさと艶めかしさに触れているだけで、ヒドゥンもより熱く、火照っていくようだった。
「う~わ……ははっ、そういう趣味かよぉ? 元カノのそういうの聞いて、興奮しちゃったってことかぁ……う~わぁ♪」
「……怒るぞ」
「いいぜ~、別に――んむっ、んっ……」
憎まれ口を叩く唇を塞ぎ、口腔を舐め蕩かし、念を押すように告げる。
「俺が興奮するのは、お前が相手だからだ」
「んっ……はぁっ……だったらぁ、証明してくれよ……」
ルナが両腕を広げ、誘うように伸ばしてみせた。
そこへ吸い込まれるようにのしかかり、抱擁を受け止めたヒドゥンは、そのまま激しく、情熱的に、繰り返し彼女を愛していく――。




