8 旅立ち
あれから10年の歳月が過ぎた。8歳だったアガットは18になった。
ネーベルの村は3人の進化した強大な魔女により魔術は更に発展した。
高速・短縮詠唱から詠唱なしで魔法を使える者が増えたのだ。
ツェーラたちは高度な魔法ですら詠唱なしで使うが。エルフと同等な存在に進化したのではないかとすら信じている者もいるほどだった。噂は閉ざされている村からも伝わり、世界各国の魔法使いはこの高等な魔女たちの元へ足を運んだ。そのためツェーラたちは村に入れる者の選出も兼ねて幻覚と空間魔法を強化した。
それでも魔法使いは増えたため3つの校舎は増設を繰り返し、雄大な敷地を持つ小さい城のようになった。
魔法使いの増加により魔法薬は純度を増し、疫病の予防薬も開発されていった。
レンガの建物は高くなっていき、道路も補強され脇には街灯と木々が青々としている。
村は町へと変貌していった。
この10年でアガットの魔法に関してもわかったことが幾つかある。
・武器に古代語の呪文を刻めば並の程ではあるが魔力を発動させられる。詠唱での反応はない。
・武器の他にも刺繍、装飾などをすれば刻んだ模様によっていろんな恩恵を得られるが、アガット自身には効果なし。
・アガットが育てた薬草、植物は他の人が育てたものより育ちが早く、煎じた薬は倍以上の効果を示す。
・アガット自身が煎じた薬は他人が作ったものよりも倍以上の効果が証明されている。色からして違うものだと判断できる。
・アガットの手料理は何であれ疲労回復の効果がある。ホットミルクですら飲めば次の日はしゃっきりと気分爽快に。
アガットのような例が今までに無かったことから皆興味津々であり、アガットが何を作っても学園で研究してみたいと言い出す者まで出てきた。
アガットはこの四六時中誰かに観察される生活に辟易していた。
ゆっくりできるのは家くらいだが、学校があるため引き篭もるわけにもいかない。
前々はら三つ子には旅に出て世界を周りたいと伝えてあったが外の世界は危ないだの、自分の身を守れるようになればだの、まだまだ時期ではないだのと却下され続けてきた。
先月18歳になり学園を卒業したアガットはついに最終手段に出た。
泣き落としだ。
小さい子みたいにすすり泣き、どうして分かってくれないの?と焦れ、3人に抱きつきながら駄々をこねた。その結果許可はおりた。同時にアガットの記憶に消えない黒歴史を刻み込んだ。思い出しては頭を搔きむしり、奇声をあげると言う恐ろしい病気だ。
前世では子供や孫の駄々こねを聞く側だったため、演技は完璧だったが、大切な何かを無くした気分だった。
この1ヶ月この病気と闘いながら旅支度を進めていった。
保存食を作り、万が一の時の薬草と薬などを準備し、着替えや必需品をカバンに詰めた。
いよいよ出発の日になった。
街の入り口まで人々が見送りきてくれた。親しい人とハグをし、再会を約束する。
三つ子は樹海を抜けたところまで付いてきてくれた。
樹海を抜けるとそこは一面の砂漠が広がっており、相当な暑さなのか遠くでは蜃気楼が見えるほどだった。
「アガット、旅立つ前に私達からプレゼントがあるの。」
そう言ってアガットが一歩進みでる。
「アガット・トランドットへ私ダーラ・トランドットよりこのネックレスを授けます。あなたの旅路に癒しと安らぎをもたらしてくれるよう願いを込めて。」
ダーラが差し出したのは彫刻が美しい木の形のネックレスだった。根っこの部分が鍵の様な形をしており、葉の部分の中央には緑色の宝石が埋め込まれいる。
「綺麗・・・」
「これを地面に挿して回してみて。」
言われるままにネックレスを地面に差し込み回す。
カチャリッ
音とともに扉が現れた。開けて見るとそこには6畳ほどの部屋があり、中に入って見ると壁には棚が設けられ薬草や薬瓶、本などが並べられていた。机も置かれており、必要な道具が置かれていた。小さいベットもある。
「ダーラ・・・・これ・・。」
「どうしても行きたいのでしょう?壁でも地面でも鍵を差し込めばこの部屋につながる扉が現れるの。中に入り扉を閉めたら扉は消えるから、身を守るのにぴったりよ。」
「こんなにいっぱいの道具と薬草・・・・大変だったでしょ?」
「あら大魔導士ダーラ様よ?これくらい訳ないわ。」
「私からはこれね。」
カーラから差し出されたのはジャムビーアの様に少し湾曲したナイフだった。鞘に模様が彫られており持ち手の先に赤い宝石が埋め込まれている。
「アガット・トランドットへ私カーラ・トランドットよりこの短剣を授けます。あなたの旅路の災いを斬り払い、平安もたらしてくれるよう願いを込めて。」
鞘から短剣を引き抜くと刃の部分細かい古代語がびっしりと彫られている。
「これ・・・彫るの大変だったでしょう?」
「全然、全然。アガット魔法使えないでしょう?だから何かあればこれを使いな。簡単な魔法が付属されてるから。」
にっこりと太陽な笑顔でなんでもないというが、きっと何度も失敗を繰り返しながらこのナイフを完成させたのだろう。思わずカーラに抱きつく。抱きしめ返され肩が濡れるのを感じた。相変わらず泣き虫だ。
「ダーラと被っちゃったけど、私からはこれを・・・。」
ツェーラからは真ん中に青い宝石がはめ込まれているペンダントだった。先の方には黄色い宝石がついていて、揺らすたびに色を変えて輝く。
「アガット・トランドットへ私ツェーラ・トランドットよりこのペンダントを授けます。あなたの旅路を助け導いてくれるよう願いを込めて。」
ペンダントを開けると中には小さい羅針盤と蓋には4人の集合画が描かれていた。
「辛くなったらいつでも帰ってこれる様に。そして私たちの顔を忘れない様におまじない。」
いつもはつんとした雰囲気のツェーラだけど、誰よりも家族思いなのだ。絵の中の4人はとても幸せそうに抱きしめ合っている。
私ってやっぱりとっても恵まれてる。
この新しい世界でこんな素敵な家族ができたんだもの。
一人一人とぎゅっとハグをして荷物を乗せたラクダに乗る。今出発しなければ行毛なくなりそうだったからだ。
「いってきます。」
「「「・・・いってらっしゃい」」」
〜〜〜〜〜
「ゔぅ〜アガット〜〜〜。」
「カーラ、いい加減泣き止みなさい。」
「そういうツェーラだって涙目じゃない。」
「やっばりしんばいだよぅ〜〜〜怪我とかしないがなぁ〜〜。」
「あら、あげた宝具には怪我が治りやすいように魔法かけてるから大丈夫よ。」
「やっぱり・・・まぁ私もアガットに何かあれば発動する術式彫ったけど・・・」
「ぐずっツェーラも・・・?私も私も。」
「「「後、盗まれてもアガットのところに戻ってくるのと盗んだ相手が呪われるようにも・・・」」」
どこまでも過保護である。
次からやっと書きたかった部分にいける!
うれしい〜〜