第5話 初めての異世界
この話から異世界突入です〜
ーーー!!!!!!
目が覚めた。意識が戻ったという方が正しいか。てかそれ所じゃない。
俺は人間だ。足の裏には常に地面があるはずなのだ。二足歩行なら当たり前だ。
ところがどっこい、空中である。
これはまさか……よくあるアレか!?
地上何百メートルの空中に転移して、「落ちるぅぅぅぅぅ!!!」っていうお約束なのか!?
そうして、しぬしぬしぬ!なんて考えていた時。臀部を強打し痛みが走った。そのまま床にへたり込む。石造りの平らな床が顔に触れて冷たい。
「尻がいてぇ……」
空中に転移したのは間違いないみたいだ。だが、周りが良く見えてなかっただけで実際には5mもないくらいの高さだったようだな。それでもお尻はいたい。
普通に地上に転移でいいだろ。そうじゃなくても、高度の高い空中とかに転移し、焦っていた所をヒロインに助けられ……とかのテンプレじゃないのか。
微妙な嫌がらせだな。女神の野郎、次会ったら文句言ってやる。そもそもこれが転移と呼べるのかもわからない。
とにかく起き上がる。
服は……制服だな。死んだ時と変わらない。外見は鏡もないしよくわからんが、顔だけ魔獣とかの可能性はまぁないだろう。触れてもぷにぷにと人肌だ。
「さてと。ここはどこだって言いたいけど、わかるはずもないよなぁ。
見た感じ……何かの遺跡か?見覚えのあるような気がするけど、そんな訳ないか」
今自分は、何かの遺跡みたいな所にいるみたいだ。とりあえず周囲を見渡すが、山というか森だな。地面は平らで、そこら中が木で埋め尽くされている。
「今のところ、元の世界と変わったところはないとみる」
魔獣とかがきたらマジでヤバいが、来る気配もない。魔獣はこの世界にいないとみるべきか?
だが、一つだけ特徴があるとすれば。
「辺り一面、雪景色だな」
まさに白銀の世界。ふかふかの新雪の様だ。今雪は降ってないし、さっきまで降っていたとかそんな感じか?
この世界にも四季や月とかあるのかな。
と思い空を見れば、太陽がちょうど昇り始めていた。てことは時間帯は朝か?少し薄暗いので星も見える。月は見当たらない。
「とりあえず、辺りを歩き始めてみるか」
ゲームとかでも、こういう時はまずは歩いて探索と順序が決まっている。空を飛べるならより効率的だけど、生憎ホモ・サピエンスは空は飛べない。仕方なく歩く。
ー。
ーー。
ーーー。
小一時間くらい歩いただろうか。さすがにこう思わずにはいられない。
「なにもないじゃねーか!!!」
何も無さすぎる。景色も変わらん!木ばっかりだよ!飽きっぽい俺はもう既に木を見飽きていた。さらに積雪のせいでとにかく歩きにくいし体力が奪われる。
「誰かいませんかぁぁぁぁぁぁーーー」
古典的呼びかけ。誰かがいればこれに反応してくれるだろう。薄情者じゃなければ。
「…………」
応答なし。まだ近くに人はいない。誰かいてくれよ。寂しいよ。
少しだけ休憩して、もう一度探索を再開した。
「それにしても寒い……」
雪も積もっているしさすがに寒い。俺の服装は春仕様だ。中にヒートテックを着込んでいる訳ではない。おかげで寒さにこごえる羽目になってしまった。時期を間違えたな。
勢いに乗ってここまできてしまったが、なんで俺がこんな思いしなきゃならないんだ。本当に今更だがふと思う。本当なら今頃温かい布団の中でごろごろしているのに……
まあ愚痴を言っていても仕方がない。これも全て未だ正体の分からない敵への復讐だ。頭の中でついさっきまでの記憶がよみがえる。まだ身体に傷跡がありそうで恐くなる。ない方がおかしいんだけど。
そういえば結局なんだかんだで周りのやつもちょっとは被弾していたみたいだったな。それは汐織も例外ではなかったはずだ。死んでいなかったようだが、相当な痛さがあっただろうし、重傷者もいたはずだ。
やっぱりピンポイントで全部自分が被弾するとか無理だったな。理想通りにはいかないもんだ。
……いつまでも悲観的じゃだめだな。
前向きに考えよう。
現にこうして機会を得ているだけでもすごいことだしな。
せいぜいがんばーー
パァン!
今まで閑散だった森の中で響き渡る破裂音の様な音。一瞬で静寂を切り裂くその音は俺の注意を引きつけるには十分だった。
すぐさま全神経を音源の方に集中させる。
パァンパァンと連続で音が鳴った。
なんだ?いきなりだな。魔獣とかじゃなきゃいいけど。
警戒しつつそちらの方へ足を運ぶ。
そっと木陰に隠れる。
何かを見つけた。
少し遠いがあれは……人?少々危険だがもっと近づいてみないとわからないか?
恐いしそれはやめたいところだ。裸眼視力1.50以上の俺を目を舐めるでない!
もう一度目を凝らして見る。
……やはり人だ。2〜3人はいる。
異世界に来てから初めての生命体発見。それが人だってんなら少し安心だな。これはこの世界の生活や文化など、色々な基本情報を仕入れる良い機会だ。
俺は警戒を解きその人たちに近づいていく。希望が見えたせいか、少し小走りになる。
食料や護身に役立つ物もなかったし、見知らぬ土地で若干の焦りもあっただろう。
「おーい!あんたたち、ちょっと聞きたいことがーー」
パァン!
先程も聞いた破裂音。……破裂音?
いいや違う。これは俺のイヤな記憶を呼び起こすような、そんな音でーー
疑問を持つと同時に右の頬に一線の傷が現れ、少量の血が流れる。
自分の頬から真紅の液体が流れ出している。
つい昨日まで平和に暮らしてた俺は、それだけでも頭が真っ白になりかけだ。
目に見える人は三人。その内二人がこちらに何かを向けている。
ーーそれは異世界に来る直前に目にしていた物。俺の身体をズタズタに抉った物。俺を殺した物。
ーーそれすなわち銃である。銃口がこっちに向けられている。
俺は無抵抗の一文無しだぞ!
ただでさえトラウマもんだ。絶対に許さん!
そうして未だに戦闘力ゼロの俺は、いきなりの発砲のお礼として、『こいつらを痛めつけつつ食料や情報を奪っちゃおう作戦』を開始する。