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第6話 戦闘力ほぼゼロによる反撃

 



二つの銃口が此方(こちら)に向けられていた。



ーー!!!!


 やはり、自分がまた撃たれたと理解した途端、痛烈な痛みに襲われる。あの恐怖が(よみがえ)ってくる。

体は既に硬直している。


 さっきのは威嚇射撃か!?掠っただけだが痛い。痛すぎる。あれは見た感じ普通の銃だが、何か違う気がしてならない。

思い込みだといいんだけどな。


痛みと恐怖に堪えながらすぐさま両手をあげる。



「ーーっ、なんだよお前ら!?俺は何も武器を所持しちゃいないし、危害を加える気もねえ!

 いきなり撃ちやがって、一体どう落とし前つけんだ!あ!?」



 多少の苛立ちや敵意は仕方ない。これでも良く頑張った方だ。



 三人は鋭く俺を睨みつける。


「いきなりだと?ハッ、何をとぼけた事を抜かす。今は戦時中だぞ?今貴様が話せる口があるだけありがたいと思え!」

「「そうだそうだ!!」」


……なんだこいつら?何を言っている?戦争?

一番初めに偉そうな口を叩いたやつが上司で、後ろの二人が部下の様に見える。今気がついたが、三人とも軍服の紺色バージョンみたいな服を着ている。一人だけ胸元に装飾があるから、そいつがこの中では偉いヤツだろう。


 いやそんな事考えてる場合じゃない。下手すりゃ死ぬ案件だ。異世界に来た初日から死ぬとかダサすぎるだろ。


「待て!落ち着け!俺はお前らと敵対してる奴らとは無関係だ!戦争だとかなんとか言ってるけど、そんなもん知らねえよ!」

「……ほう?よく騒ぐ奴だ。貴様、それをどう信じろと言うんだ?」

「それは……」


 ここで証拠を出せと言われたら困る。


「証拠も出せぬのか。ではここで死ね」

「ちょ、待てって!ほら!俺の服を見ろ!なんなら所持品だって見せてやる!」


 そう言うと上司っぽいやつは俺を凝視する。後ろの二人は俺に銃口を向けたままだ。

『如月零蜂の巣事件』のせいで銃は俺のトラウマリストに入りかけている。

大事なことなので何回でも言おう。


「……ほう。変わった服だな。確かにアルクス兵のものとは違うようだ」


 アルクス?それがこいつらと戦争してる国か組織の名前か。


「所持品を見せてもらおうか」


 そう言われ服を脱いだりポケットを裏返したりする。幸い何も怪しい物は入っていない。


「うーん……これは白じゃないですかね?少佐」

「私もそう思いますが……」

「そうか。だか今は争いの真っ只中だ。どこの出身かもわからぬ者を放っておくのは些か危険だと判断する」

「ですが少佐。この者は戦闘武器すら持っておりません」

「うむ……どうしたものか」


 こいつの階級は少佐か。こいつらの組織の階級の名前は俺の知ってる範囲のやつっぽいな。大将とか、中尉とか。

なんとか逃れられるか?

いや逃げたらだめだ、ぶっ倒す!



 よし。



 ここからは『相手を油断させ、相手にとって俺が利益になると思い込ませる』作戦でいこう。



別名『バレなきゃウソはウソじゃない』作戦開始だ。



「だから俺は弱いって。とりあえずその恐ろしい銃を向けないでくれ」

「どうしますか?」

「とりあえず銃を下ろしてやれ」


 下っぱ二人は向けていた銃を下ろす。

緊張が少しだけ解けた。あとはここをどう凌ぎきるかだ。話のわからない奴らじゃなさそう。

一つ探りを入れるか?


「あの……戦争戦争っていうが、なんの戦争なん だ?」

「貴様に答える義理はない」


 くそ。そういうところはしっかり軍人だな。


「そうか。そこまでお人好しじゃあないわな」


 出方に迷うところだ。このままこいつらの味方の体でいくか?戦闘力なんて皆無だがな。

どうしたものか。

一つ賭けに出てみるか。


「俺はその……あれだよ。お前らも知ってるだろ?あの武装国家の出身なんだ」


 ダメか?一か八かだ。


「なんと……あの武装中立国ガゼルドの!?」



 ーー勝った!日本の漫画やアニメさまさまだ。だいたい異世界って武装国家とかありそうだったが本当にあるとは。この体でいこう。



ここからは俺のターンだ。

……一度言ってみたかった。



「おお、そうだ。俺はそこで鍛治職人をしててな。この服も俺の自作なんだよ」

「ああ、だから変な服なんですね」

「あのガゼルドの鍛治職人だと?なぜその様な者がここにいる?」

「それはアレだ。家庭内事情って奴でな。あまり深く聞かないでくれ、まだ心の傷が癒えてないんだ。今はあの国とはもう無関係だぜ?」

「そうか。それは失礼した」

「わかってくれて嬉しいよ」



 くくく……ちょろい!ちょろすぎる!口喧嘩の強くない俺でも、こいつらとの会話じゃ俺のペースだ。最後の仕掛けだ!



「ところで、お前ら二人、その銃を見せてくれないか?さっき撃つ所を目の当たりにして分かったが、俺がちょいといじるだけでおそらく威力が段違いに上がるぞ?」


 銃知識など知るわけがない。『それっぽいこと言っとけばなんとかなる』作戦も同時決行。


「ほう。貴様……いや、鍛治職人よ。中立国の者が我らに手を貸しても良いのか?」

「何言ってんだ。俺はもう国を捨てた身だ。あんな国まっぴらごめんだね、中立なんてクソったれだぜ」

「ふはは……ハッハッハ!その思い切りの良さ、気に入った!おい、お前ら銃を貸せ!この鍛治職人にさっさと渡すがよい!」

「りょ、了解致しました!」


 二つの銃が俺に渡される。長い銃身だな。思ったより重いぞ。


「して、鍛治職人よ。このハンドガンも頼めないか?」


 そういって少佐は軍服の懐から一丁のハンドガン……どう見ても拳銃だな。それを渡してきた。

こいつ、利益があるとわかった途端、ここぞとばかりに出してきやがる。

欲望の塊め。実に踏みにじりがいがある。


「そういえば、お前の名前はなんなんだ?あと、どこの国の軍人なんだ?」


 ふと思い出した。このバカ少佐の名前はどうでもいいが、そのアルクスって国と、どこの国が争っているかは非常に大事な情報だ。


「貴様、さっきから少佐に向かって無礼な口調で…」

「まぁよいではないか。我の名はマトリカだ。ファルマス王国、反魔法軍隊の少佐を務めている」

「ご丁寧にどうも。俺は行くあてもないただの旅人だよ。名は……速水という」

「そうか。よろしく頼むよハヤミ」



 スマン康平!とっさについお前の姓を偽名として名乗っちまった!この借りはいつか必ず返すからな……



「おう。ところですまない、マトリカ少佐。俺は言った通りいくあてのない身だ。ここまでくるのにも随分とかかっちまって、その、少しだけでいいから食料をくれないか?それと銃のグレードアップとで交換だ」

「ふむ。確かに無償でやれとは言えないな。その者に、水と非常食をやってくれ」

「すまない、感謝する」



 そこでよくわからない茶色い袋に入った水と、カンパンの様な非常食……栄養食?をもらった。これであと少しは動けるな。



 ーーさて、これくらいでそろそろお(いとま)するか。これ以上情報を聞き出すのも可能だろうが、もたもたしてたら空も暗くなるしな。



「それじゃ、ちょこっと手入れするよ。流石にこの技術は見せらんねえから、向こう向いててくれるか?」

「それもそうだな。了解した」



 そうして三人が反対側を向いたところで……

 きました俺のターン!

 俺は銃に手をかける。




 パァンパァンパァン!!!




「ぐっ……!」

「うァァァァァァ!!!いってえ!!」

「かハッ」



 甲高い銃声が鳴り響く。

 向こうを向く三人の大腿筋の位置に目掛けて後ろから、銃を一発ずう撃ってやった。


 威力は割と高く、貫通した太ももからの出血は凄まじい。身も抉れている。ヘタクソでも無警戒の相手に至近距離でなら命中するもんだ。純白の雪が一瞬にして赤に彩られる。地獄絵図。



ーー我ながら恐ろしいことをした。



 だか、そうだ。俺は忘れちゃいない。こいつらも最初は無抵抗の俺にいきなり発砲してきたんだ。ましてや銃で。俺に、銃でだ!


 右頬はまだ痛い。

 俺はそれをまだ根にもっていた。武器さえあればこいつらに絶対ケガ負わせてやると、タイミングを狙っていた。


 俺は決めたんだ。悪にだってなってやるさ。

 こいつらは最初の犠牲者だな。足だけ撃ってやった。命はまぁ仲間でも来て助かるだろう。急所を狙わないだけありがたいと思え。


「ぐああぁッ!!!い、いてえ!

 き、貴様、許さん!絶対に許さんぞぉぉ!」


 足を引きずりながら鬼の形相で訴えてくる。


「ハッ!お前らが最初に撃ってきたんだろ!騙される方が悪い。銃とカンパンと水、ありがとよ!」

「貴様……キサマァァァァァ!!!

  絶対にいつか殺してやるぞ、雑魚ォ!!!!」

「ざまぁみやがれ。その雑魚に出し抜かれたんだよ雑魚以下め。誰かが見つけて助けてくれるといいな。

 んじゃあ、あばよ」


 俺はそう言い残してさっさと逃げ出した。

 積雪のせいですごく走りにくい。


 これでもうファルマスとは仲良くなれないな。これってけっこうマズいか?まぁいいか。


 それにしても俺も堕ちたもんだ。汐織が見たら泣くな、多分。女神も呆れているだろう。俺も死んだ時からフラストレーション溜まりまくってたから、これで少しは気が晴れた。もう善人ではいられねぇな。


 あいつらには少しだけ悪い気がするが、気にしないでおこう。それよりさっさと逃げなきゃまたどこのどいつかに狙われそうだ。


 ……まてよ?ファルマスとアルクスが戦争してて俺がファルマスの敵だとしたら、アルクスとは仲良くなれるのだろうか?

 敵の敵は味方って言うしな。よし、アルクスの連中を探す方針で決まりだ。


 だがマトリカの野郎、反魔法軍隊とか言ってたな。という事は、おそらくアルクスの連中は魔法を使うと推測される。そんなやつらに俺は勝てるのか?いや無理だろう。


 じゃあなんでファルマスは戦争を?

 負けが見えてるんじゃないか?それとも武器に余程の自信があったのだろうか。

考えても異世界の事だしわからない。

とりあえず今は逃げるが勝ちだ!



 そうして俺は後ろから聞こえる叫び声を全て無視して、先の事を考える。



 今の俺には武器がある。次にマトリカの様なやつが現れたら容赦はしない。

 そうして俺はほくそ笑みながら次の目的のために森の中を駆けていった。



ブックマークなど、本当にありがとうございます。

誤字脱字は発見次第修正していきますので、よろしくお願いします。多分けっこうあります(> <)

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