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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第5章】謎の古代遺跡
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8 温度の違い、態度の違い

ディオス、トムス、カガンと共にアガットは山脈を登る魔法エレベーターに乗っていた。丸い卵のようなガラスケースの下にこぶし大の風石と周りを囲うように雷石がはめ込まれたデザインだ。山に描かれた魔法陣に沿って静かに流れるように動くエレベーターにアガットは感心する。


男性用のタイトなズボンとブーツを履き、首が隠れるシャツと胸元が閉じたひざ下まである上着を羽織っている。アガットは名をアダムと変え、男性研究者として同行していた。


長髪のままでも大丈夫だと話すビケたちの反対を押し切り、バッサリの髪を短くした。首元などは剃り上げてさえいる。目元が隠れるふわふわの赤毛に大きいメガネをつけたアガットは中性的な青年となった。昔学校で性別を変える薬を調合し、実験することはあったが、まさか使う日が来るとは思わなかった。女性の体よりも筋肉質なその体は潜入するにはうってつけだったからだ。


皆、アガットの変身ぶりに驚き、感嘆した。これならば誰にも気づかれないだろう。


「アガット、いやアダムよ。大丈夫か?」

「えぇ、まさか山脈を隔てて気候も変わるとは・・・」

「山脈を隔てて夏と秋ぐらい気温が変わります。それも作物が育たない理由の一つですね。」

「私の上着を貸そう。」

「いえ、そんな訳には・・・」

「気にするな。私は十分着込んで来たから。」


言葉に甘えて、上着の上にさらにのコットンシープの毛で作られた生地に首元にはフワフラビットの毛皮があしらわれている上等なコートを羽織った。薄く動きやすいのに保温性が高く機能的だった。山頂に着くとそこには巨大な城壁と門があり、通り抜けると巨大な石畳の倉庫が4つと小さい家5つ並んでいた。鮮度を保つ必要のある食料、長期保存可能な食料、医療関係の物、衣服など分かれており、倉庫からは巨大なエレベーターが稼働していた。


「圧巻ですね・・・」

「そうだろう?バール街の最先端技術と魔法を組み合わせた力作だよ。」


そういうディオスは自慢げだった。その後ろをアガットもついてく。領主が通過するというので働いている人たちはわざわざ挨拶しにきており、ディオスは一人一人と握手をしてねぎらいの言葉をかけている。その後ろ姿は領主たる威厳があった。


エレベーターにのりトール街の方に降りていくと、その極端な違いに愕然とするしかない。トール街は灰色がかっており、畑もあるのだが、そこには黄色の作物がなっているが、それでも自然が圧倒的に少なかった。どんよりとした暗い雰囲気の市内に比べ、貴族の館だけが豪華絢爛だった。明らかな貧困の差にアガットは絶句するしかなかった。


「驚いたろう?これがトール街の現状だよ。バール街が分立する前も後もなんら変わりがないんだ。」

「トール街の住民はこの光景を見てなんとも思わないんですか?」。

「山脈の上で働いているのはバール街の人々だよ。以前はトール街の人もいたんだけど、盗みと小競り合いがなくならなくてね。うちからの申し出で山脈まではうちの管轄にしてるんだ。」


それも両街の仲の悪さに拍車をかけているとカガンはいう。何をしても悪循環となっていた。


エレベーターが到着し簡単な検問をされる。初めて見るアガットは厳しく検査された。


「植物研究者ですか?何故剣を携帯する必要が?」

「いろいろな植物が生息している場所は魔物も多く出現しますからね。護身のためです。」

「こんな若いのにえらく立派な肩書きですなぁ・・・」


アガットの腰にはナイフともう一振りシンプルな細身の剣を身につけていた。オリガがくれたもので、遺跡の石化した像が持っていた剣だという。真珠のような刃は美しく鋭い


ディオスが咳払いをすると警備の男はアガットの剣を返し、進むよう伝える。寂れた市内を観察しながら、馬車が止まっている場所まで案内される。アガットが咳払いを2回すると、影がわずかにブレる。うまく紛れ込めたことを確認してアガットは馬車に乗った。


馬車はしばらく走行して、高い城壁の屋敷の中に入って行く。トール街の領主のもので、中はまるで別世界のように豪華絢爛だった。庭園の石像などは売れば向こう1か月の市民の食費になるだろうに、どれだけ散財しているかがうかがえた。


「ようこそ、ディオス様、トムス将軍、カガン殿、そしてそちらは・・・」

「私が招いた植物研究者のアダム・トーランだ。」

「初めまして領主様。」


トール街の領主は身長が高く、貧困などということとまるで似つかない体型をしていた。アガットの顔をジロジロ値踏みしてにこやかに握手するが、その握力は強い。歓迎されてない証拠だろう。アガットもにっこりと笑い返して力を込めた。でっぷりとしたその手をまるでハムのように握りしめる。


「あいだだだだ!」

「あg、アダム!!!」

「え?し、失礼いたしました。てっきりトール街ではこれが友好の挨拶なのかと・・・申し訳ありません!」


ペコペコと頭を下げるが、内心は笑っていた。ディオス達の方を見れば同じく笑いをこらえるのに必死だった。

自分が先にした事もあり、強く出れない領主は笑って冗談で済ませるが、額には青筋がたっていた。だったらしなきゃいいものを・・・・・


会議室に通されれば、トール街の貴族達はそろっており、ニヤニヤと笑っていた。アガットは注意深く一人一人の顔を確認して行き、顔を覚えていく。ディオス、ギルド長カガンの席は用意されていたが、アガットのはなかった。ちゃんとした情報を伝えたはずなのに間違えたと笑っている領主に連絡役のカガンの雰囲気が変わっていく。席などどうでもいいアガットはさっさとトムスの横に立つ。その時に剣を鳴らすのを忘れない。また、影がブレて部屋の空気が一瞬だけ変わる。


「それでディオス殿、視察というがどういったことでこちらに伺ったのでしょうか?」

「いや、倉庫の供給班からの情報で物資の分配が不平等に行われていると情報が入りましてね。ぜひ1度私から物資の手渡しをしたいと考えまして・・・」

「そんなデタラメのためにわざわざ?私が代理でいたしますよ。」

「いやいや、何度かその情報が上がる際にいつもペドロ殿のお手を煩わせていたじゃありませんか?なので今回は私自ら行いますよ。」


なおも食い下がるトール街の領主ペドロにディオスも負けじと応戦する。その様子を見て貴族達は顔を見合わせている。貴族の横領の件はディオスの祖父の代から皆知っていたことだ。それをなぜ今更?


何度もディオス達と話し合いを繰り返した計画だ。ここでの交渉は絶対に成功させなければならない。ディオスが直接物資の手渡しをすることで市民との接触が表立ってできるようになる。話をすることでトール街の現状把握とバール街に対する不満を、貴族が植え付けた不信感を少しでも払拭したいからだ。


「しょうがありませんな。どうしてもとおっしゃるのであれば容認しましょう。」

「ありがとうございます。さすが寛大なペドロ様ですね。出来ましたら、市民全員に手渡ししたいので、住民数と必要な物のリストを教えていただければなおありがたいのですが・・・・」

「ディオス様、さすがにそこまでは要求しすぎでしょう。」

「そうですよ、市民の人数だけで勘弁してほしいものですな。我々も暇ではありませんし・・・」

「これは失礼いたしました。それでは人数だけで構いません。後はこちらで適当に見繕いましょう。それともう一つお願いしていた案件なのですが、私が招いた植物研究者のアダム・トーラン殿がトール街の作物研究に参加するのを許可していただきたいのです。」

「それは・・・」

「まぁまぁ、いいではないですか。以前も何度か研究者が来たことがありますし、今回もご自由になさってください。」

「ベドロ様ありがとうございます。」

「ありがとうございます。成果を残せるよう精一杯頑張りますので。」


ペドロはディオスに煽てられて浮かれていた。経済的に逆転してしまったが未だ自分たちの方が上なのだと考えているのだろう。他の貴族もそうだった。領主の館から辞し、アガット達は宿屋に向かう。領主であるディオスがいるにも関わらず、ついたのは一般人が使用する宿屋だった。そこの一番いい部屋に通されるが、主人はあまり歓迎していないのだろう、そっけなかった。


「いつもは腹の立つ対応ですが、今回だけはありがたいですな。」

「あぁ、本当に。アガット嬢出来ましたら明日にでも調査をお願いしたいのですが・・・」

「いえ、今からやりましょう。食堂でサンドイッチをもらって色々見て回りたいと思います。」

「では私が同行しよう。」


トムス将軍が一緒に行動してくれというのでお願いし、食堂に向かう。サンドイッチをお願いすると、シェフ達は嫌そうな顔をしてハムだけのサンドを出した。アガットが凝視しているとニヤニヤしながら見ている。


「嫌なら食べなくていいんだぜ?」

「そうそう、作れって言ったのはそっちなんだがなぁ。バール街の住民は俺たちの食べてる物なんざ口に合わないんだろうよ。」

「ここの食材はバール街から支給されている物が7割ですよね?こんな粗末な食事しか提供できないのであれば次回からその半分を削減しますね。」

「「は?」」

「おいおい、坊主!お前に何の権限があって!」

「バール街の植物研究者としての権限ですが?植物が育たないとおっしゃるので何度も調査に来ても解決しないので、いっそのこと提供している物資の削減から始めたらいいのではと話になりまして。」

「領主様がそんなことお許しになる訳がない!」

「そ、そうだぜ!俺たちに何を食って生きていけと!!!」

「このサンドのような食事がお好きなんでしょう?それを食べたらいいのでは?では、失礼します。」


サンドイッチを作り直そうと伸びる手を躱し、さっさとカバンに入れて出ていく。後ろで何やら喚いているが放っておく。店主も女将も騒ぎを聞きつけて食堂に集まって来た。シェフ達の話を聞いて顔を真っ青にしている。この様子だと噂が広まるのは時間の問題だろう。好都合だった。


市内を歩いているとバール村からの者だと分かるのだろう、嫌そうな顔をしかめる者、悪態をつく者など様々だった。市場にいっても同じでアガットが商品を見ているだけでも嫌なのか、門前払いされる始末だ。しょうがないので市内を離れて畑の方に向かうと貧しさがより一層ひどくなった。着るものすらないのか、ボロをまとった女性と老人が多く、食べるものがないのだろう子供達はやせ細り、崩壊寸前の木造の家からは死臭すらした。これはひどい・・・


「何しに来た!!」

「俺らをバカにしに来たのか!?」

「バール街のやつだろう!!帰れ!!!」

「アダム、ここを離れましょう。これ以上いるのは危険です。」

「いえ、トムス将軍、ここの病人を診断していきます。手伝ってください。」


石を投げる者、農具で脅してくる者に怯むことなくアガットは進んでいく。弱って立つことすら出来ない母子を問診していく。母親は嫌がるそぶりをするが、力が入らず、容易く子供を受け取った。栄養が足りないのだろう焦点が合っていない子供に馬に乗せた薬草入りの砂糖水を飲ませていく。村民が何か言っているが、親兵に対応を任せ、母親の方を診る。栄養不足と鉄分の不足で顔色が悪い。同じように砂糖水とロウラの実を切り、食べさせる。初めて見るフルーツに警戒するが、飢餓感に勝てなかったのだろう、すぐにかぶりついた。アガットが〈箱庭〉で栽培したロウラの実はすぐにその効果を見せ、母親の顔色が良くなって来たのだ。


他の人たちも病状がひどい者から診断していく。村民の反応はバラバラだった。ありがたいと診断の列を作る者、治療してほしいが嫌悪感が拭えないのだろう悩む者、治療すら嫌がり家に引きこもる者もいた。それでもアガットが診断していき、親兵達が指示にしたがって薬などを服用させていく。


だいたいの村民の診断を終わらせ、簡単な食料をおいてからその日は帰る。市内に戻れば噂はもう広まったのだろう。市民たちの顔色一様に悪かった。宿屋に着けば店主たちの態度は変わり、夕食は異様に豪勢になった。アガット達は苦笑して、部屋で食事をとることを伝え、食べながら昼間の報告をしていると、光石の影がぶれた。


「おかえり、早かったね。」

「ただいま〜お腹すいた〜。」

「私はちょっとクタクタ。あの貴族達自分の自慢話しかできないの?」

「「・・・・」

「皆手を洗っておいで、食事しながら報告会しよう。ティルケ、ダリル?どうしたの?」


2人は何も言わず、うつみいたままアガットにしがみついているだけだ。アガットは嫌な予感がした。何か嫌なものを見せてしまったのかもしれない。しばらく2人の背中をさすってやりながら、様子を見る。




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