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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第5章】謎の古代遺跡
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11 同じ願い

アガット達が開拓地を襲撃してから3日経っても暴動は治るどころか悪化していた。何人かが暴徒化し、貴族の館に侵入し物資の貯蓄庫を襲った。貴族たちの物資が自分たちの1ヶ月の生活物資倍以上あったのも更に火に油を注ぐ結果となったためだ。予定していたディオスとの会合も潰されている。


貴族達は全員捉えられ、トール街中を引きずられ石を投げられて牢屋に入れられた。自分だけは難を逃れようと他人を売る使用人達もお互いに罵り合うことでボロが出てしまう。ひどい者は同じく牢屋に入ることとなった。多くのものはそれを逃れられたが、以前とは違い他人から羨む眼差しではなく白い目で見られがら生活しなくてはならなくなったため肩身の狭い思いをしている。何人かはディオスにバール街に行かせてくれと嘆願しているが、横領に関係ないか色々調査しなければならないため保留にされている。


領主のベドロは連日屋敷前での暴動に恐れおののき貴族達の使用人のようにディオスにバール街への避難を願い出ている。


「よくもまあぬけぬけと・・・・」

「罰せられる立場だということが分かってないらしいな。」

「いっそのこと広場で公開処刑しましょう。」

「それはちょっと待ってください。盗賊団との件がまだ不明な点が多い今、むやみに罰せばバール街に飛び火しますよ。」


そう指摘すれば、トムス将軍はうなる。息子の件で怒りが収まらないが、アガットの言う事ももっともだからだ。今感情的に動いてトール街の領主と貴族に向かっている怒りの矛先がバール街に再度向けられてしまえば、国が二分する。十分に証拠が集まってから行動に移すべきなのだ。トムス将軍のそれに納得したのかトール街の役人達に混ざって証拠集めをしている。それを見ながらアガットとディオスはこれからのことを決めていく。


「アガット、資料集めから奴隷達の治療まで手伝ってもらうことになってしまって、すまない。」

「ディオス様、いいんですよ。私がやりたくてやってることでもありますから。それに盗賊団のことも気になりますし。」

「・・・・そう、だな。その・・・もしよければこの件がひと段落して落ち着いたら一緒にお茶でもどうだ?」

「え?」

「いや・・・その・・・・」

「ディオス様、少々お時間よろしいでしょうか?この資料に関してご相談がありまして・・・」

「あぁ、すぐ行く。考えてもらえたら嬉しい。」


アガットが固まっているとカガンに呼ばれてディオスが離れて行く。


・・・・・え?どういうこと?・・・・お茶って?それは・・・・???


「デート?」

「ひっ!」


混乱していると突然声がしてアガットは思わず飛びのく。後ろを振り返ればニヤニヤしているルルゥとまるで娘がデートに行くかのようななんとも言えない表情のカシュンがそこにはいた。


「いつからそんな関係に?」

「ち、違う!なってない!多分これからについての相談か何かだよ!」

「私は・・・・私は許しません!そんなに、そんなにアガットとデートをしたいのなら私を倒してから!!」

「カシュン落ち着いて!なんで剣を抜いているの?!デートじゃないから、ただの相談だよきっと!」

「え〜?でもそんな雰囲気じゃなかったじゃん?」

「もう、ルルゥ!おちょくらないで!カシュンはルルゥの話を間に受けないで!待って!どこ行こうとしてるの?!」

「大丈夫です。ちょっと話をつけに行くだけです。」

「なんの!?危ないから!お願いだから剣をしまって!!」

「何してんの?」


ディオスの元へと突撃していきそうなカシュンを後ろから押さえつけ、面白いことを聞いたとおちょくるルルゥを黙らせようとアタフタしていると廊下の角からビケが怪訝そうにこちらを見ていた。


「ビケ!ビルケッタ!!お願いカシュンを止めて!!」

「聞いてきいて!アガットがねデートに誘われたんだよ!」

「デート?誰から?ディオスさん?」

「ビケも知っているだと!?誘われたのか?あの男、領主だからって何しても許されると思うなよ!」

「あぁ、違う〜違うと思うよカシュン!口調が!口調からもう怖い!!」

「カシュンさん落ち着いて。私は誘われてないよ。でもアガットを誘うのは分かると思って・・・・だって不安な時に笑顔で手を差し伸べてくれて、ダメなところを叱ってくれ、熱心に自分の考えを聞いて、アドバイスもくれる。愛情深いし、優しいもの。」

「確かに・・・・性格も芯があるけど大らか、先を見通せる広い視野と思考能力を持つ。でも威張るどころか謙虚。これは惚れるわ〜」

「っ〜〜〜〜十分に分かっているから心配なんです!アガットを利用するつもりならば八つ裂きにしてくれる!」

「「「怖い!!!」」」


4人で騒いでいると流石に目立つのは当然で、トール街の役人は目を白黒させている。皆忘れているのかもしれないがアガットは現在薬で男に変身しているのだ。片方の領主は私利私欲の塊でもうすぐ罰せられる。もう片方はいい領主だと思っていたのにまさかの同性が好きなのだと誤解しているのだ。アガットの変身を知らないトール街の役人が焦るのも当然だろう。


ー どうかトバール国をお護りください・・・・ ー


内心そう祈る役人達とは違い、バール街の兵はどことなく嬉しそうだ。美人とまではいかないが、すっきりとした顔立ちのアガットは心安らぐ雰囲気を纏っている。人柄も良い上に周囲にいる子供達と初老の護衛は強く、更にゴルゴン族の娘までを配下においているのだ。彼女ならば領主を引っ張り、民を慈しむ良き領主の、未来のトバール国の妻の座に十二分に相応しいと確信しているため、ディオスの今回のお茶へ誘ったことは最善の判断だと思って浮き足立っているのだ。


ー ディオス様、流石我らの領主!もうこのまま結婚まで一気に突き進んでください!! ー 


当の本人達をおいて兵達は最高に盛り上がっていた。まるで暴走列車の様に思いだけが突き進んでいる状態である。


〜〜〜〜〜


2日後領主と貴族の罪状がまとまった。汚職に横領、買った奴隷へのお手つきと暴行。さらには気に入った市民を無理やり使用人にするなど罪状がどんどん積まれていく。罪状を広場に張り出せば民衆は自分たちは何をしていたのか、薄々感づいていたのに何故行動に起こさなかったのかと怒りを通り越して笑いが起こるほどだった。


更に盗賊団との癒着していることが張り出されると民衆はもう唖然とするしかなかった。ここ数年トバール国周辺での強大な盗賊団の出現が確認されるようになってからトール街の人々は怯えながら暮らす日々が続いたからだ。飢えに喘ぎどうしようもなくなって国外の村に出稼ぎに行くしか方法がない住民が多かったからだ。だから尚更自分たちの国の幹部が盗賊団との癒着していたことが許せなかった。


信じられないことに少数だが今だに領主や貴族たちを擁護する人もいた。バール街の陰謀だと声を張り上げ抗議をしている。他の民衆の話にも耳を傾けずただただ自分の意見を通そうとしかしないその者たちに他の人も呆れるしかない。


だが、アガット達はそれを予測していた。長年のギスギスした両街の関係上そういった輩が出てくるはずだと思っており、わざと逃げた盗賊団を追わなかった。ギルド長のカガンには事前に周囲の村に話をつけてもらって盗賊団の捕獲を願い出していた。


数日しない内に盗賊団の残党は捕らえられた。いくつかの冒険者ギルドが残党を連れてトール街に到着すると民はこぞって話を聞きに宿や食堂に向かい、冒険者ギルドが何も知らないとわかるとすぐに残党に話を聞こうと牢屋の看守に訪問状を申請した。捉えられた残党は命惜しさにさっさと全てを吐く。盗賊団の結成理由やトール街の幹部達との知り合ったきっかけ、依頼内容、報酬金額、更にはバール街の国民を攫った事まで。信じようとしない領主擁護派は他の住民に引きずられて何人もの残党の話を聞いて徐々に目を覚ましていった。怒りの炎上させながら。


もはや民が望むのは貴族達と領主の処罰だけだった。自分たちの積年の恨みを晴らせるような一番むごたらしい罰を望んでいた。


最初に罰せられたのはディオス達を捕らえようとした貴族のポズアだった。彼は領主に次いで横領金額が多く、盗賊団との癒着を持ち出した人物だったからだ。本人は断固として罪を認めなかったが、盗賊団の残党が彼がアジトに話しをしに来たのを覚えていたし、使用人や他の貴族達が彼の罪を話したからだった。


領主屋敷の前の広場に3日磔にされたが、その間に民衆からの暴力を受け、さらには薪を集められそのまま火あぶりにされた。泣いて許しを乞うていたが、数十年も虐げられた民にはその声は響かなかった。


ポズアの火あぶりの件を聞きつけた貴族達は皆恐怖に縮こまり、牢屋で自害する者もいた。あまりの恐ろしさに気が触れる者もいたほどだった。次々に罪状を張り出され、それ相応の処罰を受けていく中、最後に残ったのは領主のペドロだった。


彼は最後まで自分の罪を認めようとはしなかった。全て処刑された貴族達のせいで自分は脅され仕方なく従っていただけだと。もはや誰もそれを信じてないのに最後まで悪あがきを見せた。ペドロ領主は貴族のポズアと同じく磔にされた。民は同じように罵り、暴力を加えたが、火あぶりにはしなかった。そのまま自分たちの飢餓の苦しみを知ればいいと水も飲み物を与えられず、凍え死ぬこともないが、肌寒い空の下ずっと晒され続けた。ある意味火あぶりよりも残酷だった。


無罪を主張していたのが、許しを請うようになり、逆ギレをみせ、最後はただただ一思いに処刑してくれと喚くようになるほどだった。ペドロが息を引き取ると燃やした。それは貴族の家族や元使用人達に見せつけるためだった。2度とこんな事がおきないように、この恨みを忘れないようにと。


ディオスは領主としてある提案を下していた。貴族たちの幼い子供たちをバール街で保護することだった。トール街の幹部の罪はいかようにも処罰できたが、幼い子供まで民の怒りを受けるのは哀れだと思ったからだ。分別がつく年齢の者は抵抗する子供もいたが、処刑が始まるとそのピリピリとした雰囲気と民衆の憤怒を感じ怯え大人しくなっていく。遠くの村に送るという提案も出たが、遠くにやるよりもトバール国内で見守った方がいいだろうと思ったからだ。


カガンにバール街までの手続きなどを任せ、バール街へ送る前にトール街の市内や村々を一周させた。馬車の窓からみたその光景に分別のつく子供達はおし黙った。村々のあまりの悲惨さが自分たちの親のせいだという事は分かっていたため、その光景はあまりにショッキングだった。石を投げられ怒りを含んだ視線を向けられ子供達は怯えるしかなかった。


全てが片付き、領主の屋敷のバルコニーにディオスが現れると民衆は歓喜した。今までトール街に関して手をださかなったせいでここまで汚職が広まり、民が苦しむ事になり申し訳ないと表明した。トール街との統一に関しては触れず、ただただ今回のことに心を痛めていると伝える。


トール街の民衆はどこかしらディオスが今回の件を機に統一すると宣言するのかと思っていただけに落胆が大きかった。パラパラと統一を願う声が広場に響き渡り、その声は徐々に広がっていく。もうバール街に対する敵意も僻みも無く、あるのはただ平穏で平和な生活を望む声だけだった。


その日を境に両街は統一され、ディオス・カエルンは新しい〈トバール国〉の国王として君臨することとなる。




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