5 さて、やりますか・・・
「実ば盗賊団の元締めってトバール国のもう一つの街らしいのよ・・・・」
「「「え?」」」
3人の驚きの声にアガットも頷くしかない。まさかのまさかなのだ。盗賊団ですら十分に大きい事になるのに、更にトール街が絡んでいるのは大ごとに発展するのだ。
「だからさっきあんなに嫌がってたの?」
「え?どんな風に?」
「こう、バタバタ〜って。」
「アガット服が汚れちゃうじゃない!」
「ちゃんとオリガが綺麗にしてるから大丈夫!」
「もう!」
「ビケ諦めなよ。今回は私もやだもん。」
「そんなに大変なこと?」
「「「そりゃあ、もう!!!」」」
アガットは街同士の中の悪さ、トール街の貧しさなど、かい摘んでトバール国の話をする。面倒臭さが伝わったのだろう、話を聞いたオリガは眉間にしわを寄せた。アガットはいやいやと繰り返して、寄りかかっていたドラゴンの顔に抱きつき擦り寄る。ドラゴンも嬉しいのかグルルルと喉を鳴らしてくれる。あ、ちょっと癒された・・・・
「もう片足突っ込んじゃってる状態だよ?どうするの?」
「ゔぅうぅ、とりあえず、アクセサリー作ってる男の人を助け出して、証人になってもらおうと思う。」
「私にも手伝える事ある?」
オリガも何かしたいのだろうアガットの手を握って聞いてくる。アガットは話そうと思っていた話を思い出した。
「そう、オリガにも話しがあってね。オリガ私達について来る気ない?」
「え?」
「またこの遺跡に1人になるのはちょっとなぁ、と思って。」
「私・・・・い、一緒に行きたい!」
「じゃあ決まりね!」
ちょっと立ってほしいとお願いして、アガットはオリガに向き直る。するりと蛇の下半身を伸ばしたオリガはアガットよりもずいぶん高くなった。その両手をとってアガットは契約を結ぶ。
『ゴルゴンの娘、オリガよ、私アガット・トランドットの配下としましょう。』
「はい。よろしくお願いします。・・・ところでなんで改まったの?」
「あれ?話してなかったっけ?」
「「もう〜アガット!!」」
どうやら【進化】について話してなかったらしい。結構長く一緒にいた気がするためもう話したかと思っていたアガットはあれ?と頭を傾げ、ルルゥとビケはずっこける。簡単に進化についてオリガに説明すれば興奮してアガットに抱きついた。
「その進化をすれば、もしかしたら私の目を見ても石化しないようになるのかしら?」
「可能性はなくもないよ。でも絶対とは言えない。」
「その可能性があるのなら構わない!!アガットありがとう!!!最高のプレゼントだわ!!!」
オリガは感極まり涙を流している。目隠しのハンカチがじんわりと濡れていた。ずっと1人だったのだ、寂しくないはずがないのだ。アガットがその背中を抱き締めるとビケとルルゥも加わってぎゅうぎゅうにする。オリガは新しい家族の温かさに泣きながら笑った。
〜〜〜〜〜
レザントが買い付けから帰って来た。アガットは盗賊達に顔を知られているためビケに会いに行ってもらい商談室ではなく、家に招いてくれた。部屋に入ってから〈部屋〉の扉を開けてもらう。レザントとその妻のゾゾは信じられないのだろう、肩を落としていた。
「アガットさん。やっぱり仰っていた通りになりました。」
「そうですね。賊に紛れたカシュンからの話もありますので、ゆっくり話をさせてください。これからレザントさんに手伝ってもらう事になりそうです。」
アガットが頭を下げると、レザント夫妻も頭を下げた。座ってからアガットは簡単にカシュンから聞いた話をする。どんどん悪い方向へ進む話にレザントの顔は怒りで赤くなり、ゾゾの顔は青くなっていく。
「トール街のやつらめ!!!いつか何かをしでかすと思ってたんだ!!まさか私の財産を狙うなど、ぶっ殺してやる!!!」
「あなた!落ち着いて。私たちだけでは済まない話ですよ!これからどうしたら・・・・」
「レザントさん。お願いがありまして、私達はこれから装飾職人の男を助け出します。できたら彼に証人になってもらうよう説得するつもりですので、レザントさんは領主と話をする機会を取り付けてくれませんか?それとジュノスさんにはバレないようお願いします。出来たら領主との話し合いにも連れて来てください。」
「もちろんです!私と私の店のためにそこまでしてくださっているのです!お力になれるのなら!!!」
領主との約束の取り付けをお願いしてアガットは〈部屋〉に戻る。次の扉が開いたのは宿屋の中だった。しばらく帰ってないため店主は心配したが、商業ギルドのバッチを見せれば納得してくれた。なんとも便利なものだ。食堂で出された食事を平らげアガットは部屋に戻る。夜までしばらく待機する。これからは市内で行動することになる。オリガにはしばらく遺跡で我慢してもらう。姉妹石で連絡すれば今日は特に異変はないそうだ。
『気をつけてね?』
「オリガもね。」
本を読みながらのんびりしていると宿の外が騒がしくなっていく。さて、わざと捕まるか、ボコボコにして吐かせるか・・・・悩んでいると部屋の窓から2人の男達が武器を構えて侵入して来た。
「おとなsっガッ!」
面倒臭いので口を開く前に本をぶつけて黙らせる。硬い本の角が当たったのだろう痛みに悶えいてる男の頭を蹴り飛ばし、もう1人の男の懐に入りナイフ柄で喉をつけば呼吸がうまくできないだろう、膝から崩れ落ちた。最初の男にナイフを突きつければ終了だ。
「こんにちは。」
「・・・・」
「できたらあなた達のボスのところに連れて行って欲しいんだけど。」
「そんな事できるっ・・・」
ナイフを少し横に引けば男は黙る。どうする?と笑顔を向けると男は頷くしかない。
〜〜〜〜〜
街のはずれにある倉庫のような家の敷地に入り、納屋の方へと周り、扉を開けた。納屋の中はごちゃごちゃとしており、酒を楽しむ者、武器の手入れをする者、女性と楽しむ者など様々だ。アガットを連れて来た男達が中に入ると盗賊たちが黙る。
「おい、あの娘どうなった?」
「捕まえたのかよ?」
アガットが顔を出せば盗賊達のニヤニヤ笑いだす。なんとも下品な事で・・・そのまま目の前の2人の男達を押せば、そのまま倒れこむ。邪魔にならないようにしびれ薬を盛った。流石におかしいと気付いたのか、盗賊達が武器を構えるが、アガットの方が早い。
「ダリル!ティルケ!」
名前を呼べば影から2人が現れた。急に現れた子供に男達は驚き一瞬怯む。その隙に2人は黒い霧と共に盗賊たちの間で姿を表したり消したり、目で捉えるのが難しいスピードで盗賊達を地面に沈めていく。
アガットは先に部屋の中に進む。
部屋の中からは女性の喘ぎ声と時たま悲鳴と何かが弾ける音も聞こえる。奥の部屋に入れば、捕まったのか自分からついて来たのか分からないが、ボロボロの女達が縮こまっていた。何人かはギルドでの捜索願いが出されている娘の顔もちらほらある。いつの間にか後ろに現れたビケとルルゥが武器を構えてアガットの方をじっと見ている。一つ頷けば、ビケは先ほどの部屋の中へと飛び込んでいく。縮こまっている女達はルルゥが対応してくれるだろう。
2階の方へ向かうと、破裂音と何かが割れる音が聞こえてくる。音がしている扉を開ければ、縛られ痣と血だらけの男を取り囲み3人の男が立っていた。突然娘が入って来たので驚いたのだろう。ムチやナックルを持つ手が止まった。
「なんだ嬢ちゃん、部屋間違えたのかよ?」
「こっちには入ってくんなつってるだろうが!」
「ここのボスってどなたになるんですか?」
「あぁ?お前新人かよ・・・オズロどうする?」
「おりゃ、イラついてるんでね。もう少し憂さ晴らしするわ。勝手に楽しめ。」
なるほど、あの王子様のようなハンサムな店員がここのボスらしい。店で客に笑顔を向けていたとは真逆な残忍な顔をしていた。
アガットを連れ出そうとする大男の腕をのびてくる前にナイフで壁に縫い止めた。何が起きたのか分かってない大男はしばらくキョトンとした後に痛みのうめき声が上がる。うるさいと容赦なく顎を蹴り上げてだまらせる。もう1人の男が突進してくるが、身を低くして懐に入り込みその心臓と肺のあたりをナイフの柄で思いっきり突くと、うめき声をあげて動かなくなった。
屈強な男達があっさりと倒され、オズロは慌ている。アガットの方にムチを向けるが、ナイフで向かいうつ。カーラから授かったナイフは切れるだけはない、ムチを切り落としただけでなく、目に見えぬ速さでムチが燃え、握っていたオズロの衣服にまで飛び火した。逃げ惑うオズロをしばらく観察してから鎮火してやる。その頃にはオズロは息も絶え絶えで鞭を握った腕は火傷が広がっていた。
「お前ら・・・・こ、んな、ことして、タダですむとおも、うなよ・・・」
「別に思ってませんよ。むしろ好都合ですね。」
オズロが口を開く前に腹を蹴り黙らせる。縛られた傷だらけの男に近づくと、訳が分からないと目を白黒させている。30代ぐらいで全身に痣が広がっており、顔の半分に火傷の跡があった。食事もまともにさせてもらえてないのだろう、ガリガリの体に窪んだ目をしている。鎖を解いてやるとまだ立てるみたいで、アガットに礼を言いながらふらふらと手首をさすっている。まるでモヤシのように縦にだけ長くひょろ長い。長身なはずなのに、猫背のせいで小さく見える。
「アガット下、終わったよ?」
「はーい。」
ビケが扉から顔を出し、下の状況を教えてくれる。すぐ行くと伝えれば、早くねと念を押されて下に降りて行った。若い女の次は子供が出て来たのだ、何がなんだかと固まっている。男に向き直り、体の傷を確認する。化膿している傷もあるが、致命傷では無い。アガットは懐から薬を取り抱いて手当てして行く。やっと男は冷静さを取り戻したのだろう。アガットの顔をじっと見つめてる。
「装飾職人さんですか?」
「あ、あぁ・・・君たちは?」
「正義の味方です。」
「え?」
アガットはいたずらっ子のように笑った。
〜〜〜〜〜
1階におりてビケ達と合流して宿に戻る。盗賊達はレザントが話をつけたギルドのカガンに預かってもらった。
装飾職人の名前はゴズと名乗った。顔のひどい火傷は小さい頃に出来たもので、そのため孤児になり、食べていくために鍛冶屋になったのだという。だが鍛冶屋の修行が終わる頃には装飾業に興味を持ったため、装飾職人として生活していたのだ。顔のせいか苦労をしてきたせいか、逆に美しいものに対して強い興味を示すようになったらしい。
「遺跡に開いた穴に落ちたことあります?」
「・・・参ったな・・君はエスパーか何かなの?そうだよ、この街について間も無く、遺跡の話を聞いてね。興味が湧いて度々訪れてたんだ。」
遺跡の見たこともない装飾に強く惹かれて暇さえあればデッサンしに行ったのだ。雨が降った日に樹海で足を滑らせて気が付いたら下に落ちていた。幸い服が巨木の根に引っかかり一命をとりとめた。えらく深いところに落ちたと考えていたら、奥から物音がした。好奇心で覗いてみるとそこには蛇の魔物がいた。驚きのあまり腰が抜けた。
「・・・でも石化してない。」
「あぁ、向こうは俺に気が付かなかったんだよ。頭の蛇の喧嘩仲裁に夢中でね。」
青白い肌に恐ろしい蛇の下半身と髪。初めて見る魔物に恐怖で動けなかっったが、泣そうな顔をして蛇達の仲裁に入る姿を見ていると不思議と目が離せなかった。
彼女の涙が溢れて地面の切れ目から差し込む光に照らされキラキラ光るのを見た時、恐怖は消え失せ残ったのは興味だった。
「魔物のはずなのに人と変わらず感情があるんだと思うとどんどん惹かれていった。夢中でデッサンしたよ。」
そこから3日間食べるのも忘れ気絶するように眠り、ずっと彼女のことをデッサンしていた。幸い自分のことはゴルゴンの娘には気付かれなかったが、3日目に遂に限界が来た。フラフラと目眩がして手に力が入らなくなり、慌てて近くにあった雑草を夢中で食べた。
「まさか生えていた雑草が薬草だとは思わなかったよ。みるみる体力が回復してね、あのまま遺跡に居座れば見つかる可能性が高くなるから、流石に地上に戻ろうと思った。」
巨木の根とツタをうまくつたって地上に上がった。家に帰って仕事に戻っても彼女の姿が頭を離れなかった。暇さえあれば遺跡に足が向いた。だが、ある日帰り道に同僚の男に誘われ飲みに行った。早い段階から酔いが周り、しかも聞かれるまま答える状況に流石におかしいと思い、店を出ようとして意識がなくなった。気がつけば知らない部屋に繋がれていた。抜け出そうとしたが叶わず、装飾品を作るよう強制された。拒否すれば待っていたのは暴力だった。しかたなくアクセサリーを作ったが、それでも盗賊達の暴力は日に日にエスカレートしていった。流石にやばいと感じた時にアガット達が突入して来た。
「なるほど・・・」
「これからどうするつもりですか?」
「2日後領主と話をする機会を設けてもらいました。そこにゴズさんは証人として同行して欲しいのです。」
「わかりました。お力になれるはずです。」
そうと決まればゴズには傷と体調を回復してもらわねばならない。部屋でゆっくり休んでもらうことにした。




