第3話 死後での邂逅
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ーーーー俺は死んだ。
理不尽な死だった。
死後がどうなっているのか検討もつかなかったが、せめて天国とか地獄があるもんだと思っていた。
(………?)
幸いにも記憶がある。如月零としての記憶だ。意識も残っている。
何がなんだかわからん。頭が、脳が、この状況を否定している。
俺の実体はここにあり、俺として存在している。そもそもこれが実体と言えるのかわからないが。
試しに手足を動かしてみる。脳から神経系に信号が送られ、指先、足先が動く。
身体もあるが、なにやら消え失せそうな感じで少し透けているみたいだ。淡い光を放っている気もする。
肉体はどうやら撃たれる前の蜂の巣グロッキー状態ではない、綺麗な普段通りの姿のようだ。
ーーそれよりも、だ。
(ここはどこだ……?)
何も無い空間と言えばいいだろうか?俺の世界では、広大な平野では地平線が。太平洋を眺めると、はるか遠くに水平線が見えるはずだ。
そんなものはあるはずもなく、ただただ白い空間が広がっている。ここにしばらくいるだけで、遠近感覚がおかしくなりそう。
とりあえず、今の状況をどうにかして理解しないといけない。そうして脱出方法やら何やら考えようとしている時だった。
「あら、やっとお目覚めですか?」
突如現れる声。振り返ってみると、先程は何もなかった所に一人の女が立っている。でるべきところはでていて、スリムなボディ。スタイルは抜群だ。艶のあるピンク色の、膝くらいまでありそうな長髪。美人には違いないが、油断などできない。
神々しいオーラを放ちながら、こっちに近づいてきた。
「――誰だ?」
「誰かと言われましても。誰だと思いますか?」
「頼むから教えてくれ。既に頭はわけもわからずパンク寸前だ」
と言いつつも、おおよそ答えの予想はついている。マンガでもあったな。神とかそのあたりだろう。なんで俺がそんなやつに邂逅するのかは謎だ。
「そうですね。女神……とでも言っておきましょうか」
「……だろうな」
「あら。わかっているのなら聞かなくてもいいでしょうに」
「答え合わせだよ。問題には必要だろ?」
「ふふ……面白い人ですね。助けた甲斐もあります」
「まて。ちょいまて。お前が俺を助けたってどういうことだよ。俺死んじゃったぞ?」
死んだあとに助けたと言い張られても困る。
助けられてねえよソレ。
「いいえ、しっかり、ちゃーんと助けましたよ。まぁこのことは置いといて、です」
「はぁ……何かあるんだな」
「ふふ、ないわけがないでしょう。あなた、あんな死に方が普通だとでも?」
「思わないな!あれが運命なら俺はどんな悪事をはたらいてきたんだって話だ。そういえば汐織はどうなった?他のクラスメイトも」
「それじゃあ一つずつ説明していきますか」
「頼む。既にメンタルがやられそうだ」
女神は説明を始める。
「先に報告しますが、あの場にいた者はあなた以外皆生きています」
「そうか……それだけは不幸中の幸いだ」
「ですが負傷したものは多数おります。あなたの幼馴染さんはまだ軽傷でしたが、他には重傷者も少し。後遺症は残るでしょうね」
やはり被弾してしまったか。あれだけクレイジーなやつに、バカの一つ覚えみたいに乱発されたら仕方ない。死ななかっただけましだな。俺は死んだけど。
「とりあえずそこは了解だ」
「はい。次にあなたの死亡についてですね」
「……聞かせてくれ」
問題はこれだ。
「まず、あなたの死は計画された死です」
「計画された?」
「はい。何か心当たりがあるでしょう?」
「……いや、ないな」
「いいえあるんです。何かこう……封印を解いた的なヤツです」
「そんなこといわれても……」
俺は考える。そんなことあったか。あいにく強大な力を用いて厄災の封印を解いたことはない。もう一度考える。
うーん、そんな奇妙な体験ーーーー
「めちゃくちゃ心当たりあったわ!」
「それですね。本とか置いてませんでした?」
「ああ。あったあった。花をどけたらいきなり消えたんだよ」
「なるほど……おそらくそれが原因ですね」
「それが原因?そんな簡単に封印やら何やらが解かれていいのか?」
「いえ、そんなことはないはずなんですが。そもそも、アレを見つけることすら難しいはずですよ?」
難しかった記憶はない。こっちへ来いと言わんばかりの道があったぞ。
だが、言われてみればそんなものがあるならもっと早く気づいてたはずだ。ずっと江水原に住んでいたんだぞ。生まれも育ちも生粋だ。
俺が気づかなかったとしても、少なくとも大人とかが気づくだろう。なのにあんな廃墟の話など一度も耳にしたことはなかった。確かにおかしい。
「なぜアレが君の元に現れたのか。興味深い。ええ、非常に興味深いです!」
「わかった、わかったから落ち着け。詳細は後だ。それで、それと俺の死に何の関係がある?」
「こほん、失礼……そうですね、簡単に言いますと」
「言いますと?」
「因果律操作の様なものですね。あの日からあなたは死ぬように誘導されていた、そんなところでしょうか?」
「ーーそんなことができるのか?」
「この世界に干渉することは難しいんですけどね。まったく、私の管轄下なのに手出しして、絶対に許さない……」
……こわ。女神こっわ。すごい怒りのオーラだ。今にも物にあたりかねない。あたる物すらない空間だが。
「おっと。いけませんね。そろそろ時間が少なくなってきました。手短にいきましょう」
「ちょっとまて。さっきから全然理解できないぞ。いや、理解したくないだけかもしれないけど」
「つまりあなたは死ぬように誘導されていた。本来ならもっと早くに死ぬはずだったんですが、なんとか死なないように私が妨害してたんです。最後にはあなたを死なせてしまいましたが」
「……」
「ですが、それでももっと早く死ぬはずでした。あなたが……如月零がなぜ二年も生き延びられたのか、私にもわかりません。資質がある、もしくは耐性があった?考えが尽きませんが、まぁいいでしょう。とにかくあなたは少しイレギュラーな存在ですね」
話のスケールが大きすぎて、キャパオーバーだ。お前の方がイレギュラーな存在だろ!もう俺の中の普通という概念を変えた方が良いだろう。
でも、呪い?なぜ?なんの呪いなんだ?
そもそもそれで俺がなんで死ななくちゃならない。あれだけ痛い思いをして、悲しい、つらい思いをして。汐織や、他のやつだって危険に晒された。もしあれを仕向けたやつがいるというのなら、俺は絶対に許さない。
俺を理不尽に殺したんだ。俺が理不尽にでも殺してやる。今まで感じたことのない程の怒りが込み上げてきた。
そんな事を考えていた時だった。
「――もし、復讐できる可能性があるとしたら、あなたはどうしますか?」