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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第5章】謎の古代遺跡
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10 温度の違い、態度の違い3

貴族の倒壊した城壁の周りには毎日のように市民が集まっている。村民にもその話は伝わっているようで、訪問すれば怒りが爆発していた。その怒りを消化できるようにディオス達はゆっくりと対話をしていくことでバール街に怒りが向かないよう矛先を修正していく。


市内に戻れば宿の周囲は貴族の傭兵が取り囲んでいた。何人かがディオス達のせいではないかと感づき、領主の兵まで呼んでいる。


「これはポズア殿、これは一体どういった事で?」

「今回の私の屋敷の城壁の崩壊は貴殿の仕業だと噂が広まっていまして。私もデタラメだとは思うんだが、民衆に示しがつかなくってね・・・」

「すみませんが、ただの噂に対して領主である私を拘束するのはおかしい話では?お受けできかねます。お引き取りを。」


だから拘束させてもらうと話すポズアにディオスはあっさりと拒否を示す。今まで拒否らしいことをしたことのないバール街からの対応に貴族達はたじろぎ、恥をかいたと激怒する。


「ディオス殿。今の態度はいささかどうかと思いますが!?」

「えぇ、明らかに目に余ります!」

「そうでしょうか?貴族であるあなた方が領主である私に対して傭兵のみならず、兵を私用してまで拘束しに来る方が、どうかと思いますが?」

「ただの貴族が我がバール街の貴族を拘束するというのであれば、私も我が兵も剣を抜くことになりますが・・・・」


トムス将軍が更に剣を構えれば貴族達は怯む。鍛えられた軍の将軍と兵。かたや金に色目をつけた傭兵、ここでぶつかれば大惨事になるのは目に見えている。更に市民の目もあるため、これ以上大ごとにすれば噂がどのように広まるかなどバカでも分かるだろう。それでもなお引き下がろうとしないのはプライドが邪魔しているからか・・・


「ではこうしましょう。明日領主であるペドロ殿の屋敷で話し合いをしましょう。」


ディオスのその一言に疑いの目を向けた貴族達だったが、周囲の人だかりの声が大きくなるにつれ部が悪いことを理解したのか撤退していった。その馬車を見送りアガット達は計画の次の段階へと進めていく。


〜〜〜〜〜


夜が更け、アガットは妖狐に戻ったルルゥの背に乗って顔を隠した将軍達と共にチカラカ山脈の谷付近に来ていた。崖の上から奴隷達が谷を掘り進める様子がよく見えた。


キュオォオォーン


ルルゥがひと鳴きすれば、作業していた獣人たちもドラゴンたちの手が止まった。看守がいくら怒鳴りつけても、ムチで打ち付けても動かない。弱ってよろついているドラゴンを殴りつけようとした看守の後ろにハイエナが現れ、その腕に噛み付いた。絶叫と共に骨のへし折れる音と血があたりに飛び散る。


「あれは・・・大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。あれでも加減してます。あの子達が本気で噛み付いたらワームやペディセンティ(地面のような平べったい長い体を持つ大ムカデ)だって噛み砕きますよ?」

「そんなものを!?・・・・なんとも心強い、ですな・・・・」


元々ハイエナは強靭な顎をもっている。魔物であるトゥマーンのハイエナはそれ以上の力を。感心しているのか畏怖しているのかトムス将軍はティルケ達を凝視している。看守の悲鳴を聞きつけた他の看守達が駆けつけるが、暴れまわるティルケ達に手も足も出ない。


奴隷達につけられている首輪には呪文が掘られており、それを全て管理するように開拓地に等間隔に置かれた術式がかかった魔法石が怪しく光っている。アガットは兵達と共に矢を連射してそれらの魔法石を破壊していく。首輪の呪文が切れ不気味な光が消えていくと自由になった奴隷達は看守達と応戦をしていく。その中に先頭を切って剣を抜く青年がいた。トムス将軍の息子であるドルムスだった。トムスは久しぶりに見た息子の姿に剣を握る手が震えている。


「全員続け!!!」


突撃していく将軍にアガットも剣を抜き続く。ルルゥから飛び降り、傭兵と応戦しながら、奴隷達についている首輪を外していく。鉄でできたそれは鍵がついており、外れづらく獣人の力を持ってしても厳しいのだろう。アガットはナイフを抜き獣人達の首と首輪の間に差し込むと勢いよく切り落とす。カーラから渡されたナイフと男になっているアガットの腕力で硬い首輪は真っ二つになっていく。次々と首輪を外せばドラゴン達は自由になれたと暴れ始める。


だが、騒ぎを聞きつけた司令塔が警報を鳴らし、30人ほど兵が駆けつけた。アガット達が応戦していくと、更に崖の上から矢が突然吹き荒れ、ドラゴン達の体を貫いていく。


グギャオオォオアアァ


側壁を確認すれば50人ほどの男達がクロスボーを構えていた。盗賊団なのだろう、行動に規律がなく、ただ指示された攻撃をしているだけのようだった。


「どういうことだ!?街には盗賊団はいなかったぞ!!」

「これだけの人数に挟まれていては・・・・」

「全員落ち着け!!」

「弓部隊!私に続いて!!!」


弓部隊を指示して一斉に矢を放つ。何人かの男達は倒れたがそれでも男達の抵抗と反対方向からの傭兵達の攻撃にアガット達は挟まれてしまう。次々に弱った獣人とドラゴンがやられていき、更には味方も負傷していく。ビケが崖に登り戦いを挑みにいくが、盗賊団内にも腕の立つ魔導師がいるのだろう、苦戦している。崖の上から矢の雨が降り注ぎ、遂にはティルケとダリルにも当たる。


キャィヒイイィン


「ティルケ!ダリル!!」


痛いのだろう弱々しい声がしてアガットはそちらに駆け寄っていく。矢を引き抜いて傷の状態を確認すれば、矢には風魔術が施されているらしく、想像以上に傷は深く出血もひどい。薬を取り出す前に隣に出現したルルゥが回復魔法を唱える。傷が癒えていくのと再度魔法矢の雨が降ってくる。ダリルをルルゥに任せ、アガットが矢を連射して結界を張る。なんとか持ちこたえたが、盗賊団は結界ごと破壊するつもりで矢に二重魔法を付与するため詠唱し始めた。


人数でも力でも勝てる相手ではない。どうする?


アガットが身構えると、踏ん張った足が石にあたり、閃く。急いで崖に部屋を出現させ、オリガを呼ぶ。


「オリガ!お願い、力を貸して!」

「何をすればいい?」

「私がいいと言ったら目隠しを取ってちょうだい!私は後ろで援護するから!」

「ティルケ!ダリル無事か!?アガット、遅くなりました!」

「カシュン。いいところに!ルルゥと共に崖を崩して奴隷と味方を囲ってほしいの。そして石矢も!」

「承知!」」


盗賊をなぎ倒してカシュンが合流する。オリガを見てアガットの意図を理解したのだろう、急いで土壁を出現させ奴隷と兵達を避難させる。岩壁を何重にも覆わせて、加速魔法がかかっている矢を減速させる。ルルゥはアガット達の頭上にツタを這わせ、矢を防ぐ。それでも矢はアガットが張った結界をたやすく壊し、アガットの腕に、頬に、足に傷をつけながら地面を吹っ飛ばす勢いで刺さる。アガットは怯むことなく、急いでオリガの周りだけに結界を張り巡らせる。


「全員頭を伏せて目を閉じなさい!オリガ上を向いて、今よ!」


目隠しを取り、準備をしていたオリガに合図をすれば、目が開かれると同時に盗賊団員が石化していく。石化をまぬがれた男達は仲間が石になったことに怯んで、逃げていく者と、更に攻撃を加えようとクロスボーを構える者がいるが、ビケが矢が出る前に破壊してしまう。カシュン、ルルゥも崖の側面を登っていき、ビケに加勢していく。


トムス将軍率いる兵達とドルムスが率いる奴隷達は傭兵と応戦している。その間を抜けて襲いかかってくる傭兵をアガットは一人一人確実に仕留めていく。徐々にこちらに押され力関係が逆転すると傭兵達は逃げ出す者が出てくる。逃亡したものは追わず、そのままにする。その方が好都合だからだ。さっさと奴隷を連れてトール街に撤収する。


「ディオス様、戻りました。」

「アガット!トムス!無事か!?怪我は?」

「私は軽症です。だがアガット嬢の傷が・・・・」

「ただのかすり傷ですよ。帰路で仲間に回復魔法をかけてもらいましたので、傷はこの通り。」


アガットの体の傷はまるで負傷したのが幻だったかのように全て塞がっていた。だが、ディオスはそれを見て喜ぶどころか顔をしかめる。


「回復魔法か・・・・だが、あれは体に負担をかけると聞いたが・・・・」

「今はそんなこと気にしてられないでしょう。奴隷達はドルムスさんが先頭に立ち広場に向かっています。」

「アガットの言っている通りです。広場の騒ぎを聞き領主は疑いの目を私たちに向けるでしょう。傷があっては言い訳しようがありませんよ。」

「こちらは?」

「私の護衛のカシュンです。盗賊団に紛れておりました。」

「おぉ!この度は我が国の危機に潜入調査してもらい、なんとお礼をすればいいものか、感謝いたします。」

「ディオス様、顔をあげてください。まだ仕事が残っています。全てが終わりましてからこの話をしましょう。」


さすが元将軍だっただけあり、カシュンの冷静で威厳ある態度にディオスは親近感が湧いたのだろう、2人は強く握手を交わすと直ぐにこれからの話をしていく。


しばらくしてトール街の広場に奴隷達が集まって来る。ドラゴンは暴れる可能性があるため市街に避難させている。ティルケとダリルもそこで休むように伝え、ルルゥとビケは監視も兼ねて一緒にいる。


騒がしくなった広場に寝ていた市民は窓から顔をのぞかせる。突然現れたボロを纏った難民のような人々と獣人、更にはドラゴンに市内は騒然となった。高い城壁に囲まれている自分たちの街に何故!?と驚きを隠せないのだろう騒めきがどんどん広がっていく。


夜中に市民が騒いでいるのが気になったのか、貴族達の屋敷にも明かりが灯り始めた。始めはなにが起きたのか分からず、静かだったが、谷の拡張に捕まえた奴隷が逃げ出したのだと気づくと、他の貴族と領主に確認の使いを出すためなのだろう人々がバタバタし始める。


前もって宿に戻っていたアガット達は素知らぬ顔でその騒ぎに起こされたとばかりに顔を出す。ばたつく貴族の屋敷を民衆と共に観察していると、騒ぎを聞きつけた領主が駆けつけ事の鎮火を試みる。


「静まれ!静まらんか!昨日保護した難民達だ。住居を間違えて市内に現れただけ、明日にでもトール街を離れる。」

「難民を保護しただと!?俺たちですら満足に食事にありつけていないのに、なんで保護した!?」

「こいつらに食料を上げるくらいなら村民に上げた方がマシだろ!市街では餓死している人もいるんだぞ!!」

「自分たちの食料を分けてやってるのか?そうは見えないけど!!!どうなってんだ!?」


鎮火を試みてまさか火に油を注ぐことになるとは思わなかったのだろう、先日のバール街の物資の削減の噂と貴族の敷地で見た豪華絢爛な庭園に民衆の不満は十分に高まっていた。


「トール街の市民よ!我らは他の街や村から買われ、攫われた奴隷だ!谷の拡張工事のためこの街に連れてこられ、昼夜を問わずずっと働かされ続けた。逃げ切れた今、市民には本当の事を知ってほしい。」

「俺はトール街のはずれにある村人だ!谷の開拓を手伝えば家族の食事の保証をされ志願した。だが結果はどうだ!俺の年老いた母は餓死し、父はただの風邪が今では肺炎と悪化し寝たきりとなった。領主よ、なぜ我々を騙す!!!」


ドルムスに続き村民の男が領主に向かって泣きながら叫ぶ。身内を亡くし、逃げる事のできない地獄に閉じ込められたのだ。その怒りが、憎悪が、悲しみが叫びに込められていた。その感情は民衆の心に火をつけた。


その夜から市民の暴動が始まった。



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