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第14話 ファルマスという国

 


「そう言えば、お前はなんでここに来たんだ?」


「またお前って……はぁ、まあいいや。なんでっ

 て、理由は一つしかないじゃない」


「その理由とは?」


「ここを荒らそうとする人をやっつけるの。今って戦争中でしょ?」


 ……ああ、なるほど。確かにここを荒らされたら俺ならぶっ殺したくなる。でも女の子一人って危険じゃないのか?


「なんでわざわざ一人できたんだ?複数人数の方が良くないか?」


「あはは、それはちょっと秘密にしとこうかな」


「なんだよそれ。気になるな」


 なんだろう。気のせいかも知れないが、なーんかこいつは隠し事をしている気がする。信用していないわけじゃないが、煮え湯を飲まされないとも限らない。

 彼女をまだ疑うのは酷い事だけど、此方に来たばっかりの心の状態では仕方ない。


「そういうレイはなんでこんな所にいたの?」


「特に行く所もなく、高い所から見下ろしてこの場所が気になったからとりあえず来てみたんだよ」


「本当に行く宛がなかったのね……」


「悲しい事だがな。でもそのおかげでこうしてソフィに出会えたから良かったよ」


 これは本心だ。多分ソフィに出会ってなかったら今も彷徨い続けて下手したら死んでたかもしれない。


「私たちがここで出会ったのは本当に偶然だったのね。私も戦争なんて起きてなきゃここにいないもの。ふふ、これって運命的な出会いだったりしてね?」


「そ、そうかもな」


 こういう事を簡単に言ってしまうから、ペースが狂う。からかっているのか、本心なのかどっちなんだ。


「そういやソフィはアルクスの国民なんだよな。なんで戦争なんかしてんだ?」


 ポンコツ少佐が言っていた事が本当かどうか、これでわかるだろう。


「聞いた話じゃ、魔法派のアルクスと反魔法派のファルマスの対立だとか」


「それ誰に聞いたの?」


「ファルマスの軍の少佐だ」


「よくそんな人から情報を聞き出せたね……」


 確かに言われてみればそうだな。あいつは本当に間抜けである。


「出会った瞬間に牽制として銃で撃ってきやがったんだよ。それにムカついてさ。俺はガゼルドの鍛冶師で国を捨てた者だ、お前らに手を貸してやるよって言ったら簡単に信じたんだよ」


「あの永世中立国の!?本当なの?」


「いや嘘だ。全く知らねえ」


「ええー……なかなかの嘘をつくね」


「それで情報と食料と銃だけちょっと奪って逃げたんだよ。追いかけられないように足を撃ってやったけどな」


「レイって案外こわい人……?」


 あ、ちょっとソフィが恐がっている。確かに俺は客観的に見てみれば嘘つき強奪者に変わりない。


「言っただろ?俺は敵には容赦しないんだよ。仲間には超絶優しいキサラギさんでお馴染みだ。ソフィは仲間認定だから安心していいぞ」


「そ、そうなのね。良かったわ」


 今度はホッとして胸に手を当てている。良かった、かわいい女の子に恐怖を抱かれるのは些かメンタルにくる。


「確かに魔術の肯定派と反対派での争いに変わりはないけど、半分は違うわ」


「半分?」


「うん。ファルマスっていう国はね、けっこう新しく建国されたおかしい国でね。昔ーー」




 つまりソフィが言うにはこうだ。昔と言っても割と最近、アルクスに住んでいた魔術に適性のない貴族が、アルクスの次期女王に求婚をしたらしい。次期女王は既に婚約者もいたから丁重にお断りしたらしいが、その貴族の男性がなかなかしつこく、あの手この手を使って次期女王に近づこうとした。

 あまりにもしつこいもんだからその貴族は国を追放され、最後に次期女王とその婚約者に、迷惑をかけられた礼として魔術をぶっ放されたそうだ。


 それにとてつもなく怒り、切歯扼腕した貴族は実はなかなかの素封家だったらしく、広大な土地を買い取り国を建国したらしい。なんでそんな国が認められるんだ……おっと話がそれる。その国のコンセプトは、「恋人にフられた、又は恋愛などしない国民歓迎」「魔術なんてくそったれ」という異質なものであり、全世界からなぜか多くの人々が移住してきたそうだ。


 その大体は「リア充滅びろ系」の人間と、魔術適性のない者であり、ついにできたのが反恋愛反魔法国……ファルマスという国だった。

 その貴族が国王であり、未だにフラれたのを根に持ってアルクスに争いをふっかけているらしい。



 ………。


 ………なんて、なんて悲しい国なんだ!魔術に無適性の人々を歓迎することは良い事だと思うが、恋に関しちゃどれだけ哀れなんだ、思わず笑っちまうぜ。


 国王は去り際にぶっ放された魔術という概念そのものにとてつもない嫌悪があるらしく、ファルマスは魔術反対なのはもちろん、魔術と呼ぶ事すら嫌っているようだ。


 だからマトリカは魔術の事を「魔法」と呼んでおり、戦争でも武器しか使わないのか。馬鹿だろお前ら、とは言わないでおこう。



「……これ以上なく哀れな国だな」


「国王は間違いなく馬鹿ね。でも、国民からは絶大な支持と信頼を集めているそうよ」


 国民には魔術適性がある者もいるだろうに。国の方針、国王に従って、わざわざ幾度もアルクスに負け戦をしているとか国民が可哀想である。


「だからなんていうか、戦争って言ってもほとんどアルクスの勝ち戦なの。戦争被害なんてほとんどないし、両国お互いに死者、負傷者数共に少ないわ。過激派は始末するけどね」


 アルクスの方もあまりに見兼ねて手加減している様だな。俺は敵対するなら容赦ないけど。てか始末って恐い事言うなおい。


「へー、そうなのか。魔術を使えばある程度は対抗できるのにな……」


「でも、魔術に無適性の人々を歓迎する姿勢や、その人達に戦う術と生きがいを与えてあげるってのは馬鹿に出来ることではないわ」


「ああ、それは俺もそうだと思う。適性のある人々の当たり前が無適性の人からしたら嫌な事だったりするもんな」


 あの人には才能があって、自分にはそれがない。その人を羨んだり、妬んだり、嫌ったりするのはごく自然なことである。俺だって多少はイケメンや天才に対して羨望を持ったりするしな。


「ええ、そうね。魔術が中心になったこの世界では、どの国でも良い魔術士や魔導師を歓迎、優遇する姿勢がある。これは仕方の無い事だけど、ある意味では差別と捉える事もできるもの」


「だからアルクスや他の国にしても、ファルマスを簡単に潰すには潰せない。ってことだな?」


「その通りよ。だから、わざと戦争を長引かせて、向こうの戦力をできるだけ削る戦法も取られている」


「向こうの武力を減らすって事だな。『なにを言われようが、勝てば官軍』って事にもいかないせいで、余計にファルマスは複雑な国であり、戦争を仕掛けられる側からしたらタチの悪い国でもある。そんなところか」


「うん、そんな感じ。レイは物分りがいいね」


「やつらの気持ちもわからなくはないからな。だが、俺は敵対する連中に同情はしないつもりだ。もしそれが俺や、ソフィにとって脅威になるのなら構わずに事を為す」


「あはは、私も含めてくれるんだね。ちゃんと私を守ってねーって。なんちゃって」


「おう、任せとけ!……といっても、ソフィの方が俺より断然強いけどな」


「ふふ、それでも期待してるよ」


 そんなこんなでファルマスとアルクスが何故戦争をしているかや、ファルマスという国については良く分かった。


 俺はそれでも敵対するなら容赦ないと、何度だって言うし、事実そうするけど、実際にはそうできる力もない。大言壮語かもしれない。


 俺だって、魔術の適性があるかなんて、まだわかってすらいない状況だ。レイシアが俺をこの世界に現界させるくらいだから、多分それはないと思うけど、もしも万が一無適性なら……俺はどうするんだろう。


『ゼロ』の称号を持ち、その能力を宿すと言っても、全く使い方もわからない。


 つまり、レイシアの言う通り異世界に来たばっかりの俺は本当にとてつもなく雑魚であり、事実そうである。俺だって強くなりたい。


 だからこそそんな風に、才能はないけれど強くなりたいと思う人々にとっては、ファルマスという国はなくてはならないものなんだろうな。



 ーーそれでも俺はどうするべきかなんて、わからない。この世界の価値観なんて、わからない。


 ファルマスの国の在り方を知った今となると、何を味方と認定し、何を敵として見なすかは簡単に決めて良いものではないなと思った。



 それでも無論、俺はソフィの、アルクスの味方でいようと俺は再度誓ったのであった。



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