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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第6章】精霊都市タオフェ
55/58

15 ここは・・・・?

アガットがぼんやりと目を開けると、大理石の上に赤で描かれた転移魔法陣の上だった。状況を確認するためあたりを見渡すと周囲には豪華な衣服を纏った貴族らしき人々が遠巻きにアガットを見ていた。


その目は忌々しげでまるでアガットを今から裁こうとしているかのようだ。


「目が覚めたみたいよ・・・・」

「赤毛がこうも忌々しいとは思わなかった・・・・」

「早く処分を・・・・」

「いやいや、それこそ罰当たりでしょう・・・」


ヒソヒソ、ジロジロ、コソコソ


まるでアガットの吐く息に毒でもあるかのように手で口覆い、汚物を見たかのように顔を背けながら話をし、少しでも身じろぎしようものなら悲鳴をあげて後ずさる。


不審者に対する態度にしてはあまりにも過剰だった。


「静粛に、静粛に!王の御前です。」


背後から高らかに発せられた言葉に辺りは一気に静粛した。


王の御前・・・・


後ろを振り向けば数段上がった高台の上にきらびやかで巨大な黄金の玉座が鎮座しており、そこに王であろう男が、そしてその両隣に王妃と王子であろう女性と若い男が着座していた。


王である男は年齢不詳だが、老人なのだろうと推測させるほど、白髪混じりでガリガリといってもいいほどやせ細り、骸骨のように凹凸のある土色の顔にギョロりと光る目が不気味だった。異様に着飾ってはいるが、まるで骸骨の模型に着せたかのように不釣り合いで返って不気味さを助長させていた。


王妃は美しいがまるで幽霊のように異様に肌が青白く血管が浮き出ていた。少しでも表情筋を動かせば引きつった皮膚がぎこちなく動き、隠しようが無い部分はシワが見え隠れした。プライドが高く、自分優位だと思っていることがその目と態度から伺えるほどあからさまだった。


王子は王より更にやせ細り病気を患っているのだろう、ハンカチで口元を覆いながら咳を繰り返している。


注意深く周囲を見れば、遠巻きに見ている貴族たちも一応に顔色は青白く痩せており、化粧が濃く、服だけが豪華だった。


空気全体が淀み、埃っぽさの中にまるで病院の中にいるかのような消毒液と薬品の匂いが混じり、それが更に彼らの人間らしさを払拭し、不気味さを増長させていた。


「お前がディオス・カエルンか?」


ガラガラと喋るのすら辛そうなほどまるで病人の様にしゃがれた声が響き、それが王が発せられたのだと気付くのに時間がかかるほどだった。


ひどい出血のため朦朧とする頭をなんとか働かせアガットは状況を把握していく。

今のアガットは転換薬で男性に変わっている。だが容姿は全くといっていいほどディオスには似ていないにも関わらず、その質問をされるということはこの国とトバール国との間に、ディオスとの間に関係性がないということだ。


アサシン達はこの国王がディオスをここに呼び寄せるために雇ったとみて間違いないだろう。


ただ、その理由が分からなかった。


ディオスをここまで呼び寄せるのならばわざわざアサシンを雇わずとも普通に招待すればいいだけのはずだ。

それをなぜ大金をかけてまで・・・・・?


返事がないのに痺れを切らした側近が合図をすれば、魔法陣を囲うようにして待機していた兵の槍が容赦無くアガットを襲った。


「イッゥグッ!」


槍で数回殴られたのち地面に縫い付けられ、肩の傷から更に出血がひどくなり、その痛みに悶えるしかなかった。


「王が聞いているのだこの無礼者!!!」

「ッ・・・・・ち、がいます。」


その返事と共に広場のざわめきが一気に広がった。

玉座の方を見れば、王族らは憎々しげにアガットを見たのち王はすぐさま側近に何か呟く。

側近は数回頷いた後、ざわつく周囲を黙らせ、再度アガットに問いただす。


「王の御前で嘘、欺瞞をするでないぞ!お前は確かにディオス・カエルンではないのか?」

「違います・・・・」

「では、お前は何者だ?」

「わ、たしは、アダムと申します。研究者としてっ・・・ディオス様につれてこられた、ものです・・・・」


その言葉を聞いた瞬間王はもういいとばかりに手を一振りし、側近に目配せをした。側近は一礼した後すぐに手を叩けばアガットを地面に縫い付けていた兵達はアガットを引きずって無理やり退出させた。


肩に広がる痛みに気が遠くなりそうになりながら、アガットは今いる場所の情報を得ようと周囲を見やる。


豪華な廊下にも関わらず人はおらずがらんとしており、病院のように薬品臭に包まれていた。豪華といっても明らかに古いデザインの装飾品ばかりでどことなく汚れが目立つ。


兵達も防具と武器がやたらと質素であり、あまり顔色がよくない。かと思えば何人かは規格外に体格が良い者もいたりする。


あまりのちぐはぐなその雰囲気に、何かあると直ぐに感づいた。


周囲を確認しているうちにアガットはどんどん薄暗い方へと連れられていく。

大理石で装飾された壁が石畳へ、そして無造作に石、岩を積み立てた場所へ変わり、ジメジメとした空気に異臭が混ざっていく。どんどんその匂いが強くなり、呼吸するのすら困難になっていく。


兵達が足を止めた頃にはどのぐらい時間が経ったのかわからないほどだった。ついた場所は下水処理場のような匂いと巨大な穴が空いていた。穴は底が見えないほど深く、巨大だった。





状況を確認する暇も、話を聞く暇もなく、アガットはそこに放り込まれた。




地面などまるで存在しないかのように、ただただ宙を舞い落下していく。


このまま自分は地面に叩きつけられて絶命するのかと悟り、なんとか打開策を考えようとするが、壁がどこにあるのかすら分からないほどの暗闇と巨大な穴に成すすべがない。


どのくらい落下していたのか分からないほど時間が経ち、自分の手すら見えない暗闇の中で虚無を感じ始めた頃、

衝撃は突然襲ってきた。


アガットは背中から叩きつけられ、衝撃で体が跳ね上がり、一瞬呼吸ができなくなり、




そして気を失った。



〜〜〜〜〜


体を何かに撫でられるような痒みを感じながらアガットは目を覚ました。



暗闇で周囲が確認ができず、感覚を頼るしかなく、負傷していない方の腕を動かして手探りで状況を確認する。


ヌメヌメとした液体のようなジェル状のもの、冷たく硬いのに不思議と柔らかい何か、小さくうねっているグニグニとした感触に、時々異様に硬い小さい石のようなものもあった。


最初はそれが何か分からず困惑したが、次第に嫌な予感がし始めた。寒くもないのに鳥肌がたち、冷や汗が止まらず、手足が震えだした。


体の痒みを感じるところを触れば、案の定グニっとした感触があり、それを摘めば小さいが動いているのがわかった。


「ひっ!」


反射的にそれを投げ捨て、肩の痛みなどお構いないしに全身を払っていく。寝てなどいられず、フラつきながらも何とか立ち上がり、服をはたいていくが、暗闇の中全身に何かがいると


その場から逃げ出すように足早に移動する。


壁さえ、壁さえあれば・・・・


恐怖から足がもつれ、貧血のためふらつき、何かにつまずいて転けるが、それでも夢中だった。


どれくらい歩いただろう。


10分ぐらいだったのかもしれないし、何時間経ったのかもしれない。


伸ばした手に冷たい壁の感覚を感じ、アガットは訳も分からず涙を流した。ただの壁が今のアガットにとって唯一の拠り所だからだ。


震える手で懐からネックレスをなんとか引っ張り出し、壁に挿そうとした時、



何かがアガットの足首を骨が折れるのではないかというほどの力で掴み、その反動で後ろに倒れ込んだ。





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