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吉報!救世の旅を追放されました。

練習に書いたものシリーズ。


例によって例のごとく例にもれない見切り発車です。

期待はせずにごゆるりとお読みください。

 



 これほど耳触りの良い宣告が、果たしてこの世にあっただろうか。


 そう。この日、勇者様はとうとう仰った。


「足手まといは出て行け」


 と。



 ◇




 この度の経緯を語る前に僕の身の上を話すとしよう。


 僕の名前はジア。栄誉あるルクスタリ帝国の騎士だ。

 とはいっても、まだ士官学校を卒業して五年も経っていない新米で、同僚からは舐められる事が多い。

 童顔がコンプレックスで、最近は髭でも生やそうかと考えている。

 まあ、料理が趣味のどこにでも居る帝国男児だ。



 そしてそんな僕は現在、我らが帝国を治めるセレン皇帝陛下より直々に命を受け、『世界を救う旅』に出ている。



 さて、事の始まりは半年前。

 ある日、いつものように騎士の訓練を終えた僕が自室でコーヒー片手に読書していると、我が隊長から呼び出しがかかった。なんでも、至急、玉座の間へ来いとの事だった。


 用件の心当たりが一切無かった僕は首を傾げながら、それでも上司の命令には逆らえないので素直に指示のあった場所へと向かった。


 するとそこには、いつになく不機嫌そうに玉座でふんぞり返る陛下の姿。

 その口は固く閉ざされて一切の言葉を発さず、しばらくの間、場には重い沈黙が漂っていた。

 辺りを見回せば兵の姿はなく、用件がただごとでないのは明らか。それを察すると、僕はただ黙って傅いた。



 長い間を経て、とうとう陛下は口を開く。


 曰く、『勇者と共に世界を救え』



 その突拍子も無い内容に、流石に理解が及ばなくて、思わず陛下の御前である事も忘れて間抜けな声を漏らしてしまったのを今でも覚えている。



 ◇



 勇者。

 遥か古の時代より世界が滅亡の危機を迎えると異界より遣わされる神の使徒の事だ。

 その存在は女神教にとってかなり重要らしく、聖典には何十ページにも渡って詳細が記されている。


 聞く限りではなんとも胡散臭さ溢れる話だが、どうやら事実として先日、その勇者が聖国にある教会の大神殿に現れたらしい。


 なんでも世界の破滅を目論む邪神の復活を止めるのだとか。


 と、まあそこまでは良い。これだけなら話が事実にしろ、教会が威信を誇示するために放った嘘だったにしろ、どこか遠い雲の上のお話として我関せず聞き流す事が出来た。


 問題はここからだ。


 勇者がこの地上の暮らしに慣れ、いよいよ旅に出るとなった時、教会は各大国に対し勇者と旅を共にする精鋭の派遣を求めたそうなのだ。

 これについては神を名乗る存在が敵だなどと謳っているのだから妥当であると言えた。


 ところが、だ。

 要請を受けた我らが帝国は皇帝陛下にこの事を一切知らせぬ内に議会を開き、何を血迷ったのかその白羽の矢を僕へと目掛けてピンポイントショットしたのだ。


 これについては未だに訳が分からない。

 邪神だとか世界の危機だとか、話のスケールが大き過ぎて実感さえ湧かないというのに、そんな人間が救世など果たせるものか。本当に明らかな人選ミス。もっと他に適任な人材だって居たはずだ。


 まあその辺りの理由は帝国の後ろ暗い事情を追えば見えてくるのだけど。


 とにかくそんなことをそれとなく伝えて抗議してみたものの、その程度でウチの議会の決定が覆るはずもない。

 かといって皇帝陛下直々の命に明確な拒否を唱えられる訳もなく、結局僕は翌日から教会の総本山である聖都へと旅立ったのだった。




 ◇




 結論から言うと、旅の道中は最悪の一言に尽きた。


 その最たる原因は旅のリーダーである勇者。彼の人格が幼過ぎる事だ。

 神様からの使徒だなんて聞いていたからどんな聖人君子かと思えば、なんというかこう、まんま年頃の少年、と言った感じだった。それも貴族に居るような。


 やたらと高慢で行く先々要らん騒ぎ起こすし、かと思えば外面だけ繕って責任だけこちらに押し付けてくるし。取り敢えず男と女で会話の態度を変えるのは止めて欲しい。あとナンパも。

 正直一緒に居るだけでストレスが溜まる。そんな人種だった。



 けれどそんな環境にもめげず半年ほど旅を続け、現在。


 僕は先程、とうとう戦力外通告という形で追放宣言を承ったのだった。



 ◇



 さて、待ちに待った追放、というか解放だ。


 無論、内心は狂喜乱舞ここ極まれり。最早嬉しすぎて言葉もない。のだが、だからと言ってそれを表面に出すのは勇者、延いては女神の偉大さを表立って否定することになる訳で、それは立場上よろしくない。


「足手まとい……ですか」


 だからこの場では決して嬉しさを態度に出さないでやんわりと、不服気に、この脱退があくまで自分の意思でない事を示すのが重要だ。


 勇者に言われたんだから仕方ないよね。と後から言い訳出来るようにしなければならないという事だ。


 とは言っても、これからは貯金を崩してまで最高級の宿を用意する必要も無ければ、勇者の傍若無人な態度に腹を立てた滞在先のお偉いさんをいちいち宥める事もないのだと思うと勝手に頬が緩んでしまいそうになる。

 正直今すぐにでも歓声を上げたい気分だった。



 そして、こちらの不満気に聞こえるよう繕った声に対し、勇者様は妙に真剣な表情で頷いた。


「そうだ。世界を救うのにお前は要らない。

 そもそも帝国の階級すらないような雑兵なんざチート持ちの俺達に着いてこれる訳がないだろうが。とっとと帰って皇帝に伝えろ。

 戦力を出し惜しみしてないで第七位階騎士のリリットを派遣しろってな」

「あー……なるほど」


 解放してもらえるのなら正直なんでも良いのだけど、戦闘を碌に任せてもらえない僕が足手まといだなどと言われている事には疑問だった。


 帝国の戦闘部隊には騎士、魔導師共に階級制度が存在する。軍事国家である帝国の階級なのだから、位階の高さはもちろん純粋な戦闘能力の高さをしめす。

 そして僕は生憎ながら第一位階〜第七位階のどれにも属さない。


 それで足手まとい、と。


「理解できたようだな。

 お前は無能だがその物分かりの良さだけは好きだったぜ」

「それはどうも。ところで他の方々は?」

「先に次の街へ行ってる。勿論この件については既に賛同を得ているぞ」


 他の方々、というのはこの救世の旅へと各国から派遣された人達の事だ。

 流石は世界の危機というべきか、中々に個性的な面子が揃っている。


 例えば、一人は女神を信仰する教会を象徴する聖女。

 そして一人は戦闘能力を至上とする種族、獣人の連合国家代表の娘。

 最後に世界中の要人を闇へと葬って来た名うての暗殺者。


 無論の事、その実力は誰も彼もが世界最高峰。



 そりゃあそんな中に碌に名乗れる肩書きが一つも無い一介の騎士なんかが紛れ込んでいたら浮いて仕方ないだろう。

 彼の言葉に反論の余地はなかった。というより、この旅を仕切っているはずの聖女から了承を得ているのならばこちらから言うことは何も無い。


 ……そもそも本音としては追放に大歓迎なので、言い返す言葉が無いのは当たり前といえば当たり前だけど。


「……分かりました。では半年もの間お世話になりました」

「ああいや待て。その前に荷物を置いて行って欲しい。皇帝直々に派遣された手前、分かりやすい貢献の形が無いと帰り難いだろう?

 支給された武具や費用を俺達に渡すだけでお前は大手を振って自国へ帰れるという訳だ」

「それは騎士証も、ですか?」

「当たり前だろうが。もちろん冒険者カードとあの宝剣、あとは家紋も寄越せ。貴族の名があると便利だ」


 つらつらと勇者様が語るそれはいっそ清々しいまでの暴論だった。



 宝剣に、騎士証に、家紋に、冒険者カード。

 今挙げたこれらは全て僕個人の所有物であり、帝国から支給されたものでは断じてない。

 それを寄越せだなんて、はっきり言って横暴も甚だしい。


 けれど、立場が立場だ。


「……分かりました」


 渋々と僕は衣服を除く手荷物を全て麻袋に詰めて差し出すと、それを引ったくってその場を後にする勇者様の背中をただ見送るのだった。




 ◇




『……まさかとは思うが、そのまま本当に抜けて来たんじゃないだろうな』

「えぇー?だって勇者様の御命令ですよ?

 表立って逆らうなんて出来ませんって」


 手に握られた紫色の水晶と、そこから発される叱責。

 それと会話するように、僕は最もらしい言い訳を並べ立てる。

 声色は申し訳なさそうにしたつもりだったが顔には満面の笑みをたたえていたためちょっと白々しくなってしまったかもしれない。

 ちなみにこの石は魔晶式通信機と呼ばれる道具で、なんと遠くにいる人間と会話が出来る優れものだ。今は帝国に居る僕の上司と繋がっている。

 勇者様からの取り立てにも、これだけは口に含み隠し持つ事で唯一手元に残った。


『……まあ良い。ならばお前の任務を潜入から監視に移行するまでだ』

「あ、それ無理です。僕、迷宮に置いてかれたんで」

『……なんだと?』


 迷宮の岩壁を撫ぜながら乾いた笑いをこぼす。こちらとしてもこれには流石にびっくりした。

 迷宮というのは簡単に言うと危険地帯の事だ。

 樹海だったり洞窟だったり、あるいは建造物だったりする。昔はもっとキッチリとした規準があったらしいけど、今は魔物が溢れてる未開の地は大体が迷宮と呼ばれる。


 まさか、雑兵だと思われている僕がそんな所に置いて行かれるとは思っていなかった。


 それとも勇者様としてはここで僕が死ぬ公算なのかな?


「いやぁ、流石に迷宮の転移で脱出されては追いつけませんからね。この間港町に寄るって話をしていたので、今頃勇者様御一行は隣の大陸でしょうか」


 ビシリと向こうの通信機が軋む音がする。

 おっと、これはだいぶお怒りの様子。


『お前、わざとじゃないだろうな』

「あれ? どこに僕の意図の介入する余地がありました?」


 全員が実力者だったあのパーティの中で碌な地位を持たない僕の意見などまともに通る訳がない。きっとどんな正論を言ったところであの勇者は屁理屈を捏ねて握り潰しただろう。

 だから、僕は悪くない。


『……チッ、もう良い。

 勇者にはご要望通りリリットを代わりに向かわせる事にしよう。だからお前は帝国に戻って通常の業務に当たれ。

 そうだな、さしあたっては最近ジーカスの山に住み着いた火龍を討伐してもらおうか。この件についての失敗はそれで不問とする』

「ありゃ?また龍が出たんですか」

『なに、龍くらいお前ならば楽勝だろう?

 帝国()()()()()()が一人《紫晶》のジア・フェメルトス?』

「……」


 今この人向こうで絶対ドヤ顔してるんだろうなあ。

 僕がその立場の所為で解雇されたって事分かってんのかな。



 帝国の階級には第七位階のさらに上、『知られざる第八の位階』が存在する。

 何を隠そう僕はそこへと至った一人で、救世の旅に関しては勇者達の監視という目的もあって帝国より派遣されていた。


 いや、何を隠そうも何も帝国ではお偉いさんや一部の軍人しか知らない機密事項なんだけどね。その知名度の低さの所為で僕は舐められて追い出された訳だし。


 そしてちなみに、第八位階へ至る事は同時に特務部隊へと加入させられる事を意味する。



 そう、特務部隊だ。その名も『帝国守護十二天士』。

 名前から分かるようにその席次はきっちり十二と決まっていて、その数が変動する事はない。

 なにせ第八位階に至る条件が、帝印と呼ばれる世界に十二個しかない物を所持している事だからだ。


 ところが僕は先程勇者にこの通信機を除く全ての荷物を奪われた。

 つまり何が言いたいかと言うと。


「ーーーすみませんが帝印を勇者様にうばわれたので、僕もう第八位階じゃないんですよ。その命は受けかねます」

『……………。……は?』


 随分と間を空けて、随分と間の抜けた声が返ってきた。


「というか、その前に騎士証を持って行かれたのでそもそも国に帰れません」


 騎士証とは文字通り騎士の身分を証明するための物。

 これが無ければ騎士を名乗る事は叶わないし、戦時により通行が制限されている帝国へは帰れないのだ。


『待て、待ってくれ。それはつまり……』

「現在騎士の地位も第八位階の称号も全て勇者様のもの、という訳ですね。僕は大人しく騎士を辞めようと思います。今までありがとうございました」

『はぁーーー!?』


 騒音を発する通信機を先んじて耳から離す。そして叫び声が止むのを確認してから再び耳にあてがった。


「いやあ良かったですね。これで勇者を帝国で囲い込む名目が出来ました」

『良い訳あるかッッ!!

 お前、状況が分かっているのか!?』

「わーかってますって。勇者関連の問題で他の事に手が回らなくなってるんでしょう?

 その辺は僕の弟子に任せておいてください。僕からの命令って言っておけば絶対やってくれますから。優秀な娘なんで。

 あ、別に帝国と敵対するつもりはありませんよ?」

『そうではない!! 大体、お前の脱退をその弟子にどう説明するつもりだ』

「あー、その辺は任せます。

 女作ったとか、何か適当に言っておいてください。他の天士の皆さんにもそんな感じで」

『ふざけるな!』


 不意打ちの怒声に、今度は回避が叶わず、鼓膜が破れそうになる。


 というか、なんでこの人はこんなに必死なんだろう。

 ウチの部隊は入隊の条件がアレな所為で元々入れ替わりが激しく、意図せぬ事情で誰かが脱退、なんて珍しい話でもない。


 なのにここまで隊長さんが必死になって僕を引き留めようとするのか、少々不思議だった。


「……なんにせよ僕にはどうする事もできない、というか僕はもう帝国の人間じゃないんで、そっちの事はそっちに任せます。もう連絡もしないでください」

『無責任だ!せめてスピラ達にお前からーーー』

『ボクが、なんだって?』


 通信機に別の人間の声が混ざる。

 今までの青年のものとは明らかに違った、鈴の音のような高い、少女の声。


『ひっ……!?』


 通信機の持ち主が向こうでビクッと肩を跳ねさせたのが見えずとも分かった。

 噂をすれば影が差す、とはよく言ったものだ。


 スピラ・リズアラゼル。

 我が同僚にして最年少で第八位階に到達した稀代の天才だ。おっと、元同僚だったか。


 彼女の仕事ぶりはすこぶる優秀で、入隊後に解決した事件を挙げるとキリがない。

 ところがそんな優秀な彼女は何故か僕を目の(かたき)にしており、事あるごとに突っかかってくるのだ。大方、年上というだけで先輩風吹かせる存在がプライド的に許せなかったのだろう。

 ……まあそんな関係も今日で終わりを告げた訳だが。



 と、しみじみ感慨に耽っている間に、通信機の向こうではドタバタと会話が進んでいた。


『あ、その通信機。もしかしてジアから?』

『ち、ちちち違うぞ! コレは……アルディだ!

 戦線がそろそろ動くらしくてな。それについて指示を出していたのだ』

『……ふーん? なんだか余裕無さそうだけど、そんなにあちらは大変なのかな?」

『わ、私は焦ってなどいない! 断じて無い!

 むしろ余裕たっぷりだ!』

『……?』


 いや焦り過ぎでしょう。思わずそう言いかけたのを誰が責められよう。

 そもそもなんで嘘付いてんだこの人。さっき自分で『スピラ達にお前から云々』って言ってた癖に。


 そんな僕の思いを他所に、通信機の向こうの人物は強引に話を進め、勝手に終わらせた。


『とりあえずそういう訳だ! 頼むぞアルディ!』


 人違いです。そう言ってやろうと思ったが、その前に一方的に通信を切られた。

 唯一の音の発生源であった通信機が沈黙した今、あたりはすっかり静まり返り、遠くからは微かな水のせせらぎの音が聞こえてくるだけ。



「さて……………これからどうしようか」


 振り返りながら尋ねてみるも、返ってきたのはそこに居たモンスターの唸り声だけだった。


「とりあえず、迷宮を出ようかな」


 それから色々決めよう。

 幸い、考える為の時間は今出来たばかりだ。



一体何番煎じなのかも分からないけど、そういうのの方が気軽に書けるので。




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