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     十


 結局、俺は真利阿とは仲直りしないまま、中間試験四回戦を迎えた。

「大丈夫か? 真利阿」

 俺が訊くと、真利阿はかすかに首を縦に振った。声はない。

 場所は、ドームの内部にある控室。広い部屋に、俺と真利阿、そして隼丸と優奈、小李と月子がいた。俺は小李から借りた、野太刀を鞘から引き抜き、チェックした。

「犬、それは私が責任を持って作ったから、万が一にも不良はないわよ」

 俺は、そんな月子の言葉に真利阿が何か言うだろうと思って黙っていたが、いつもは憎まれ口の一つでも言うはずの真利阿はなにも言わなかった。その妙な雰囲気に、月子がイライラとした感じで、小さく舌打ちした。

「真利阿、緊張しないで」

 優奈がそう言いながら、真利阿の肩を揉んだ。

「大丈夫よ、ちゃんと研究してきたじゃない。狗彦くんも、協力してくれたし」

「う、うん……」

 真利阿が緊張するのも分かるが、しかし、緊張のし過ぎだと俺の目からも分かった。何が、そんなに真利阿を震え上がらせるのだろう?

 俺がそれを聞こうと口を開いた時、ドアがノックされ、係員の学生が、顔を出した。

「時間ですー、会場へどうぞー」

 俺は野太刀を提げて、部屋を出ようとした。そこに優奈が近づいてきて、「隼丸、真利阿を連れて行って。すぐ行くから」と言った。隼丸は真利阿を連れて、部屋を出た。月子と小李もそれについていく。不安そうな顔でこちらを見たのが、ドアが閉まる直前に見た真利阿の姿だった。

「なんだ? 優奈」

「これを」

 優奈は俺に操糸を差しだしてきた。一方の端は優奈の指の指輪に通じている。俺は良く理解できないまま、操糸を自分の手に当てた。接続される。

(聞こえるなら、声に出さずに頷いて)

 頭の中で優奈の声が響いたので、頷いた。マナを使った直接会話だ。優奈の実力なら、そして正当なマスターとマリオネットなら、こちらからも意思を通じさせられるはずだが、俺と優奈の間でそれはできない。一方通行だ。

 優奈が続ける。

(返事はいらないから、話を聞いて欲しいの)

 俺はもう一度、頷いた。

(真利阿の前のパートナーについては、聞いている?)

 首を横に振ると、優奈が苦しそうな表情になり、それから声ではない声で言った。

(真利阿の前のパートナーはね、夢路っていう名前の女の子だった。まぁ、マリオネットなんだけど)

 俺はじっと黙って、優奈を見た。優奈は俺から視線をそらさなかった。

(夢路は、中等部の年度末試験で、真利阿と一緒に戦って、死んでしまった。ギアに致命傷を負ったの。一応、真利阿は進学できたけど、高等部ではパートナーはコロコロと変わったわ。それと、夢路を破壊してしまった同級生も、心を病んで、学校をやめたのよ)

 初耳だった。真利阿はそういう話を俺にしたことが無い。問いを発したい気持ちを抑えて、優奈の続きを待った。

(だから、あなたが泰平に破壊されるんじゃないかと、真利阿は怯えているのよ。極端に恐れている。でも、私はそれが狗彦くんを無視したものだと、正直、思っている。あなたを見くびっていると感じる。違う?)

 首を横に振って見せると、優奈がかすかに笑った。

(真利阿を守ってあげて)

 それは違う、と思ったけれど、俺は律義に黙っていて、反応を返さなかった。

 真利阿は、守ってなんか欲しくないはずだ。ただ、自分で自分を守れるようになりたいんじゃないか。誰かを犠牲にして立つよりは、自分を傷つけて立っている方が、その方が良いと真利阿は思っているような気がした。

 優奈が操糸を俺から引き抜いた。ドアがノックされ、係員が再び顔を出した。「急いでくださいー。棄権になりますよー」と言う。優奈がポンと俺の背中を叩いた。

「行って」

「また、詳しい話を聞くよ」

 死ななければ、とは思ったが、言わなかった。一瞬後の俺には、死ぬ気はなくなっていた。死ぬものか。

 俺は控室を出ると、走って会場へ向かった。廊下を抜け、コートに出る。

 ドームには四面の大きなコートがあるが、今は通常の一面を二面に区切り、八面のコートが組まれている。その中の一つ、荒野のコートの一面で、真利阿が俺を待っていた。

「……遅いよ」

「……悪い」

 俺は真利阿の隣に立った。四回戦からは、マスターもコートの中に立つ。マリオネットはマスターを守りつつ戦い、マスターはマリオネットと操糸を操りつつ、自分を守る必要がある。高度な戦略的思考が必要だ。

 俺は真利阿に何か言うべきだと思ったが、何も言えなかった。コートの対面に、泰平がいる。泰平の左右にそれぞれ、少女が控えている。一人は、隼丸を仕留めた紫紺だ。もう一人は濃緑を基調にした、紫紺と同じドレスを着た、双子のようにそっくりの少女で、名前は紺碧という。

 この一人と二体が、この学校の高等部で、最強と言われるマスターとマリオネットだ。

 俺もさすがに緊張しているのが、自分でも分かった。ここ三日で、俺も真利阿もだいぶ訓練を積んだが、それはどれだけ通用するだろう。俺は自分を信じることはできたが、真利阿を信じられるか、分からなかった。たぶん、真利阿は俺をサポートするだろう。

 本気でやるだろうか?

やるだろう。

 では、勝つ気でやるだろうか。

 それは……、分からない。

 でも、勝とうと思わなければ、勝つことなど到底できないと、そう思えた。

 俺は、真利阿を信じなければいけない。

 信じなければ……。


      ◆


「ふぅむ」

 初老の男は、自分の研究室でモニターに映るドーム内の映像を眺めていた。カメラは固定されていて、全てのコートが生中継されている。例年通り、視聴者はチャンネルによって、それぞれのコートのどれか一面を大画面で見ることもできた。

 初老の男が見ているのは、虚木真利阿と狗彦、神守泰平と紫紺、紺碧の試合のコートだった。

「……あれが、柏原のマリオネットか」

 男は小さな声で呟いた。画面を食い入るように見つめている。

「ブーストアクセルを搭載しているというが、次世代型の機能とはいえ、果たして、私の紫紺と紺碧にどれほど対抗できるのか。見ものだな」

 そう言うと、男は喉の奥で笑った。

 今、試合が始まろうとしている。


     ◆


 ブザーが鳴ると同時に、私は、狗彦にマナを戦闘出力を出せるように流し込んだ。

 しかし、狗彦は動かない。鞘から抜かないでいる野太刀を腰に引きつけ、いつでも動けるようにしながら、しかしその場で構えている。私からは、五メートルほど離れていた。

 一方、泰平と紫紺、紺碧も動かない。泰平は余裕の頬笑みを浮かべ、紫紺と紺碧も落ちついた表情だ。勝利が揺るがないと信じている顔だ。

 それは十秒だったか、それとも三十秒だったか。もしかしたら一分だったかもしれない。私たちはただお互いを見て、動かなかった。

 泰平がパッと右腕を振った。

 光が瞬く。ライトニング・ライン。事前の予想通り、マリオネットだけではなく、マスターもそれを放てる。私だって虚糸の状態になれば、それには劣るものの、同じ現象を放てるのだ。

 狗彦が小さく動き、操糸を避ける。地面に土埃の筋が走った。私も慌てて横に跳ぶが、操糸が一本、切断される。昨日まで続けたシュミレーションより、だいぶ一撃が速い。

(狗彦、仕掛けて!)

 私が狗彦に思念を送るが、向こうからこちらへは通じないし、声もなかった。返事がないのに苛立ちながら、狗彦の背中を見る。彼は微動だにしない。

 どういうことだろう。昨日までの打ち合わせでは、ある程度まで間合いを詰め、後はタイミングを見てヒット・アンド・アウェイで攻撃する予定だった。

 どうして狗彦は動かない?

 さらに泰平が両手を一度ずつ、振った。二つの閃光が絶対の切れ味で、狗彦と、その延長線上にいる私を襲う。狗彦は最小限の動きで、攻撃を避ける。見切っているのだ。

 しかし私はそうはいかない。転がるように移動して、攻撃を避ける。しかし、それでも一撃ごとに操糸が一本、切られる。

(狗彦!)

「下がってろ!」

 狗彦の声に、思わず身がすくむ。狗彦の本気の怒声だった。

 私は操糸を守ることに専念し、数歩後退した。そこへ泰平が連続して手を振った。

 今度は狗彦も大きく動いた。跳んで、転がり、起きあがる。その時には、私と狗彦の間の操糸が今までより伸び、そこにライトニング・ラインが牙をむいている。

 一瞬で六本の操糸が切断された。

 残りは一本だ。

 泰平がすぅっと手を横に薙ぐ。

(狗ひ――)

 私が意思を送るより先に、体からマナが急激に吸い取られ、私は眩暈がした。

 泰平の細い操糸が宙を高速で疾り抜け、狗彦がそれを避けた直後に、最後の操糸が切断され――、一瞬で私と狗彦の間に、十本の虚糸が通った。

 紫紺と紺碧が待っていたように、こちらへ駆けだす。実際、待っていたのだろう。狗彦も前進を始める。今、やっと気づいたが、狗彦は、紫紺か紺碧が動くのを待っていたのか。先に突っ込めば、ただ操糸を切られるだけだったはずだ。結局、無駄だったが、狗彦は、可能な限り、操糸を守ろうとしたのかもしれない。

 最前の紫紺と狗彦が一気に接近していく。

 紫紺と紺碧は素手だ。しかし、彼女たちは、自らを操る操糸を武器にする。つまり、向こうは泰平を含めて、三人が十本の操糸を使って攻撃してくることになる。それが意味するところは――

 紫紺が両手を振り抜くと閃光が三回瞬き、狗彦がバウンドするボールのように動いて、攻撃を回避する。そう、三回である。右手と左手が一度ずつ振られ、通常の操糸よりも細く、そして長い泰平の操糸は、自在に曲がり、伸縮し、動作の回数以上の複数の攻撃を同時に放てる。

三回の攻撃と同時に、私は体に強烈な負荷を感じていた。それは狗彦が身体能力を強化したこともあるが、それとともに、紫紺の攻撃が私の虚糸にぶつかったためだ。

 私の虚糸が、一瞬だけ切断され、すぐに回復する。

 優奈と練った事前の想定では、泰平の操糸による攻撃は虚糸を切れない、と考えていたが、予想以上の切れ味だ。攻撃を受けた感じからすると、泰平の操糸を流れるマナは、チェーンソーのようなもののようだ。

 私は虚糸をこれ以上切らせないように、自身も移動しながら、狗彦に力を流し続ける。

 狗彦は、紫紺と距離を置いて、停止していた。一瞬で飛び出せる姿勢で、紫紺が両手を持ち上げるのを見ている。

 紫紺が両手を振った。紫紺に繋がれている操糸の数は、紺碧と等分に分けているので、五本。

 攻撃は、十回だった。ダブル・ライトニングと呼ばれる、紫紺と紺碧が使う、技の一つだ。五本の糸を全て二つに折り、十本の弧にして撃ちだしてくる。

 隼丸が避けきれなかったそれを、狗彦は、ギリギリで避けて見せた。

 隼丸の時とは違い、コートが広いという事もあるが、一瞬の判断で、十本のラインを読み切る。それをやってのけたのだ。それだけですごいことだが、狗彦はそこからさらに、紫紺に肉薄してみせた。

 しかし、そこまでだ。紫紺がさっと手を振り、狗彦の手元で、野太刀が根元から折れた。いや、斬られた。

 狗彦が一気に後退するのと同時に、紺碧も動き出す。一直線に、前へ。

 私はその侵攻を止めようと、虚糸を操作する。泰平や紫紺、紺碧に出来ることが、私に出来ないわけがない。実際に、この四回戦までに、私はある程度、それを証明してきた。

 私の虚糸が唸りを上げ、狗彦をサポートしようと縦横に駆ける。向こうはそれぞれ五本だが、こちらは十本を一度に使える。

 だが、紺碧はそれを軽々とあしらった。

 彼女が両手を振ると、まるで幻術か何かのように、私の虚糸十本が、まとめて分断された。

「うっ――」

 思わず息が詰まりつつ、狗彦から流れる巨大なマナの力で、虚糸が一瞬で修復され、流れるマナの反動として私からもマナが流れた。グッと体が重くなる。

 狗彦は紺碧の前に出ようとするが、紫紺が操糸を何重にも放ち、足止めする。完全に、狗彦の足が止まっていた。その脇を、紺碧が余裕の微笑みで通過する。

 これで、私は一人で、紺碧に対抗しなくてはいけない。私は虚糸の強度を強めようと、マナを強く流すしかない。視界がやや狭まり、腕が重いが、それでも腕の先の十本の指から伸びる十本の光の糸を、操る。

 閃光が幾重にも交錯する。


 俺は体の重さを感じながら、それでも紫紺の射線から逃げ回っていた。すでに紺碧は俺から離れつつある。このままだと、真利阿が危ない。

下がるべきか? いや、このまま下がれば今度は紺碧と接近し、奴が振り返れば、あっという間に挟撃され、俺が負ける。しかしこのまま、真利阿が持ちこたえられるとは思えない。

この体の重さは何なのか。それを真利阿に問いたかった。先ほどから、時折、マナが途絶える瞬間がある。虚糸を切られているのだろう。その度に、俺の体は重さを増している。

マナを活性化させるべきか、迷う。それに真利阿は耐えられるだろうか。

(狗彦!)

 切迫した声が脳内に反響し、思わず背後を振り返る。避け損ねた紫紺の操る操糸が、体を反らせた俺の頬をかすめ、浅く斬り裂いていった。

 目の前で、紺碧の五本の操糸が十本となり、真利阿に襲いかかるところだった。

 真利阿は、俺と彼女自身を結ぶ虚糸を振っているが、間に合わない。

 試験は四回戦からマスターも戦場に立つため、敗北条件に、一つ、条項が加わる。

 マスターが戦闘不能になること。

 マイト、マイスターはマリオネットやオートマタを司るだけあって、人間の体もそこらの医者より上手く治す。それでも、マスターの中には体の一部を有機物と無機物、どちらかの人工物で補うものも多い。

 俺は真利阿の体を操糸がかすめ、ぱっと血が散ったのを見た。

 瞬間、俺は何もかもを忘れていた。

 一瞬で最高潮までマナが活性化し、俺の体が加速する。

 そして視界は光に包まれた。


     ◆


「速い――」

 優奈は、真利阿・狗彦サイドのベンチで、二条幹子がそう呟くのを聞いた。

 狗彦は正式なマイトとマイスターがいないため、幹子がその役目を特別に負っているのだ。ベンチには今、幹子と優奈、隼丸、月子、小李がいた。

 そしてその目の前で、狗彦の体が瞬間移動のような速度で駆け抜け、紺碧をふっ飛ばしていた。

「なによ、今の……」

 月子が呆然と言う。優奈はじっくりとその様子を見ていた。

 人間のレベルどころか、マリオネットのレベルさえも超えた、超高速移動だ。優奈はプロのマスターとマリオネットがそれをやって見せた映像を見たことがあるが、それに近い、もしくは勝る速度の移動だった。

 学生が実現させるレベルじゃない。

 狗彦に突き飛ばされた紺碧は、ごろごろとコートを転がり、起きあがった。左腕が、おかしな方向に曲がっている。操糸も三本、切断されている。

「まずいな」

「ええ」

 幹子の言葉に、優奈はそう答えた。月子がそんな二人を黙って見つめている。

 優奈の視線の先で、真利阿を抱きしめた狗彦から、青い光が散っていた。幹子が舌打ちする。

「本当にまずい。今の小僧は、暴走寸前だ。ブーストアクセルが過剰に働いている。あそこまで行けば、制御できんぞ」

 優奈は黙って立ち上がると、ベンチにあるギブアップボタンへと手を伸ばした。

「止めるの?」

 そんな月子の言葉を無視して、優奈は即座にボタンを押した。

 しかし、反応が無い。二度、三度、と押し直すが、やはり反応はなかった。優奈が振り返った時には、幹子はすでにタブレットで何かを入力していた。指が素早く動き続ける。

 そんな中でも、試合は続く。


 初老の男は、画面を見ながら笑っていた。

「ホホホ、これはまた、やるものだな」

 画面の中では、真利阿が苦しそうな顔をしながら、狗彦に抱き締められている。青い燐光、そしてかすかに煙が上がっている。

 狗彦がそっと真利阿を地面に横たえた。真利阿は意識を失っていないらしく、四つん這いになった。その手からは、十本の虚糸が伸び、今まで以上に光を放っている。

「マスターを殺すかね、きみは」

 男はニヤニヤと笑いながら言う。

 狗彦に二十四本の操糸が襲いかかったのは、その時だった。

 圧倒的な物量の、類を見ない、大攻撃。

 それは、狗彦には届かなかった。狗彦と真利阿を囲むように、光の球体が浮かび上がったかと思うと、操糸はその表面で瞬き、弾かれる。

「ホホ、すさまじいな、これは。濃密なマナによる天然のシールドか」

 泰平、紫紺、紺碧の三人が、続けざまに、操糸を繰り出す。地面が抉られるが、その二十を超える斬撃は、行きつくはずのところには一本たりとも、踏み込めない。

 攻撃がやんだ時、真利阿はぐったりと地面に横たわり、狗彦だけが直立していた。

 そして狗彦が右腕を天に掲げた。

 そこに光が集中すると、それが上へと伸びる。ドームの天井までは何十メートルとあるはずが、そこに達してもあまりある光の束が、画面に映し出された。その光が収束していく。

オオオオオオォォォォォォォ!

 狗彦の絶叫がスピーカーから割れた音声となって流れたので、男は眉をひそめた。

 狗彦の右手に、一本の剣が現れていた。まるで板のような幅の広い刃を持つ、巨大な剣だ。精緻な装飾が施され、白銀と黄金が美麗な紋様を形作っていた。

 それを見て、男が笑みを深くする。

「虚界物質の剣、それも、虚界の形をそのまま維持した完全体の剣か。なんとも興味深い」

 狗彦が剣を両手で握ると、それを上段から、泰平に向けて振りおろした。

 ズン! と引く音が響き、振動が、男のいる研究室にまで届いた。

 画面の中は、土煙が盛大に巻き起こり、何が起こったのか、分からない。しばらくその状態が続いた。

 やがて煙が晴れると、真利阿が地面に倒れ、その近くに、狗彦も倒れていた。

 そして天から光が差し込み、地面には深い亀裂が走っていた。

 亀裂は、両手で顔をかばっている紫紺の目前で止まっている。

 狗彦の手元に、もう、剣はなかった。それを確認して、男が小さく息を吐いた。そして残念そうな顔をしてから、ニタリと笑う。

「まだまだか。しかし、強さは証明された。あれは、私がもらってもいいものだ」

 試合終了のブザーが鳴り響くのを聞きながら、男は画面のスイッチを消し、画面は真っ暗になった。


(続く)

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