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第7話 罰当たり

 


 現在異世界にて、逃走中。

 

いつから俺は追われる立場になったんだ。

あれから一時間くらいはたっただろうか。

そろそろ体力の限界だ。


「はぁ、はぁ……おえぇ」


 少し吐き気もしてきた。このままだとキラキラとエフェクトを付けかねないので、休憩を取る事にした。

傍にあった小岩に腰を下ろす。


 ぜぇぜぇはぁはぁといいながら呼吸を整える。一つ分かったことがある。俺の体力は思ったよりもない。


 く……自分の力を過大評価しすぎた。まだスポーツ系男子を気取れると思っていたが、やはり帰宅部のエースはだてじゃない。


 おそらく部活を続けていた頃はもうちょっと楽に走れただろう。一日休むとそれを取り戻すには三日かかるーーなんて事を聞いた事があるが、それにならうと俺の体力を取り戻すには何日かかるんだって話だ。


 部活は辞めるもんじゃないな。今更になってこんなことを思ってしまった。

 それでもだな。


「ハ、ハードワークが必要だな、異世界……」


 俺はてっきり、どこかの国の城下町や村の近くに転移するもんだと思っていた。現実は違ったが、それでもなかなかひどいな。平和な村人みたいなのが一人もいない、森の戦地だ。

 俺の様な凡人にはちょっと、いや、だいぶキツい。


「これが異世界の洗礼ってか、まったく」


 ほんの数時間前の状況を思い出す。


 見知らぬ大地。探索しても木ばかり。戦争中でいつ攻撃されるかわからない。味方ゼロ。防護用武具、食料、防寒対策なし。生活に最低限度必要な物もなし、サバイバル知識も技術もなし。


 考え出すとキリがない。無聊(ぶりょう)を託ちたくなる気持ちでいっぱいだ。現在その状況から変わった事といえば、



 -食料、武器

 +軍人の敵

 +積雪と運動により大きな体力消耗



 とまあ、こんなところか。食料と武器が手に入ったのは大きいが、代償も大きいな。いっても食料は少ないしすぐ尽きる。


 とにかく出会った人間が少なすぎるな。あと、戦争中なら、もっと爆弾とか大砲とかが使われて爆音がするはずだ。


 ポンコツ少佐達から逃げてから、特に何も大きな変化はーー




 大きな変化は。




ーーあった。一つ面倒事が増えたんだよな。

それは三十分以上前の事。




ーーーーーーーーーー




 ポンコツ少佐達から逃げてきて二十分程はたったか。


「はぁ……疲れたあぁぁっ」


無駄に疲れた。

厄介な事になってしまったな。

なんで俺は異世界にきて逃げてんだ。

仲良くできる道もあったかもしれない。


 ーーいや、仲良くは無理か。俺に発砲してきた時点でその安全ルートは消えていた。

後悔なんてしない。逆に考えろ。奴らは俺に銃口を向けてきたんだ。万死に値する。

そうだ、スッキリしたしいいんだ。


 しかしそれにしても何もないなー、景色すら大きな変化はない。人間は常に変化を求める生物である。いつまでも同じじゃつまらない。


 なんて考えていながら歩いていた時だった。


 パァンパァンパァン!

と、遠くの方で、銃声が鳴り響くのが聞こえた。また銃か。ろくでもない事が起きているのは間違いないだろうが、なんせ情報が少ないんだ。


 そうして銃声を頼りに戦闘が起きていそうな方へ向かっていった。



……案の定、ファルマス兵だった。



 俺は相手の死角になるように木に隠れ、その様子を見る。



ーー!?



 見た瞬間に俺は目を見開いた。


 ファルマス兵士は十人程。その全てがある一人の男に向けて引き金を引いていた。


 相手の男は大柄だ。鎧を着用しており、貫禄を感じるような佇まい。オールバックの強面で、厳格で頑固な父親タイプの顔。ありゃあ強そうだな。


 驚いたのはここからだ。

 ファルマス兵によって放たれた全ての弾丸が、手を前にした男の前で全て止まっていた。正確に言うと、男が空中に出した半透明の壁の様なものが、全ての弾丸を受け止めていた。

あ、アレはまさか。



 男が展開したアレは。

 俺が今目にしたコレは。



 ーーバリアだ。間違いなく、バリアと呼ばれるもの。所謂、魔力障壁といったところか。


 ……すげえ!初めて目の当たりにする魔法にテンションが上がる。やっと異世界に来た実感が湧いた瞬間だった。


 いとも簡単に受け止められ、運動エネルギーを失った瞬間弾丸は地面にパラパラと落ちていった。


 それに続くように男の後ろにいた赤髪ポニーテールの女戦士が手を掲げる。


 すると何も無かった空中に炎のボールの様なものが出現。簡単に言うとファイアーボール……が、女が手を下ろすと同時にファルマス兵士達に降り注ぐ。


 攻撃を受けたファルマス兵士達は悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちていった。

 なんとも気持ちの良い負け方だ。ざまぁ。

運良く攻撃の当たらなかったらしい兵士が二人いたが、叫びながらどこか遠くへ走り逃げていった。情けないな、ざまぁ。


 それを確認した二人はすぐさまその場を去っていった。作業感覚かよ。次の戦場にでも向かっていったんだろうけど。


 実に気持ちの良いものを見せてもらった。にしてもあの二人とは敵対したくないな。ファルマス兵の敵ってことは……あれがアルクスの者か!?


 確かポンコツ少佐は、反魔法軍隊って言っていたから、敵は魔法、もしくは魔術を使うだろう。そして実際目の前であいつらは魔法を使ってみせた。ということは、あいつらがアルクス兵である事が容易に推測される。


 ーーよし決めた。やっぱりアルクスの方に味方しよう。もし俺があんなやつに歯向かったら、一瞬にして消し炭にされて終わりだ。そんな末路はごめんだな。


 にしても魔法はやはりカッコイイ。威力もけっこうあったと思う。ファルマスの連中は、なんであんな奴らと戦争してだよ。バカなのか?全然武器役に立ってなかったじゃねーか。負け戦もいいとこだ。

きっと国のトップが相当なバカなんだろう。だから一軍の少佐ともあろう者があんなにバカだったんだ。



 そして俺はこのチャンスを逃がさない。巧みにあの二人に接近し、敵対意識がないことを伝え、向こう側になんとかして引き入れてもらうべく、行動に移った。



 だが、俺の企みは叶わない。


 なんと、ファルマス兵の集団がやってきたのだ。先頭にはさっき無様に逃げていった二人がいた。


 ーーあの野郎共!こんなタイミングで援軍を連れてきやがったな!


 今見つかるとヤバい。そーーっと、忍び足でその場から遠ざかろうとする。


「おい、その魔術師二人は何処にいる?」

「先程は確かにいたんですが、見当たりませんね」


 そうだ。そのまま俺も見当たるな。じっとしておいてくれ。


 と、その時だ。何かが目の前にいた。兵士の方を見ていたせいで気づかなかった。やばい!と思ったがよく見てみるとただの野ウサギだった。なんだよ、驚かせんなよ。


 無視して歩きを再開する。俺は急ぎめの忍び足という器用な足取りで進む。

 それに対して野ウサギは俺を警戒して走り去っていった。



 ーーカサカサと草を揺らしながら。



 ……ちょ、おい!音を出すなバカウサギ!これじゃ気づかれてしまーー



「あ!あそこです!誰かいます!」

「あれが我が兵を倒した魔術師か。追え!生きて逃がすな!」

「あれ……?あの人、何か違うような気がするけどまあいっか」



 やっべえ!俺は忍び足を即座に中断し、全力疾走で逃げる。


 あんのウサギ野郎!次会ったら毛皮剥ぎ取ってやる!

しかもなんだあの兵士、なにが「まあいっか」だよ!一番やっちゃいけない人違いだ。とにかく、今追いつかれるとやばい。



 ①この場ですぐに銃殺

 ②捕えられて連行される。するとポンコツ少佐に発見され、拷問などをされた後に処刑

 ③逃走成功



 ギャルゲーなら今これらのコマンドが表示されているだろう。生存ルートはただ一つ。

 迷わず③を選択。とにかく全力で逃走する。


 なんとか誤解を解くルート④も思いついたが、ポンコツ少佐に見つかればすぐに終わりだ。

ここは逃げたもん勝ちである。


 けっこう距離は取ってあったから、逃げ切れると思う。

なんで俺はこの短時間で逃走劇を繰り返さなければならないのかーー




 ーーーーーーーーーー




 そして現在に至る。


 ふっ、俺は昔から汐織達との雪中鬼ごっこや部活などで、積雪の中走る事には慣れているんだ。舐めてもらっちゃ困る。


 そうして無事に撒けたのは良かったが、その分体力の消費は半端じゃない。ゲロりそうになって休憩中だ。


 はぁ。結局やっと見つけたアルクスの連中とは一言も交わせなかったな。

これも全てあのウサギとバカ兵士のせいだ。恨んでやる。


 それにしても、喉が乾いた。そりゃそうだ、水分を何も含めないまま何時間も経つし、走りまわっていた。お腹も空いたな。


 奪った水とカンパンもどきを手に取り、まずは水を飲む。


「くはぁーーーっ!うまい!!」


 水ってこんなにうまかったか。随分と運動をしてこなかったから忘れていた。水なのに、最高にうまい。

続いてカンパンもどきをかじってみる。


 ……うん、普通の非常食って感じの味。

だがまぁ、軍が所持する携帯用食料だ。栄養というか、エネルギー?はあるのだろう。

分類的にはカロ〇ーメイトや十秒〇ャージみたいな感じ。


 それぞれ半分ずつ腹に含ませた。

食事をすると、少しだけ気分が楽になる。

腹が満たされると気持ちも満たされるな。満腹には程遠いけど。


 それにしても眠くなってきた。仮眠をとりたいところだが、とったら最後、次は目を覚まさない可能性だってある。

気付かないうちにパァン!で永眠ってな。それだけはごめんだ。


 ぐだぐだしてても日が暮れる。歩かなきゃ何も始まらないしな。


 改めて気持ちを切り替え、立ち上がりぐっと背伸びをしてーー




 カサッと、草の揺れる音。



 ーー立ち上がった瞬間目に見えたのはこちらに銃口を向けた兵士。



 ーーっ!しまった、油断した!!



 座っていて死角だったか!?とにかく、今すぐにでも逃げなければ。


 だが時既に遅し。いくら早く反応し動き出しても、武器には勝てない。



 パァン!



 という、もう聞きたくもない音がした瞬間、左肩がぶれる。


「……くッ、くあぁぁ!」


 何度撃たれようともこの痛みには慣れない。

すぐさま鈍痛が襲いかかる。急所をはずれただけマシだが、最悪な事に変わりはない。

大量に流れ出る血は止まらない。すぐに制服の上に滲みでて、目に見えるのはここ最近で何度も目にした赤、赤、赤。



「クソ、クソがあぁぁっ!」



 痛烈な痛みに堪えながら、すぐさま奪った銃を敵のいた方向に向けて放つ。

だが、既にそこには誰もいない。なんだ?やけに移動がはやい!

無駄打ちしてしまったか。


 後ろに回り込まれたかと思い目を向けるが、誰もいない。


 クソ、どこいきやがった!


 やはりどこを見ても誰もいない。敵の位置がわからない。移動音すら聞こえなかった。

だからこそ、逆に不安も大きい。幾つもの目が俺を見ている気がする。ないはずの視線を感じる。どこだ、どこだ、どこなんだよ。


……いくらなんでも、敵の気配が無さすぎる。最初に撃たれた時以外、俺しかこの場にいないような気すらする。少しおかしいくらいだ。



 ーー突如膝から崩れ落ちた。


 ……血を流しすぎたか?それにしては早い気がするが、意識がぼやける。


 日常生活からの急激な変化に、心も身体もついてこれなかったのか。やはり自分が思った以上に疲労は大きかったみたいだ。

久しぶりに混乱激怒を繰り返し、久しぶりに身体をフル活用した。負担は大きい。


 畜生、何ががんばるよ、だ。チャンスをくれた女神に顔向けできないな……

また後悔が増えるのか。もううんざりだ。


 こんなことならポンコツ少佐達くらい殺してやってもよかったんじゃないか。


 ーー危険な思考だ、止めておこう。




(はは、今度も笑えねぇ……)




 やっぱり死にたくないな。肩撃たれたくらいで人間って死ぬのか?わからないが、今気を失うと次は目を覚まさない気がする。



あぁ、やはりこんなことならーー






「ーー大丈夫ですか?」



 っ!まだ敵がいたか!?といっても、もう反抗する力は残っていない。もうひと思いに殺してくれ。



「大丈夫なわけなさそうですね。仕方ない、助けてあげましょうか。僕の良心に感謝してくださいね」



 ……助ける?何をいっているんだこいつは。一体、誰なんだ。

考えても、見てもわかるはずもない。

にしても、だ。


 助ける、か。自分がここにきてから、まだ時間はあまり経っていないが一人で頑張ってきた。情緒も安定してはなかっただろう。

不安で仕方なかった。


 助ける、か。今俺が、一番欲しかった言葉かもしれない。


 いつでも、何にでも、その様な甘い言葉には一度懐疑心を抱くべきだ。さらにこんな未知の異世界じゃ尚更。


 だが、今の俺には、その言葉は安心を与えるには十分なものだった。身を預けていいと思ってしまった。気を許してしまった。欣快(きんかい)と思ってしまった。




 ーーああ、もういいか。助けてくれるんだろ?




 無理に起こしていた力を抜く。

そうしてそのまま、どこの誰かも、敵が味方かもわからない救済者に身を預け、気を失った。


 ……これが果たして正しい選択だったのかは、わからない。

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