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     一


 俺が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

 寝ているベッドで上体を起こすと、部屋にいた中年男性がこちらを見た。その男性は白衣を着ている。ゆっくりと分かってきたが、ベッドも真っ白で、部屋の壁や天井、床も清潔な色だから、ここはどこかの病院なのだろう。

「起きたかい? 体調に問題はない?」

 男性がこちらに近づいてくる。俺はそれを待ち構え、彼が俺の額に手を当て、それから首筋に触れてくるのをぼんやりと受け止めた。

 首筋に違和感。手を当てると、何か、チョーカーのようなものがついている。

「これは……」

「それは、マナの供給装置だよ。無線の最新型さ、生命維持の最小限はそれで行える」

「マナの供給?」

 俺は徐々に記憶が蘇ってくるのを感じた。家で倒れたのだ。アンジェはどこだろう? それに、ここはどこだ? そう思っている間にも、男性は俺をベッドから下ろすと、部屋の片隅のトランクを開き、そこからどこかの学校の制服のような服を取り出して、手渡してくる。

「それに着替えなさい。もうあまり時間がないから」

「なんですか、これ?」

「何って、制服だよ。早く着なさい。早く!」

 男性は俺の寝ていたベッドをカーテンが囲むと、「急いで急いで」と急かしてくる。仕方なく、俺はその制服に着替える。サイズはピッタリだった。詰襟で、しかしかなり丈夫な素材で作られているのが分かる。それでいて、体に動きを阻害しないようにデザインされている。

 着替え終わってカーテンの外に出ると男性が俺の腕をつかみ、部屋を出ようとする。さすがに俺は抵抗した。

「ちょ、ちょっと待ってください。ここはどこですか? あなたは?」

「僕は金城というマイスターだよ。ここは綺会学園だ。聞いたこと、あるだろう?」

 マイスターは、マリオネットやオートマタの整備士だ。しかし、それよりも今は別のことを知りたい。

「き……、何ですか? 何学園?」

 男、金城さんは呆れたような顔をしてから、改めて俺の腕をつかむと、引っ張って部屋を出た。廊下を進む。ずっと向こうに、ドアが見えた。そこに向かっているようだ。金城さんが呆れた声で言う。

「綺会学園を知らないのかい? マスターとマリオネット、マイト、マイスターを育成する学校だよ。きみの創造主も、関係している」

「創造主? 親ってことですか? 柏原雨彦?」

「なんだ、きみはなにを言っているんだ? きみを作ったのは、柏原博士だろ?」

 会話がかみ合わない。とりあえず、質問をぶつけるしかない。

「ここは病院じゃないんですか? どうなっているんですか?」

「だから、ここは綺会学園だ。きみは病院に行っても仕方ないだろ?」

「なぜですか?」

 俺の質問の、金城さんは嘆息して言った。

「きみは、マリオネットだろ?」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。

「マリオネット? 俺が?」

「そうだ。何を言っているんだ?」

「お、俺は、人間ですよ」

 金城さんが立ち止まり、こちらをじっと見た。その眼には、困惑があった。

「きみは、マリオネットだ」

「人間ですよ」

「マリオネットだ。このチョーカーを外してやろうか?」

 言うが早いが、金城さんがチョーカーを剥がした。瞬間、俺はずしりと体が重くなるのを感じた。片膝を床につくのと同時に、金城さんがチョーカーを巻き直してくれる。体の調子が戻る。

「ほら、きみはマナの供給がないと、動けないだろ? マリオネットの証拠だ。背中に認証表示があるから、今度、鏡でも使って見てみれば良い」

「そんなバカな……」

「ほら、行くぞ」

 歩みを再開した金城さんに引きずられるようについていきながら、俺は愕然としていた。

 俺がマリオネット? 何の冗談だ? 俺は体内のマナを活性化しようとするが、少しも力はわかなかった。どうなってしまったのだろう?

 ついに廊下の先の扉の前に着き、金城さんが腕を放した。そしてドアを開ける。

「さぁ、お披露目だ」

 ドアが開くと、その向こうにはまぶしい光景が広がっていた。

 思わず細めた目を開いた俺の前では、赤いじゅうたんが敷かれ、シャンデリアが輝き、そして着飾った男女がゆっくりと時間を過ごしていた。

 そこにいる人間は、圧倒的に子どもが多い。高校生くらいの年齢が一番多いだろうか。男子は、俺が着ているのと同じデザインの詰襟の制服を着ている者もいるが、それとは少し違う形の詰襟の姿も見える。女子は制服ではなく、ドレスや和装など、それぞれに着飾っていた。

「良いかい、きみは今から三十六番だ」

 金城さんがそう言いながら、俺の胸に「36」と書かれたプレートを張り付けた。そして目の前の大広間の奥を指差す。そちらを見ると、一段高いエリアがある。

「あの舞台の上に行って、声がかかるのを待つんだ」

「え? え?」

「その後のことは心配いらない。さぁ、行け行け!」

 背中を押されて、俺はつんのめるように大広間に踏み出した。

 周囲からの視線を受けつつ、俺は言われた場所へとゆっくりと歩いた。

 周囲にいるのは人間だけのようだ。そして言われたステージの上に立つと、そこに上がっているのは、マリオネットなのだと分かる。人間とは微かに違う気配、違う立ち居振る舞いが感じられた。それに、彼らはみんな、服に番号の書かれたプレートをつけている。

 俺はしばらく、その上で周囲をうかがっていたが、なんとなく様子が分かってきた。

 ステージに立っているのはマリオネットで、それを人間たちが、眺めているのだ。俺が入ってきたドアとは別にドアがあり、そこから人が出たり入ったりしている。彼らはマスター候補生なのだな、と分かった。

 つまり、これはマリオネットのお披露目式なのだ。俺は選ばれる側というわけか。

 しかし、今でも俺は自分がマリオネットだとは思えなかった。先ほどの、チョーカーを外された時の感覚は、はっきりと思いだせたが、嘘だとしか思えない。

 俺はぼんやりと大広間を眺めた。何人かの少年や少女がこちらを見ているが、しかし、俺にはどうしたらいいか分からなかった。

 しばらく立ちつくしていると、会場が急にざわついた。俺は人間たちの視線の向く方向を見ると、一人の少年が入ってきた。すらりと背が高く、大人びて見えるが、まだどこか幼さもある。

 その彼に、全員が注目していた。彼はゆっくりと会場に入ってくると、まわりを見ることもなく、ステージに近づいてきた。そしてじっと俺たちを眺め始めた。その様を、他の人間たちが凝視している。

 少年は何者なのだろう? 俺はそんなことを考えながら、彼を見ていた。

 そんな中、彼はこちらを見て、動きを止めた。居心地の悪さを感じていると、よく通る声で言った。

「三十六番、こっちへ」

 俺は無視しようかと思ったが、そういうわけにもいかず、ゆっくりと他のマリオネットの間を縫って、ステージの淵へと歩いた。男が近くから俺を、つま先から頭のてっぺんまで、仔細に眺める。

 少年がかすかに笑った。

「俺は、神守泰平。高等部の一年生だ。きみは何年生?」

「今、高校一年だけど」

 俺は同い年だと分かって、少し気分が和らいだ。砕けた口調で答えると、泰平がハハハと笑った。

「高校一年か。俺が知らないってことは、転校組か。どこの学校? それとも研究所?」

 通っていた高校の名前を俺は告げたが、泰平は怪訝そうな表情になった。

「聞いたことのない学校だな。新しい学校かな?」

「いや、もうだいぶ古いけど。校舎とか」

「校舎? マリオネットも学ぶ、そういう学校かな、うちみたいに」

 そこでやっと俺は気づいた。普通の学校には、マリオネットなどいない。マリオネットが学習する必要など、ないからだ。

 マリオネットに何かを学習させたければ、その核となる『ギア』に情報を打ち込めばいい。何も学校に通う必要はないのだ。

 俺が苦りきった顔になると、泰平は少し困った顔になったが、元の澄ました表情に戻って言った。

「ちょっと糸をつないでも良いかな」

「ん? あぁ」

 俺は恐る恐る、右手を差し出した。泰平がポケットから細い糸のようなものを取り出す。その糸の片端は指輪に繋がっていて、もう一端は何もない。指輪を人差し指に嵌め、糸が俺の手に触れた。

 チクリと痛みが走り、糸が肌に突き立っているのが分かる。しかし、それだけだ。何も起こらない。

 俺が戸惑っていると、泰平が指をクンクンと曲げた。

 次の瞬間、俺の左腕が自然と持ちあがり、手を閉じたり開いたりした。

驚きのあまり呆然としていると、泰平がさらに指を動かし、するとどうだろう、俺の体が勝手に動く。しばらく体の動きを支配された後、泰平は目を閉じてじっとしていた。俺は、おいおい、と思いながらそれを見ていた。

俺は本当にマリオネットらしい。こんなことがあるとは。

泰平は瞼をあげると、

「俺のマナを感じるか?」

 と言ってきた。俺は自分の内側を探ったが、泰平のマナはかすかに存在を意識させるが、それほど強く感じない。これだったら、前に、自分の内側のマナを操作していた時の方が、強いマナを感じていただろう。

 あれ? と俺はふと気付いた。俺がマリオネットならば、あの時のマナは、誰のマナだったのだろう?

 泰平は「やはりプロテクトか」と呟き、それからクンと指を引いて、俺から糸を外した。この糸が、操糸と呼ばれる、マリオネットとマスターをつなぐ糸か。俺は自由になった体を動かしつつ、右手を撫でた。

 泰平は、あごに手を当てて、何かを考えたようだったが、頷くと、

「俺と組まないか? 俺のことは知らないだろうけど、損はさせない」

と、言った。その一言で、会場がざわついたのが分かった。なんだ? この男子生徒はなぜ、こんなにも注目されているのだろう?

「組むってことは、俺があんたの、その、マリオネットになる、ってことか?」

 思わず出た言葉に、泰平は強くうなずいた。

「そうだ。俺なら、お前を最強のマリオネットに出来る」

 最強。

 その言葉は、とても強い吸引力を持っていた。

 俺は自分がマリオネットだと信じ切れていないが、それでも、マリオネットになるのだから、最高のレベルを目指したい、となぜか思う。これはおそらく、ギアに刻み込まれた、根本的な欲求なのだろう。

 人間の道具であるマリオネットは、主人を、最高の存在にしたいのだ。

 少し考えてから、俺は言葉を口に出した。

「俺は――」

「あー!」

 突然の声に言葉を飲みこみ、そちらを見る。

 こちらを指差している少女がいた。

 少女はひざ丈のスカートの黒いワンピースを着ていて、仁王立ちで、こちらに指を突きつけている。隣には少し驚いた顔の、和装の少女が立っている。

こちらを指差す少女は目を見開いていて、その顔が驚きから一気に怒り一色に変わっていった。

「なんだ? 知り合いか?」

 泰平が訊いてくるが、俺はそっぽを向いて、少女から顔を隠した。少女がずんずんと歩いてこちらへ歩み寄ってくる。置き去りにされた和装の少女が「マリア!」と止めるが、振り払った。

 俺は逃げようとしたが、それより先に、少女が何かを投げるように手を振り、それが操糸を投げたのだと分かった時には、俺の首筋に痛みが走り、体が動かなくなっている。体の内側に、マナの気配がする。

「あんた、逃げんじゃないわよ」

「逃げちゃいねえ!」

 俺は精いっぱい、怒鳴り返しつつ、しかし体が気をつけの姿勢を取るのは止められなかった。直立不動で、斜め上を睨みつけたまま、少女が目の前に来るのを待ち受ける。

 少女は俺の前に立つと、そこにいた泰平をじろっと見た。そして鼻で笑いながら、

「なんだ、あんたか」

 と言って、それから俺を見た。

「神守くん、あなたには確か、二体のマリオネットがいたはずだけど? しかも、去年の試験では断トツの一位、それに高校生との交流戦でも負けなしの、『千輝の紫紺』、『光輝の紺碧』だったわよね。その二体を持つあなたが、今更、こんなお披露目に顔を出して、もう一体、使役しようって言うの?」

 相手を見ずにまくしたてるあたりが良い性格をしているな、と思いながら、俺にはこの少女が何を言っているのか、ちんぷんかんぷんなはずだが、なぜか、理解できた。どういう事だろう?

 俺が訝しがっている前で、泰平が笑う。

「そういう君は、学年最下位だったかな? マリオネットをやたら破壊させるような、低級のマスターだったような」

「ざ、残念ながら最下位じゃないし、好きでマリオネットを破壊しているわけじゃないわ」

 少女が泰平を睨む。二人はしばらく、視線を交えていた。少女の背後では、追いついた和装の少女が心配そうな顔で眺めている。俺は直立不動のままだ。

「それよりもよ」

 少女がこちらに視線を戻す。

「この男は、私とはちょっとした縁がある」

「そうなのか?」

 泰平が俺の方を見るが、俺は首を横に振る。が、それも即座に制限され、首が動かなくなった。

「あるわよね?」

 少女が言うのに、俺は冷や汗をかきながら、口だけ動かして答えるしか出来ない。

「なにもない」

「あら? 覚えてないかしら。ついこの前、私のオートマタを力づくで破壊した、人でなしがいた気がするんだけど?」

 知らない、と言おうとした時には、がくりと首が下を向き、俺は少女を見降ろしている。強い視線が睨みつけてくる。

「いたわよね?」

「い、いました……」

 思わず俺が答えると、よし、と少女が頷いた。

「あんた、神守くんと契約するの?」

「それは……まだ決まっていない」

 少女が泰平を見る。泰平は首をかしげながら言った。

「まさか、きみ、この彼と契約するつもりかい? おいおい、虚木さん、きみには、彼はもったいないよ」

「もったいない? どうして?」

「それが分からない時点で、もったいない、ということだよ」

 にやりと泰平が笑うと、少女の額に青筋が浮いたのが分かった。

「分かるわよ、それくらい」

「分かる? どうして?」

「このバカが、私のオートマタを破壊したからよ!」

 少女が指を振ると、俺の体がひとりでに動き、その場にひざまずく姿勢になる。屈辱的な姿勢だが、しかし、今は体の自由が利かない。

 泰平がふぅむ、と少女と俺を見比べる。

「きみ程度の実力で彼の力を百パーセント、引き出せるとは思えないな」

「百パーセント? あんたならできるの?」

「やってみせようか? 虚木さん」

 少女はギロリと泰平を睨みつけ、そしてピンッと指を引いて、俺から操糸を抜いた。俺はふぅ、と息を吐いて、姿勢を戻した。体の内側に残っているマナの残滓を感じつつ、体をほぐした。

 俺をちらりと見てから、泰平が少女に言う。

「虚木さん、きみじゃ力不足だ。遠慮しなよ」

「それは私が決めることじゃないわ。この彼が決めることよ」

 そう言いつつ、少女がこちらを見た。そして泰平もこちらを見る。いつの間にか、会場が静かになっていた。全員が息を飲んで、泰平と少女のやりとりを意識し、そして今は無数の視線が俺に集中する。

 俺は、さすがに困って、こちらに詰め寄っている少女の背後に控えた、和装の少女に声をかけた。

「あのぉ、マリオネットとマスターの相性って、どうやって分かるんでしたっけ?」

 和装の少女が首をかしげて言った。

「さぁ? 私、マリオネットじゃないし。別にないんじゃない? 普通の人間関係と同じでしょ?」

 それもそうか、と俺は肩を落としつつ、目の前でこちらを睨みつけてくる少女と、落ち着いた視線の泰平を見る。俺は二人を見比べて、それから聞いた。

「あんたたち、俺で何をしたいの?」

 俺の言葉に、泰平が即座に答える。

「俺は最強を目指す。そしてお前を最強にしたい」

 それを聞いて少女が鼻を鳴らす。

「私はただ、自分の夢をかなえたいのよ」

「夢?」俺は思わず聞いた。

「夢は夢よ。今は言わない」

 俺はうぅむと考えながら、腕を組んで、少女と泰平を見比べ、ふぅと息を吐いた。

 俺は手を差し出した。少女と泰平が目を見開く。

「じゃあ、あんたを選ぼうかな」

 俺は少女に手を差し出していた。泰平が渋い表情になり、少女がやや嬉しそうな表情になってから、すぐにむっとした表情になる。

「ふん。私を選んだってことは、相応の覚悟があるのね?」

「よく分からん」

 俺の言葉を受けて、泰平が笑った。

「まぁ、きみの選択を尊重するよ。しかし、後悔すると思うけどね」

「悪いな、泰平。まぁ、これからも仲良くしてくれよ」

 泰平が首を振った。

「俺は、お前を徹底的に破壊するよ。滅茶苦茶にね」

「それは無理よ。私がいるから」

 強い少女の口調に、俺は、おっ、と思った。それは俺がこの少女を選んだ理由の証明のように思えた。泰平がきつい視線で少女を睨みつける。

「無理だ」

「無理じゃない」

「無理だろうな」

 少女が一歩踏み出し、泰平を近距離で睨んだ。

「私は、あなたに負けたら、学校を辞めても良いわ。どうせ、辞めるつもりなんだし」

「おいおい、唐突だな。言い訳のために、そんなことを言っているのか?」

「そう取りたければ、そう取ればいい。私は、こいつの実力を知っているから、だから、あなたも倒せると、そう思っている」

「なら、試験でそれを証明すれば良い。こんな言葉だけではなく。じゃあな」

 泰平は手を振って俺から離れると、そのまま会場を出て行った。そしてそれを見送った他のその場の人間は、パラパラと拍手をした。それは少女に向けられたものだったのだろう。

 少女がこちらを見て、俺の手を掴んで、握手する。

「私は、虚木真利阿」

「よろしく。俺は柏原晴彦」

「名前なんて何でも良いわよ。私がちゃんとした名前をつけてあげるから」

 そう言うと少女、真利阿は俺の手を引いて、会場の端へと歩いていった。ドアがあり、そこにいた係員がドアを開けてくれた。真利阿が和装の少女に「優奈、また後でね」と言って手を振り、優奈と呼ばれた少女も手を振り返した。ドアの先には、俺と真利阿だけが進んだ。

 廊下が続き、そこに並ぶ部屋の一室の前で、係員が、ドアを開けたので、中へ入った。

 誰もいない、狭い部屋だ。

 床には、見たこともない文字で、円が描かれ、その中に六芒星が二重で描かれている。その図のせいなのか、部屋の中の空気が先ほどの大広間や廊下とは若干、違う。息苦しい、と言えばいいのだろうか。

「なんだ、ここ?」

「契約の部屋よ。ほら、ちょっと我慢してね」

 真利阿が俺に再び操糸をつなぎ、俺の首筋から、チョーカーを外した。一瞬、体が重くなるが、しかしすぐにマナが沸き上がり、元に戻った。

 俺の隣で、真利阿が頭を押さえていた。どうしたのだろう? 聞こうと思った時には、真利阿が紋様の中へ歩を進めていた。俺の体が自然とそれについていく。二人で紋様の中心に立つ。

「じゃあ、契約の儀式を行うわよ」

 厳かに、真利阿が告げた。



(続く)

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