黒崎京子の後ろに道はできる
MMORPG「クエストアンドブレイズ」は
ゲーム内の不親切設計と開発会社の倒産によって
ユーザーからも見放されつつも細々と運営されている。
リリース以前のインタビューで
『バランスや法則を欠く要素が多く存在する』
とだけ、公式に発表されており
そのコメントに賛否の声が集まるも
概ねのユーザーには好奇心をそそる事となった。
「で、そんなゲームに君はどうしてやってきてしまったんだい?」
黒髪の肌の白い、人によっては美しい、
人によっては死を感じる。
そんな全身が黒の、ドレスの女性は優雅に茶をしばきながら言う。
「えっと、ネットで調べたら見つかった?からです」
女の対面、少年が座っていた。
見るからに初期装備のみすぼらしい新品装備で。
「それはこれの事かな?」
女が虚空を撫でるとニュースポータルサイトが表示される。
見出しは『ついに万事休す。謎のMMO3カ月後にサービス終了』
「そう!トップニュースですよ!有名ですよ!」
少年は、その記事の意味を理解しているのだろうか?
悲報をみて心を躍らせたようだった。
「確かに、有名だねぇ。いろいろな意味で、、、」
言葉に含むのは当然、本小説冒頭に書かれた内容のためである。
「こんな曲者中の曲者に何故かかわろうとしたのか?と、いう問いに
君は『もう終わるから』ではなく『有名だから』
要するに『知名度があるから』と、答えているわけかい?」
少し頬の端を緩ませ、少年に眼差しを向ける。
そもそも、知名度はあっても人気はないのである。
「そうですよ?そんなにおかしいですか?」
「おかしいとも。
あのチュートリアルで投げ出したプレイヤーを私はたくさん知っているからね」
「カカシのもぐらたたきですか?」
「そう、あの広大な敷地にどこから沸くかもわからないカカシを
何度も何度も壊れるまで叩かされる苦行、、、」
「運よく近くにカカシが沸いたんですよ」
少年は笑顔で言う。
テーブルに置かれた自分のお茶には手を付けず
お菓子を一つ頬張る。
「なるほど、、、
そして運よくレベル90台のフィールドに飛ばされた」
二人の周りには巨大なモンスターが群れを成して走り回っていた。
その巨大アホ面モンスターの背に二人は足の長いテーブルとイスで優雅に茶をしていた。
「このゲーム内でも今のところボスとヘルゲート内を除けば最高ランクなの。この場所は」
広大なフィールドにはモンスターと木。
それにモンスターほどしか目に付くものはない。
人影のない、荒野フィールド。
逃げも隠れも出来ない。
安地からの攻撃で一方的に狩りの出来るエリアでもないため
人気のない場所である。
「僕はこのゲームでみんながどんなことを楽しんでいるのか。
それが知りたかったんですよ」
「どんなことを楽しんでいるのか、、、
君はとても変わったことを言うね」
ニコニコしていた少年の表情はきょとんとしはて?と
頭にハテナを浮かべていた。
「ゲームは遊びなんだから、それがつまらないとなると、、、
もはや義務や使命感、そういった固い物を感じる。
が、君は楽しむ前提のゲームを初めて
何を楽しんでいるのか人間観察に来た。
そういうことを言っているんだよ」
察する気のある者にとってこの時の女の薄笑はどう映っただろうか。
少年は残念ながら察する気のない部類の人間。
菓子を手に少し頭を悩ませながらも彼女に答える。
「確かに、ゲームは楽しむモノ。
だから僕も、誰かと楽しいモノを見つけたいのかなぁ、、、?」
少しもごもごとあれこれとっ散らかった事を並べつつも
少年はまた笑顔で言った。
それが合図と言わんばかりにガスンっと鋼の矢がテーブルに刺さる。
あぁ、、、と、涙目になりながら少年が漏らすと、
矢が貫いた菓子はロストし、光のエフェクトを散らした。
「少年、そういえば名前を聞いていなかったね」
女はそういいながら、小さな手提げから新しい菓子を少年に手渡した。
「名前?イノだけど、、、」
「そう、、、、イノ、」
女が名前を呼ぶと同時に聞きなれない、言葉として聞き取れない声を
それも高速で発する。
それに戸惑っているうちに異変に気付く。
周囲に先ほど矢が無数に多方向から飛んできていた。
いや、矢がその場に光を吸収するように生成するように、、、
そのように、少年には見えた。
「矢がっ!!!」
悲鳴交じりの声を上げるが、
矢が刺さったわけではない。
単純な恐怖感。
それだけのはずだったが異変は周囲の『矢』だけではなかった。
「HPが~~~ぁっ!!!」
「減り始めた?大丈夫、レベル1でもさっき食べた菓子と合わせて450はあるだろ?」
「量の問題じゃないですよ!まだダメージ受けてないはずなのに!」
なのに!である。
見覚えのない禍々しい黒紫の表示。
「な、なんか変なドクロもでちゃってます!」
「それでいいんだ。少年」
今までの笑みとは違う。
どろっと悍ましい陰のあるその笑みは、
死を数値的に感じた以上に感覚的に受ける。
「さあ、引き釣り出そうかっ!」
その言葉と同時に矢の生成が完了し
同時に推力を得る事でイノや女だけでなく
バカ面恐竜もろとも矢の雨を浴びる。
はずだった。
恐怖感に負け目をつぶったイノは瞬間に起こることを待ったが
その瞬間は訪れず、目を開ける。
矢羽の当たり展開された魔法陣が二人を中心に全方向に展開されていた。
「な、、、すご、い」
「すごい?じゃあこれから起こることはさらにすごいかもよ?」
「すべての矢に単体魔法をかける以上にすごいって、、、どんな」
言葉を遮るように矢が魔法陣を展開したまま
自由落下をはじめる。
ただ落ちるのではない。
引き釣り出すために。魔法陣から伸びた黒いチェーンを矢筈に着けて引っ張り。
引っ張り、引っ張り、、、、
すると、魔法陣からチェーンではなく射手の頭が引き釣り出される。
肩から下は魔法陣から出ていない。
が、おそらくこのチェーンに締め上げられ身動きが取れない状態であることは
その表情から想像ができた。
いや、もしかしたらそれだけではなかったのかもしれない。
皆、一同に視線が集まっていた先は
いつの間にか椅子の上に立ち上がり天を仰いでいる女の顔に向いていた。
その女の顔を見ていたのかもしれない。
ぶすり。
勢いはそれほどでもないが、確実にその音は射手へ還った矢が突き刺さる音。
眉間や鼻、口。それほど部位にはこだわりを感じないが
頭を確実に貫き殺す。
そういった殺意のある角度で皆刺さった。
「ふふっ」
小さな笑い声だったが、それには似つかわしくない肩の震え。
声を殺しているのだろうその音を混じらせながら。
「やっぱり君だったか。眼帯娘。」
魔法陣の収縮が始まり死体もそれに引きずられるように元の空間へ帰っていく。
射手は全員即死かと思っていた。
「んっんんんん!!!」
真上の魔法陣に居たの茶髪で右目に眼帯のアサシンの風貌の彼女は
歯で矢を受け止め死を逃れていた。
「そんな矢、いつまでも大事に咥えていなくても誰も取はしないよ?」
その手を広げるしぐさや声に嘲笑を含む。
「ばはっ!!ちくしょう!バカ女!死ね!」
魔法陣が少女を吐き出し、地に落とす。
「あら、まだ生きていられるのね。
随分とタフなアサシンさん」
「あんたを仕留めるためよ!」
「地べたに叩きづけられたダメージですぐには立ち上がれない様子ね。
それとも床ペロしゅきしゅきマンなのかしら?」
軽くイノの椅子を蹴り、
バランスを崩したイノが
少女を目掛け落ちていく。
「誰が床ペロしゅきsyんがっ!」
見事にイノは眼帯少女を頭突きで仕留めた。
「痛たたっ~~~!」
仕留めた相手など気にせず、その場で
のたうち回るイノ。
ふわりと飛び降りた女が地に足を付けるまでには。
死体も光のエフェクトとなり、散り終えていた。
「いつまでも痛がってないで、行きましょうか」
その言葉をかける女の顔は茶をしばいていた時の笑みに戻っていた。
「このポータルを使えば、セントラルに行けるから
それからは簡単そうなクエストをまずはこなすといい」
「わかりました!」
そういって一礼するとイノはポータルへ向かう。
「イノ」
その背に声をかけた事に自分ですら少し戸惑った。
「君は私の名前を聞かないのかい?」
「あぁっ!?聞いてませんでした」
初心者用の名簿を古ぼけた新品のバックから取り出しイノは尋ねる。
「あなたのお名前を教えてください」
初回です。おばんです。さいとーです。
全5回でイノと京子の旅をお送りしようと思っています。
基本的に本日より毎日、朝7時に私の脳内垂れ流し(投稿)予定です。
(やり方を正しく理解していないが)
温かい目と、読んだ感想を良いやら悪いやらいただければ
今後の制作への励みといたしますので何卒宜しくお願い致します。
世間ではコロナやらインフルやらが流行っております。
お体に気を付けて。