表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

「ううん。去年の。」

忍び寄る決算月の足音。

そう。ヤツは急にやって来る訳じゃないのだ。

もう既に私の隣でヤツは細く微笑むのであった。






2月に入ったばかりだと言うのに、事前に処理しなきゃならない事が幾つかあるって事で朝から帳簿と見つめあっているのも中々疲れてきた。

これが推しの俳優や猫が相手なら疲れもしないだろう。


………………否、撤回。

どんなに恵まれている容姿の持ち主や、癒したっぷりな動物でさえも8時間以上見てたら疲れるわ。

でも推しはやっぱり別かなぁ…。いや、8時間も見てたら私の目が先に昇天するなぁ。

そんな妄想しかもうしなくなったら今日はもう終わりにした方が良いかもしれない。

幸いにも今チェックしている帳簿もあと数枚見れば良いから、少しだけ残業になるけどこれをやり切ってから帰ろう。

今日は推しが民放に出る番組があったので、定時で帰りたかったけども(リアタイ派)定時でも放送時間が間に合うか微妙だったから録画予約しといてあるし、まぁいっか!

だけど!

この仕事の賃金はいずれ私の糧となるのだから(推し絡みの演劇等)もう一踏ん張りだ!頑張ろう!







そう。そう思ったのに。



結局、電車に乗ったのは21時を少し回った辺りだった。

課長に残業申請をしに行った際に他部署にスカウトされ、そこの部署の手伝いをしたからだ。

断っても良かった。良かったんだけどさ。

手伝い先には社内で見かける気になる人がいる部署だったから思わず参加してしまったのが真実だ。

『鬼川さん』と言う名前も今日知った。

同じフロアだけど部署は全然違うから、まぁ時々はすれ違う時に挨拶する程度だったんだけど…。


推しに似てる。ぶっちゃけ推し似。只それだけ。


特に顎の耳への向かうラインが激似で、骨格の作りが似てるんだったら声も似てるだろうと思ったらビンゴだった。激似。

手伝いの指導が鬼川さんだったんだけど、目を閉じると推しが指導してくれる様で幸せだった…。(仕事はしたぞ)

それだけで今日の残業は実に有意義な残業だった。(大事な事なので再度言います。仕事はしたぞ。)


とりあえず母さんには遅くなるとは連絡いれたけど、夕飯の事は伝え忘れちゃったなぁ。

母さんの事だ「あれ?『駅で学生時代の友達と会っちゃったから急遽女子会をする事になったの!』な流れだったんじゃないの?」と言われた事がある。

何処まで想像力が豊かなのだ。

『遅くなる』と言うキーワードだけで何故女子会まで発展するのかが知りたい。

ちなみにその日の夕飯は前の晩の残りだった、鰯つみれと竹輪の煮物と解凍ごはんだった。



「田母神さん?」

突然声を掛けられて一瞬ドキッとした。

だってこの声の主は…

「鬼川さん…お疲れ様です。」

この人か推ししかいないもん。推しが電車内に居る訳ないから、間違い無く鬼川さんだ。

「今日はありがとうございました。本当に助かりました。」

「いえいえ。私が力になれたかどうか分かりませんが…。」

「そんな!ウチのスタッフよりも入力早くて助かりました!本当にありがとうございます。」

謙遜しながらそっと目を閉じる。

「田母神さんのお陰で来月はスムーズに挑めそうです。本当に助かりました。」

推しが…推しが褒めてくれる…私の名を読んで評価してくれる…。ああ。これスマホのボイスメモしときかったなぁ…。今日の残業代にしてはあまりにも尊すぎる。

「あぁ、お疲れでしたか?ごめんなさい、つい姿を見かけたので…。」

「あああ!いえ、少し目が疲れただけで…大丈夫ですよ!」

何が一体大丈夫なのかが分からないが、とりあえず開眼させ笑顔を見せてみた。

「しかし…どうして私の部署にいらしてたのですか?もっと入力なら早い方がいるでしょうし。」

「以前、田母神さんが仕事されてる姿を見て、仕事の処理が早いなと思ってまして。」

「え…そうでしょうか?」

「何と言ったら良いかな?アレ、阿修羅像みたいで!」


阿修羅像?

あの興福寺所蔵の国宝ですかい。


「…阿修羅像ですか………?」

「はい!何時か見た時は阿修羅像の手の如くに残像が残る様な速さで、入力処理と電話対応されていたのが凄いなって…課長に推薦したんですよ。」





何だろう。この虚しさは。


きっと褒めてくれてるんだよね。

分かってる。分かってるよ。他部署から呼ばれるのは、それ相当のスキルが必要って分かってる。

だ け ど

微妙に胸をえぐられた気持ちになるのは何故だろうか…。


「あ!そうだ。取引先で豆を沢山貰ったんですけど、田母神さん如何ですか?」

ここで突然豆かーい。

「ま…豆、ですか?」

「ええ。明日は節分だからですかね。ウチの部内でも配りまくってもまだあって…あ!無理にとは言いませんが…。」

「いえ!そう言う事なら頂戴しますね。」

「良かったです!僕は一人暮らしだから処理に困っていたので助かります!」


『鬼』川さんから節分の豆を頂くとは、いやはや。

後は他愛の無い話を2〜3交すと彼は私よりも一駅先に降りて帰って行った。




何か疲れたなぁ〜。

右には鞄、左には節分豆2袋。

これは明日の夜に豆撒きするべき量だな。

しかし、53歳の母親と30歳娘が2人で豆撒きをする姿を想像してみだがシュール過ぎて逆に笑えてきた。

黙って明日は30粒食べよう。

その後はクック○ッド見て豆は何かに使えるか検索しよう。

「ただいま〜。」

薄暗い玄関を抜けて居間を見てみたけど明かりは消えていた。

母さん先に寝ちゃったかなぁ。

不味い。母さんに夕飯の確認するの忘れてた。駅前なら閉店間際のスーパーがあったのに。豆で頭一杯だった。



コトッ…コトッ…



静かに音がする。台所の方だ。

よく見ると小さな明かりが着いていたので、引き寄せられる様に向かう。


ポリ…ポリ…ポリ…


「母さん?起きてるの?」


台所を覗いたその時だった。


薄暗い中で踏み台に座りながら母さんが、豆を一粒ずつ噛み締める様に食べていたのだ。

かなりホラーな姿で普通に引いてしまった。

「母さん!電気くらい点けてて食べなさいよ!」

急いで明かりを点けると、母さんはやっと此方を見た。

「だって今日のノルマをこなさないと…。」

「ノルマって豆?母さん、節分は明日だよ?」

「ううん。これ去年の。」


は?


「やっぱり52粒って中々一気に食べれないじゃ無い?口の中乾くし、味も素朴過ぎるし。だから毎月ノルマを決めて食べていたのよ。明日節分だから今日食べ切らなくちゃ…。」

「ってか母さん、それって消費期限とか大丈夫なの…?」

「乾物なんてそうそう腐らないから大丈夫よ。」

「そして母さん8月で53歳になってんじゃん。」

「あー!そうだった。やだ、また1粒食べなきゃ。」

「んでさ、自分の歳にプラス1粒食べるんじゃ無かったっけ?」

「えー!そうなの?母さん初耳!やだもう1粒…。」


ポリ…ポリ…ポリ…ポリ…。



豆撒き以前に更なるシュールな母親を拝むとは思わなかった。

確かに30粒ですら豆を食べるのはキツい。

キツいけど、分割して年間かけて食べる母の姿もキツい。もっと計画的に食べれなかったのかなぁ。




「そーいや忘れる所だった。母さん私の夕飯ある?」

あまりにも無い衝撃映像で忘れてた。

この感じだと期待出来そうに無いなぁ。

「この豆ならあるわよ?」

「豆なら私も貰ったから大丈夫だし、そもそも夕飯にならないじゃん!」

「あれ?『会社のイケメンを助けて夕飯を奢って貰ったから大丈夫だよ〜!』とかじゃないの?」

当たらずとも遠からず。

「残念だけど違うわ。仕方がない。コンビニでも行ってこようかなぁ。」

「なら、母さんが明日の朝に食べようとしていたのがあるから朱美にあげるわ。お味噌はインスタントでも良い?」


そう言って出された者は半額シールが貼られた恵方巻だった。

2月3日に食べると考えたら間違いは無かった。

でも消費期限が今日の0時な物を良く明日に食べようとしていたなぁ…。流石去年の豆を食べ続ける母さんだよ…。

そんな恵方巻を食べてる最中に限って母さんが無双トークになるのが本当に不思議な日だった。


2月は節分です。私の父はチョコが苦手だったので、バレンタインよりかは2月は節分です。

私の母が「喉に突っかかる」を理由に1ヵ月に渡り豆を食べてましたね。

パッサパサになるんですよねー。口の中。

でも縁起物ですからね。


少しの体調不良と仕事が忙しくてギリギリの投稿でした。

節分には間に合えたかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ