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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第5章】謎の古代遺跡
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6 話にならない

2日後アガット達はレザントに連れられて領主の館に来ていた。山の近くにある広大な敷地を有する館の門を通り抜けて、玄関で待っていた使用人に案内されるがままに部屋へと通された。大きな長方形の会議机のを囲うようにバール街の権力者とギルド長のカガンそしてレザントが着席している。レザントの後ろではジュノスが控えていた。アガットは案内された椅子に腰掛けて領主を待つ。


皆アガットの話は聞いてたがここまで若いとは思わなかったのだろう、値踏みするような視線を向けている。レザントはアガットが居心地悪くないか心配で顔色をうかがったが、本人は慣れているようで余裕な雰囲気を出している。しばらくして、領主が入室してきた。権力者達が一斉に立ち上がるのを見てアガットもそれに続く。


領主は20代後半か30代前半だろうか、だいぶ若かった。しっかりとした体は鍛えているのだろう高価な衣服の上からでも筋肉がついているのがわかった。整っている部類に入るだろう顔を隠すように黒髪がもったりと伸びている。憂鬱そうな表情のまま、アガット達に座るよう手で合図する。


「領主のディオス・カエルンだ。レザントそちらが話していた女性か。」

「はい。名を「アガット・トランドットと申します。」

「して、今回話したい議題は盗賊団についてというのか、しかも裏ではトール街が関与していると・・・」

「その通りでございます、領主様。」


レザントが詳しい話をし始める。賊のこと、買い付けに行く先で2回も盗賊に出くわしたこと。最近できた宝石店にレザントが仕入れた宝石と似た商品が並んでいること。だがどれもディオスには興味のないことなのだろう、肘掛に肘をついて、面倒臭そうに聞いている。


「それで、その賊が何故トール街のものだというのかね?」

「私が伝えたからです。」

「小娘の話に耳を傾けるなど、レザントよ、商売敵にやられて気でも狂ったか!」


食品を牛耳っている権力者の男がレザントをバカにし、他の者もそれに同調する。レザントは悔しそうに歯ぎしりするしかない。だが、それを静めるようにカガンが挙手をした。


「どうした、カガン?」

「領主様、差し支えなければ私からもいくつか情報を加えさせてください。」


領主が手を振れば、カガンは立ち上がり話し始めた。バール街での盗難、行方不明者がここ数ヶ月で急増していること、バール街周辺でも同じたっだ。行方不明者は特に女性が多く、昨日アガットが保護した女性の大多数がその者達だったのだ。


「ガンズ様、そういえば2ヶ月前に賊に入られたと申し出があったはずですが・・・」


とどめにレザントをバカにした権力者・ガンズにそういえば、そういえばそうだったと気まずそうに返事をした。ガンズだけではない、今ここにいる権力者の半数の屋敷に賊が入っているというのだ。


「私も流石におかしいとしか言えません。どうか調査を。」

「その娘が申し出る前はそのような話出てなかったが・・・・他の証人は?」

「ございます。ビケ、連れて来てちょうだい。」


会議室の扉が開きゴズが入ってくる。ジュノスかその顔を見た瞬間動かなくなった。ゴズが簡単な自己紹介をしてから、盗賊団の内部の話を始めた。流石に権力者達も自分たちの盗まれた宝石がどのように処理されているのか詳細を聞くと黙るしかなかった。


「盗賊団はトール街以外の者は全て片付きました。1人をのぞいて。」

「ッ!!!」


ゴズは話終わるとジュノスの方を見た。会議室全員の視線がジュノスに集まり、流石に追い込まれたジュノスはレザントを人質にしてナイフを当てた。会議室は騒然となるが、アガットはのんびりと席に座ったままだった。


「う、動くな!!」

「衛兵!!」


ジュノスの周りを衛兵が取り囲むが両者は対立して動かない。素早く動いたのはビケだった。ジュノスの後ろに回り込むと剣を鞘から抜かずにナイフを握る手を打ち付けた。痛みで悶えるジュノスを衛兵達が押さえつけ連行して行く。


「レザント!彼が盗賊団の一員だと知っていたのか!!」

「えぇ、知ってました。彼も立派な証人になると思い今回連れて来ました。」

「またその娘の指示で、だろう?」

「その通りでございます。」


ディオスはアガットを見据えながら付け足した。アガットも素直に認める。この領主がどのように動くかだいたい予想ついた。ビケに戻るよう目配せをする。


「彼女が自作自演した可能性は?」

「「ディオス様!!!!」」

「無いと言い切れるのか?我がバール街とトール街の分裂を狙って盗賊団を仕掛け、その後にさも救世主のように現れる。無い話ではなかろう?」

「確かにその可能性もありますね。私からも領主様に質問が。」

「どうぞ。」

「ここ数年のバール街での行方不明者がトール街で見付かっている件についてはどうお考えで?」

「どうせお前が何かしたのだろう・・・」

「ここにいるトムス将軍のご子息もいらっしゃるのに?」


そう言えばディオスの横で控えていたダルムが身じろいだ。その目はアガットの発言の真偽を見定めるように観察している。自分の右腕であるはずのトムスの話でもディオスは動かず、アガットとの関係性を考えようと目をさまよわせていた。


「お前が誑かしたのでは無いのか?」


ガズゥゥン


その発言と共に巨木を縦に切り取った会議机が真っ二つにへし折れた。ティルケが机に乗ったままディオスを見据え、口元は変身が溶け始め、ギザギザの尖った歯をカチカチと鳴らしている。ダリルはまだ理性が残っているが息が荒くギリギリと歯ぎしりしている。領主の発言に怒っているのだ。2人の感情に触発されてカントレットが肥大し始めた。それを振り下ろせばディオスの首など簡単にへし折れる。頭など粉々になるだろう。


権力者達は恐れおののき部屋の角に避難している。ディオスも将軍と親兵に守られている。その表情は先ほどの憂いを帯びた表情ではなく、驚きに包まれていた。


「ティルケ、机から降りなさい。2人ともカントレットを戻して。」


聞こえているはずなのに動こうとしない2人にため息をついて、懐からお菓子を出す。


「膝に乗って食べていいから、こっちにおいで。」


未だディオスの方を凝視しているが、カントレットは元のサイズに戻った。ぽんぽんと膝を叩けば渋々やってきた。言うことを聞いてくれたと頭を撫でて、焼き菓子をアーンしてあげる。我に返った将軍が動こうとするが握りしめた剣がガチガチ鳴るだけで体が動かないことに気付く。魔法使いも攻撃をしようとするが、結果は同じだった。


「ルルゥもおいで。」


アガットが呼べば将軍の影から巨大な妖狐が現れ、不機嫌そうにどすどすと歩いてくる。室内にいる他の者たちは恐怖で固まるしかできない。


「何か勘違いされてるようですので、はっきり言いますね。私がこの国を潰そうと思えば今回みたいな回りくどいことをせずに、さっさと更地にします。」


その力も方法も持っていると見せつけるかのように真っ二つになった机にペンダントの羅針盤を置く。


指でトントンと机を叩けば、羅針盤の針がぐるぐると回転し始め、まるで時間が巻き戻ったかのように机が元に戻った。最近気付いたのだが、ツェーラの羅針盤には簡易魔法をかけられるような仕組みが施されていた。教えてくれればいいのに、黙っていたのは帰った時にネタばらししようと思ってたのだろう。何年も会ってないその顔を思い出してアガットは苦笑する。


「魔女か・・・」

「えぇ、その情報は知りませんでしたか?」

「トランドット!!!魔女のトランドット!!ネーベルの3大魔女の!!」

「何か?」


突然魔法使いが発狂したかと思うとアガットに駆け寄ろうとする。それをビケが邪魔するが、まるで熱狂的なファンのようなその態度にアガットはドン引きだ。唾を飛ばしながら言うにはネーベルに向かおうとするが幻影魔法に邪魔されて来た道に戻される。会いたくて堪らなかった至高の方々に会え感激しているらしい。勘違いしているし、今話す話題では無いためアガットは無視を決め込む。


ディオスの方を見れば苦悩しているようで、アガットを睨みつけている。


「君が来なければ全てうまくいってた。平穏だった!」

「・・・はぁ、話になりませんね。私たちはこれで引き取ります。明日にでも街を出ましょう。ビケ、カシュンに連絡してトール街から戻るように言ってちょうだい。」

「ま、待ってくれ!本当に、本当に息子は、ドルムスはトール街にいるのか!?」

「ご勝手に想像なさってください。我々はこれで。」


すがるようなトムス将軍の質問を一蹴してアガットは扉の方に向かって行く。衛兵がいようとも関係ない。ルルゥの姿に怯え、近づくことすらできないのだ。

会議室にいる権力者が引き止めようとするのを無視して屋敷の外に出る。


「アガットさん!!アガットさん、お待ちください!」

「ギルドの方から依頼をさせてください!」

「すいません。今回はここまでしかお力になれそうにありません。いくら私達が調査をしようとしても、領主があれでは意味がないでしょう。」


私達はこれで、と一礼してアガットは屋敷を辞した。




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