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港湾襲撃

「どうやら、ルバウルが動きだしたようだ。」

モンはそう言い、話を切り出した。

第一艦隊作戦会議室では、第一艦隊所属艦の艦長や司令が集まり会議をしている。少し間を置き、モンは話を続けた。

「アズナ海艦隊旗艦であるヴォシロフ・マリシコフが北ケルタニア海を南下している所が目撃された。」

「ヴォシロフ・マリシコフ…。」

第一艦隊所属のフリゲイト艦「ブランクベルグ」艦長のニーザーが呟く。

「大物が出ましたね。」

同じく第一艦隊所属のフリゲイト艦「ズーダー・ブレイゼン」艦長のハウリもそう言う。

「ヴォシロフ・マリシコフ」とは、ルバウル連邦海軍の巡洋艦で、ルバウル連邦は「141型重ミサイル巡洋艦」と呼称している。全長は200mを越え、最大排水量は18200t、それに加え最大速力は30ktを越える大型艦で、バグゥートを始めとした各種ミサイル発射機を搭載しており、最強の水上戦闘艦とまで言われる程だ。

しかし、全6隻を建艦する予定だった141型重ミサイル巡洋艦は、2番艦のヴォシロフ・マリシコフしか完成しなかった。国内世論の社会党に対する反発、連邦を構成している国や自治州の相次ぐ独立により建艦は遅々として進まず、社会党が崩壊し冷戦が終結した際、2番艦のみ建造中で1、3番艦は一時建造中断されており、4~6番艦は予算要求中だった。冷戦が終結し不要と判断され、一時は全艦の廃艦が予定されていたが、当時のルバウル連邦海軍大臣の手により、一番建造の進んでいた2番艦のみ竣工したのだ。

それ以来、アズナ海艦隊の旗艦としてルバウル連邦海軍に所属していたが、稼働率は高くない。冷戦終結に伴う対ゲリラ戦への移行や、大型艦を建造せず中小艦艇の充実をメインとした建艦や艦隊編成がなされ、出番があまり無く、港でただ浮かんでいるだけの時期もあった。

そんな艦が動くということは、相応の事態があったのでは…。と、ニーザーは思ったのだ。

「また、ヴォシロフ・マリシコフは駆逐艦や補給艦など、複数の艦船を従えている。対外名目上は『ノルディア海峡における自国艦船の護衛』としているが、各国艦船がいる中、ここまでの艦隊を送り込むのは不自然だ。その為各国海軍も警戒を強めているようだ。そこで我々はノルディア海峡に応援を1隻派遣しようと思う。あくまでも"応援"だがな。実際、海賊の動きは活発化している。その為の応援と、ルバウル艦隊の警戒を兼ねてという訳だ。派遣艦は・・・ブランクベルグだ。」

「おお。任せてください。」

ニーザーが返事をする。

「ああそれとフランク君。」

「はい。」

「バーデル・ビュクセンバルグは、搭載したスティムシステムの試験をしてもらう。ただ思ったより調整が必要でな・・・まだ先の話ではあるが。」

遂にバーデル・ビュクセンバルグにスティムシステムが載る時が来た。が、モンが言うには、しばらく調整が必要なようだ。修理期間が延びているのもそのせいだろう。

「安心してください。先輩の分まで働いてきます。」

ニーザーがフランクにそう言う。ニーザーはフランクと同じ士官学校の卒業生で、フランクの後輩である。

「ああそれはどうも。」

フランクはあっさり返事をした。

「質問は無いか?・・・よし、以上。解散。」

モンがそう言うと、集まっていた士官は皆出て行った。



「なんだありゃ」

港湾警備艇23号艇長のヤンスが呟く。

港湾警備艇というのは、ケルタニア公国海軍基地周辺を名前の通り警備する5人乗りの船だ。常に数隻がパトロールしており、異常があれば直ちに向かう事になっている。武装として艇首にGM-BK15mm重機関銃を搭載しており、艇尾には小銃を設置できる銃架も付いている。

「なんすかね」

ヤンスの呟きに乗組員の一人が返事をする。

彼らの目の先には、夜にも関わらず消灯している漁船が月明かりに照らされている。今は侵入禁止海域に入っていないが、レーダーには段々と接近してきている様子が映し出されている。

「エンジンでもやられて漂流してるんかな。行ってみるか」

ヤンスはそう言い、そちらに向かうように指示を出した。

「うーん・・・ん?」

ヤンスがその船を見ていると、その船の上で閃光が光った。

「・・・まずい伏せろ!」

直感で銃撃だと察知したヤンスは、乗組員にそう命じる。その途端、23号に銃弾が次々と当たる。

ガシャンという音と共に操縦席のガラスも割れ、伏せていたヤンスの背中にガラスが降りかかる。しかししばらく経つと銃撃が止み、反撃が無く油断したのか、銃撃してきた船が右側面へとゆっくり回ってきた。

「やられてばかりでたまるか!撃ち返せ!」

傷だらけの背中のヤンスがそう乗組員に言うと、一人が基地へ緊急信号を発信し、一人は艇首へ、一人は負傷した乗組員の元へ行った。そしてヤンスは、警備艇備え付けの5.56mm小銃を手に取り艇尾へと向かった。

「目標右舷不審船!撃て!」

小銃を銃架に取り付けたヤンスがそう叫び、艇首の15mm重機関銃とヤンスの持つ5.56mm小銃が火を吹く。ヤンスの目には当たった様に見えるが、効果を判別する前に不審船から反撃が来る。

「クソっ!沈め沈め沈め!」

ヤンスがそう叫ぶが、不審船からの銃撃は止まない。しかも向こうは4、5門ほど銃器を装備しており、既に23号は穴だらけでエンジンも止まってしまった。

「艇長、艇首が浸水してます!」

重機関銃を受け持っている乗組員が撃ちながら報告する。それと同時に

「左舷前方、後方にも不審船出現!数5、6います!」

無線を担当していた乗組員もそう叫ぶ。既に囲まれていたのだ。

「マズいな・・・」

既に23号は満身創痍、しかし退船しようにも周りを囲まれている。一応国際法上は退艦、退船した乗組員への殺傷行為は禁止されているが、不審船がどのような勢力か分からない以上、撃ち殺されてもおかしくはない。

ヤンスが考えていると、艇首の15mm重機関銃の銃撃が止んだ。

「おい15mm!撃て!」

誰が向かったか把握していなかったので、名前ではなく武装で呼ぶが返事は無い。嫌な予感がするヤンスだったが、

「あっ・・・」

左腹に激痛を感じ目を落とす。銃撃を受けたのが一目で分かるほど腹部から出血している。更に、周りの船からも銃撃が始まった。

「そ・・・うい・・・ん・・・退・・・せ・・・」

そこまで言うと、ハンスは倒れてしまった。



港湾警備艇23号からの緊急信号を受け取り、14号、16号、17号の3隻が現場に向かう。

「艇長!あれ!」

16号の乗組員が指を指す。その先には煙を吐く23号らしき船影と、それを囲んでいる船が見える。

「ざっと5、6隻くらい居そうですよ」

別の乗員が口を開く。

「ヤバいな」

艇長もそう呟く。明らかにこちらより倍以上の戦力だ。しかも23号からの報告では、1隻に4、5門ほど銃火器が装備されているらしい。こちらの3隻は23号と違い15mm重機関銃を2基、更に防弾板を装備した「強化型」だが、それでも厳しい戦いになりそうなのは否めない。

「まあ、やるしかない。撃沈命令が来てるしな。」

16号の艇長はそう言い、

「目標右3番船。発砲始め!」

発砲を命じた。

不審船は油断していたのか23号に夢中だったのか、発砲するまで3隻の存在に気付いていないようだった。その隙に2隻を大破させたが、他の不審船も反撃を開始してきた。

「17号、応答ありません!」

不審船の集団はまず17号を集中砲火し、これを沈黙させた。

「やっぱりマズい。一旦退避しろ!」

16号艇長はそう命令するが、その前に銃弾が殺到する。

(くっそ!このままでは23号の二の舞だ!)

16号艇長はそう思ったが、その瞬間、目の前にいた不審船が吹き飛んだ。

「おお、応援か?」

そう16号艇長が言い振り向くと、一隻の軍艦が向かってきた。



「敵と味方を間違えるなよ。」

コルベット艦「メルンレーン」艦長のアデレ・ウェーレンが砲術長ラエニ・レヒトに注意する。

「大丈夫ですよ。この艦のFCSは優秀ですから。」

レヒトが返事をする。少し余裕があるような言い方だ。

計8隻出現した不審船だが、大きさは漁船並だ。武装で負ける港湾警備艇では苦労してもおかしく無いが、コルベットだと話は変わる。前甲板上の57mm速射砲が火を吹くたびに一隻づつ吹き飛ばし、あっという間にすべて撃沈または大破させてしまった。

「警備艇の負傷者の救出を急げ。」

ウェーレンは、そう指示を出した。



「すまんな、深夜に。」

モンはそう言い、第一艦隊作戦会議室に昼の会議と同じ人員を集めて話を始めた。

「まあ知ってると思うが、この港が襲撃を受けた。8隻の小型艇が侵入してきて港を荒らし回ったんだ。幸いにも死者は出なかったが、重傷者6名を含む15名が負傷し、警備艇の沈没、大破が1隻づつと中破が2隻という有様だ。」

「一体誰が・・・」

ニーザーが呟く。

「分からん。だが我々に敵対する団体だというのは間違いない。とりあえず港の警備は強化したようだが、君たちも気を付けてくれ。暗殺でもされたら笑えんからな。」

「あ、暗殺・・・」

ハウリがそう言い唾を飲む。心なしか、少し青ざめているようにも見える。

「それでな、今後のことなんだが・・・」

「た、大変ですーー!」

モンがそこまで言いかけたその時、一人の兵士が部屋に入ってくる。

「おい会議中だぞ!」

思わずハウリが怒鳴る。が、兵士はお構いなしに続ける。

「世界中の、港で、当港の、ような、襲撃、事件が、発生し、一部の国では、その、軍艦、が奪われた、と。」

息を切らしながら、厄介そうな事を報告してきた。

「どう、なってるんだ。」

今まで黙っていたフランクだったが、ボソッと呟いた。

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