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「だって食べたかったんだもん。」

七草粥。


春の七草や餅などを具材とする塩味の粥で、その1年の無病息災を願って1月7日の朝に食べる。

正月の祝膳や祝酒で弱った胃を休める為と言われる。








「おはよぉ〜。」


私の名前は田母神 朱美。


30歳で普通の会社員。独身で彼氏なし。

心の拠り所は2.5次元舞台とほぼほぼ悟りを開いて今を生きています。

妹弟はいるけど既に家を出てしまい、父も長期に渡る単身赴任を強いられてる為、母が心配で実家住まいをしています。


ちなみにコレ、建前ね。


やっぱり実家は楽だよね。なんだかんだで舞台やら遠征やらで出費半端ないしさ。

なんと言っても自動的にゴハンが出てくるのなんて、最の高である。

1ヶ月だけ地方支部の手伝いで会社の寮に居た事があったけど、家事は本当に大変だった。マジ母リスペクト。



「母さん〜おはよぉ〜。」

「おはよう、朱美。」



やや小柄な私のお母さん。名前は田母神 正子。

趣味は料理と食べる事。

若い頃は料理教室に通い、1年後には教室の先生からスカウトされアシスタントを務めてた位に手際が良いみたいだか嘘では無いし、お世辞抜きでも母さんの料理は上手だと思う。

好きな物は韓流ドラマで、嫌いな物は韓流アイドルらしい。どれも同じ顔に見えるから面白く無いらしい。

そもそもアイドルに面白さを求めるものじゃ無いだろうが…まぁいっか。

私が聞いた母さんの1番好きなエピソードは父さんからのプロポーズの返事である。

「貴方の姓が漢字3文字だから良いわよ!」

だ、そうだ。中々パンチが効いた回答である。

今まで5人で生活していた一戸建てに、今では母さんと私だけが毎日を過ごしている。

まぁ気が向くと父さんが帰っていたりするけどね。

何せ単身赴任先の山梨県は微妙に遠くて、帰るにも少々面倒らしい。

結局今年の年越しも母さんと2人で紅白歌合戦を見て、年始はお笑い番組を片っ端から見ていた。



「朱美は明日から仕事始めでしょう?随分ゆっくりなのね?」

「その代わりに12月31日の午前中までガッツリ仕事だったからね。良いのよ。毎年5日位の有給を捨ててんだから。たまの有給入れても文句は言わせないわ。」

ゆっくりとリビングの食卓に座り台所を見る。

チラチラと母さんが忙しなく動く姿を見ていた。

ほんのりとご飯の甘い香りに気がつく。

「あー…。今日は七草かぁ。」

「そうよ。やっぱりこういう行事は大事にしたいものよね。食べる?」

「うん。食べる食べる。」

「なら顔を洗ってきなさい。出してあげるから。」

「はーい。」


洗面所に向かう途中もお粥の良いにおいが立ち込めている。

母さんと2人っきりなのを理由に、沢山の御馳走を食べたもんなぁ。

おせち、お雑煮、お汁粉、鮭に蟹、牡蠣も食べた。

初売りに行った時には母さんとケーキバイキングにも行った。

学生時代からの友達とも年明け早々に新年会もやったからな。楽しかったけど、確かに胃がもたれてるかも。

やっぱりここは日本の行事にあやかるべきなか。

あ。それいいかも。

今年の目標は日本の行事を全うするってどうかな?

早速2年詣りにも行って来たし、七草粥と…数日後は鏡開きか。そんな感じで。

来月は節分かぁ。豆まきなんて小学生の時にやった以来かもしれない。


そんな事を思い出しながら顔を洗う。冬の冷たい水がますます頭をシャキッとさせる。

今日1日の食事も気をつけてみようかな。

お肉とかスナック菓子とかは遠慮して、七草粥を食べたら近所を散歩してみよう。

洗面所を後にして今日1日の予定をあれこれ考えを巡らせながら食卓に戻ると、母さんがテーブルに幾つかのお皿や小鉢を出していた。中々豪華そうだ。

「母さん、随分豪勢そうだね。」

「も〜朝からコレが食べたくって冷蔵庫の中探しちゃったわよ!」

「ふ〜ん。何?そのおかず。」

「これよ!」


テーブルの上には七草粥。


そして


ハンバーグ。

しかもチェダーチーズとデミグラスソースがハンバーグを覆ってるヤツやん。


あれ?

七草粥ってさ、正月の祝膳や祝酒で弱った胃を休める為じゃなかったっけ?

何で休める食材にまた胃の中で革命が起きそうな食事を持ってくるかな?

ハンバーグだよ?思いっきり肉じゃん!

しかもチェダーチーズとデミグラスソースとトリプルコンボだよ!母さん!!


「まさかのおかずって…ハンバーグ?」

「そうよ?何か問題でもある?」

「何故故に七草粥の対極を出してくるかなぁ?」

「だって食べたかったんだもん。」

その母の眼差しは「え?何でそんな当たり前な事を聞くの?」くらいにキョトンとしている。

そうか…食べたかったんじゃ仕方が無いかぁ…。



いや。これは仕方が無い事案なのかーーーーー!?



「えー。朱美食べないなら母さん貰うわよ?」

「…………あ…食べれそうなら食べるわ。」

今年の目標は日本の行事を全うする。

そう今さっき目標を立てたばかりじゃないか。

とりあえず母さんの機嫌を損ねない返事をして席に着いた。

今はハンバーグさえ回避出来れば良いのだ。

きっと今年1年の目標達成したあかつきには、推しの2.5俳優に関する良い事が起きる筈!(単なる願望)


「あーそうそう。朱美、荷物が届いてたわよ?」

「荷物?何だろう?いただきまーす。」

「何処だっけ?玄関に置いたままだわ。」

お粥の優しい味を堪能している隣で、母さんは玄関に向かっていく。

何か買物したっけな?

あ。あれかも。

推し2.5俳優の写真集かもしれない。今日が発売日だっけな。よし。散歩に行かずに今日はまったりと推しを愛でようじゃないか。


「ホラ!朱美、コレコレ!」


写真集にしてはやたらと大き過ぎる箱を持って母さんは戻って来た。

「コレ!出来立てポテトチップの松水堂のポテトチップがやっと届いたわよぉ!」

記憶が走馬灯の様に蘇る。

昨年の11月末に年末年始用にと注文したけど矢張り考えてる事が他人様もそうで、お届けが年明けになるって言われたっけ。

丁度この会社さんの事をお昼の情報番組でもやってたって母さんが言ってて「食べたい」って話になったから年明け着で買った事を思い出した。




6袋、1800円。

賞味期限、2週間。



三日坊主ならず、三分坊主になった私は、ポテトチップもハンバーグも美味しく頂いた1月7日となった。

(ちなみに推しの写真集はこの日の午後に届いた。)

コレは何年か前にあった実際の出来事で、ガチで七草粥にデミグラスハンバーグを出された事があります。

正直衝撃でした。こんな組み合わせがあるのかと。

当時の私は朱美よりもうんと若い学生だったので、ただただお腹が空いてたから素直に食べたけど…よくよく考えたら七草粥の存在意義とは?と大人になってから気付いた。


そんな感じでゆっくりですが毎月続きます。(頑張れればそれなりに描いていきます。)

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