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スローライフがどっかでブームらしい。知らんけど

たいとるのちからってすげー!


模試に喘いでいる間に評価が……。

息抜きに書いた方がすぐにポイント上がる悲しさよ。


 


 港町ポルルート。

 大陸の最南端に位置する大きな独立都市である。

 盛んな漁業と優れた造船技術を誇るこの街だが、なにより有名なのはその周囲を囲う美しい海景色。

 街のごくごく近海に限り広がる澄み渡った海は黄色の陽光を浴びて晴れやかな翠へと染まる。その様はまさしく絶景の一言に尽きる代物で、それを目的に街を訪れる旅人も少なくない。

 ちなみにそこからたった3海里も離れればすぐに栄養に富んだ透明度の低い海域に入り、そこでは他の地域には滅多に見られない魚介がいくつも泳いでいる。

 それらはいずれも珍味、妙味と名高く、その為にポルルートでは漁業も発達している。



 さて、そんな海の幸を最大限に享受しているポルルートだが、もちろん海に面するが故の弊害だって存在する。

 例えば悪天候の時は高波が起こるし、海の向こうからは貿易商人の他にも、略奪を目論んだ海賊や軍艦だってやってくる。

 しかしそういった人災や天災は、実はそれほどこの街では厄介だと思われておらず、最大の脅威というものはまた別に存在する。ではそれが何なのかと言うとーー


「海の悪魔が出たぞー!」


 ーー近海に生息する魔物の襲来だ。



 ◇



 その日、ポルルートの海は静かだった。

 鈍い色をした生憎の曇天の下、波一つ立たず、風もない。

 ところがその様相は決して穏やかなどという言葉が似合うものではなく、むしろ張り詰めたような、剣呑といった表現の方が遥かに近しい有様だった。

 もちろんこれは明らかに異常と言っていい。


 そしてこの海の異常性に、ポルルートの人々には一つ心当たりがあった。


『海の悪魔』と呼ばれる怪物の存在だ。

 このポルルートは百年程前に一度、その脅威を退けた過去があり、以来この『海の悪魔』の話は伝説として語り継がれている。

 そこでこの『海の悪魔』は、腕のただ一振りで軍の艦隊さえ容易く沈め、一度陸へと上がれば通る道が全て更地と化すような化け物とされており、かつて街が襲われた時、海は今みたいな様子だったと言う。

 百年も前の信憑性の薄い話だが、それでも街では今朝日の昇る前から警戒体制が敷かれていた。


 そんな時、先程まで一切の変化が見られなかった海に突然一つの巨大な影が映る。


 ーー『海の悪魔』が現れたのかもしれない。


 そこから人々の行動は早かった。


 監視塔を兼ねた灯台から警報が街中に響き渡り、町民が家に居た者も道を歩いて居た者も皆一斉に海に背を向け街の最北にある建物へと向かい始める。そしてそれからわずか三十分後、全ての町民の避難が完了してしまった。

 避難を要する危機という事態が緊急ではあっても非常ではない。そんな意識を町民一人一人が持つ自治都市ならではの手際と言える。



 しばらくして、完全に人気(ひとけ)が失くなった頃、街の海岸に武装した集団が見られた。

 武装、といっても身軽さを追求した装いに魔法の行使を補助する杖を手に持った魔導士のような風貌の者も居れば、大柄な体を重装備で覆った戦士然とした格好の者もいる。


 彼らは冒険者と言い、ギルドと呼ばれる組合に所属する事でギルドから紹介された仕事を請け負う事で生計立てている人種だ。その仕事は護衛から魔物の討伐と多岐に渡って存在するが、基本荒事が多く、冒険者には腕に覚えのある者がほとんどだ。

 こういった自治都市では国より派遣された軍というものが無い為、防衛は彼ら冒険者がギルドからの仕事という名目で行うのが決まりとなっている。


 そんな彼らが集まっている理由。それはもちろん『海の悪魔』が本当に現れた時にこれを討伐する為だ。



 ーーそして僕、ジア・フェメルトスはこの冒険者達の中に居た。



 ◇



 救世の旅を追放されてからしばらく。

 迷宮を無事に出た僕はどこに留まることも無くただ惰性のままにフラフラと当てのない一人旅をしていた。

 道行く魔物を狩っては毛皮とか牙を剥ぎ取って近くの街、あるいは通りかかった行商人に売って日銭を稼ぎ、時には自分で獣を狩って野宿とアウトドアの限りを尽くしたりした。


 旅は三ヶ月くらい続いたけど、先月に起こった事件をきっかけに、僕はとうとうこのポルルートに腰を落ち着ける事を決めた。

 まあ事件って言っても遭遇した盗賊団を殲滅したら盗賊達に捕まってた宿屋の娘さんに『ウチにおいで!』って言われただけなんだけど。



 そんなこんなでポルルートに来た僕は町長さんに挨拶を済ませ、宿屋で店員として働く事になった。

 宿屋のご主人も女将さんも優しい人で、見知らぬ僕を家族のように迎え入れてくれた。

 ただここで一つ問題が起こる。


 周りが優秀過ぎてする仕事が無くなった。


 料理は熟練の腕を持つ女将さんの仕事だし、掃除とか部屋の管理はご主人が素人には任せられないとかでさせてくれない。なら客引きとか接待を頑張ろうと思ったんだけど、そのは娘さんが凄すぎて僕の入る余地が無かった。

 最初は買い出しとか手伝ってたんだけど八百屋のおじさんとか同い年くらいの魚屋の倅に嫌われたりして、やっぱり娘さんが行く事になってしまった。


 つまるところ、ただのヒモになってしまったのだ。

 ところが僕は、これまで帝国では特務とは名ばかりの筆舌に尽くしがたい激務を、救世の旅に出てからは立ち寄った語り尽くせない程の重労働を黙々とこなして来た生粋の社畜。


 持病にして不治性のワーカーホリックが、ヒモであるなんて状況を許すはずがなかった。


 そういう訳で就職を決意したんだけど、そんな時、ちょうど目に入ったのが冒険者組合、通称『ギルド』だった。

 幸い剣には自信があったので、娘さんのちょっと過剰なくらいの猛烈な反対を押し切ってすぐさまギルドに登録した。

 そういやなんであの時あんなに反対されたんだろ。盗賊団壊滅させたの見てるはずだし、弱いとは思われてないはずなんだけどな。


 まあそれはいいとして、僕は早速冒険者業に励んだ。

 漁船の護衛に、漁航路であった海域を縄張りとする海賊一味の撃退。他にもポルルート周辺地域にて増えてきた魔物の駆除など、わずか三週間でかなりの数の仕事をこなしてきたように思う。

 その時にご一緒して仲良くなった冒険者だって居るし、ここ最近、自分の人生が充実していて、日常というものが輝いて見えた。

 なるほどこれがスローライフか。


 しかしそんな折、突然に非日常は訪れた。


 今朝、僕はいつものように日課である素振りを終え娘さんに手作りの朝食を振舞ってもらうと、いつもの通り仕事を求めてギルドの方へ向かった。


 ところが道中、街の様子がおかしい事に気が付く。

 いつもより明らかに人が少なく、妙に静まり返っているというか、とにかく活気がないのだ。


 そんな違和感に頭を捻りながらも、ギルドの方へ歩いていると、ふと、海が視界に入る。

 今日は生憎の天気で太陽が無くいつものような翠をしていないーーーだけにしては余りにも不気味な雰囲気をしている。そんな海が。


 なんだか嫌な予感がモヤモヤと胸に這い回るのを感じながら僕はギルドの戸を開けた。


 いつもは元海賊のゴロツキやらで喧騒に包まれているギルドも、今日に限ってはやはり閑散としていた。

 ただこの時にはまだ気の所為だろうとしか思ってなくて、構わず僕はどんな依頼が残っているかを尋ねようと受付まで向かおうとする。


 その時だった。


 海岸の方からけたたましい警報が鳴り響いたのだ。


 次いで、何人もの武装した冒険者達がなにやら『海の悪魔だー!!』とか叫びながらギルドへ雪崩れ込んでくる。


「へ?え、ちょっ、なにそーーーうわっ!?」


 突然の事に状況が飲み込めず呆然としていた僕はあっという間に人波に呑まれてしまう。


 もみくちゃにされながらなんとか脱出を試るが人混みからは抜け出せず、なのに事態は僕の(あずか)り知らぬところでどんどん進んで行く。


 そしていつの間にか、ギルドでは『海の悪魔討伐作戦会議』なんていうものが始まっていた。

 しかもその雰囲気があまりにシリアスなもんだから『帰って良いですか』とか『どういう状況ですか』とか言い出す訳にも行かない。

それで頃合いを見計らっていたら、その内に状況は更に引き返せない方向へあれよあれよと運ばれていってしまった。




 そして気がつくと、僕は海岸にいた。


 ーーー討伐隊を名乗る冒険者達と並び立って。



「……!海面が急に波立った。ーー来るぞ!!」


 一人の叫び声と共に各自戦闘態勢に入る冒険者の面々。

 目の前の海には、大きな大きな魚影が映っていた。


 ……どうしよう。






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