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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第5章】謎の古代遺跡
44/58

4 調べれば調べるほど・・・

「「おかえり」」

「あら、ティルケもダリルも出迎えありがとう。」

「持つ。」


ダリルがアガットの馬から荷物を下して運んでくれる。なんとも紳士に育ってくれていると嬉しい。頭を撫でようとするアガットをティルケは抱えると樹海の中を駆けだした。何事かと目を白黒させていると突然ティルケがジャンプしてそのまま落ちていく。


「あわわわわっ」

「大丈夫だよ〜捕まってて〜」


のんびりとしたティルケの声が聞こえてアガットはその小さな体にしがみつく。口から胃が出そうな感覚になりながらアガットは冷や汗を垂らし、ぎゅっと目を瞑った。しばらくの落下の後、どんっという音と共に一気に体に衝撃を感じる。周囲を確認するとそこは地下3階の池の中の瓦礫の一つだった。どうやらアガットが買い出しに行っている間に樹海を駆け回って最下層まで続く穴を見つけたようだ。なんとも元気な事で・・・


降ろしてもらい、祭壇の方へと歩くとルルゥ達は早速アガットが買った食材を物色していた。お昼は準備して行ったのに、この育ち盛り達はもうお腹が空いているのだ。ため息をついてクッキーの入った袋をひとつ取り出して渡す。取り合いにならないよう注意してアガットは食材を〈部屋〉にしまっていく。それが終わればもう一袋買っておいたクッキーを持ってオリガに会いにいく。


「アガット!」

「お菓子買って来たから一緒に食べよう?」


お茶を入れた水筒も一緒に見せる。座った間にお菓子を広げて、アガットはゴルゴンの娘との交流をしていく。


〜〜〜〜〜


この数日間アガットは〈部屋〉で寝泊まりし、3人は元の姿に戻った生活を満喫していた。樹海で好きなだけ駆け回り、狩をする。ドラゴンの世話をして、夜になればアガットの作った夕飯を食べに戻り、ベットの隣に敷いたブランケットの上で寝た。それでも何度か樹海を抜けた広い場所に、食料と薬など必需品を取りに行くため、3人には幻影魔法をかけてもらって〈箱庭〉を展開させた。


オリガとも食事を一緒にとる事でどんどん距離が縮まった。暇さえあればアガットは本を開き文字を教えた。これでアガットがいない時間も本を読んで暇をつぶせるからだ。そしてたまにオリガに目隠をして一緒にご飯を食べたり、ルルゥたちと会話できるように姉妹石を渡した。


6日後、卵のように固くなったサナギを内側から叩く音がし始めた。アガットは準備していたカシュンとビケの服を整えながら2人が出てくるのを待つ。


パキ・・・コッコツッ・・・パキキッ


殻が割れ、ビケが先に出て来た。


短く切っていたふわふわの金色の髪は胸まで伸び、光り輝いている。そばかすにも見えた爬虫類特有の斑点はなくなり、陶器のような透き通った白い肌に。尻尾は細くなり、くるりと腰に巻きつけるほど長くなった。澄んだ緑とも水色とも言える瞳が見る人を惹きつける。そして特に変わった事が、尻尾と同じで光の角度で白金とも白とも言えない色をしたコウモリのような翼が背中に生えたのだ。


「うちの子は天使だったんだね・・・・」

「もう!そんな訳ないでしょう!!これどっちかっていうと悪魔だから!」


歓喜のあまりビケをぎゅうぎゅうに抱きしめ天使だと繰り返すアガットに、しびれを切らしたビケが手足を突っ張って抵抗する。多分恥ずかしさもあるのだろう、顔を真っ赤にさせているのも大変可愛らしい。更に頬ずりをすれば、もう好きにしてとビケが根をあげ、ぐったりとしている。


「アガット〜いい加減に服を着させてあげなよ〜」

「ビケかわいそう・・・・」

「ずっと裸なんだよ?」

「はい・・・ごめんなさい・・・」


子供3人に諭され、大人であるアガットはすごすごと後ずさり、ビケに服を渡す。身長などは変化がないようでちゃんと服が着れた。ちゃんと飛べるかどうか気になるの羽の部分をぱっくりハサミで切った服を作ってあげると、4人は飛べるかすごく気になるようで、遺跡に開いた穴で練習し始めた。ハラハラ見ている中で地上から何度も飛び降り、羽を必死に動かしている。


その間にカシュンのサナギも割れた。


見ただけでわかる盛り上がった肉体美は絞られ、年より若く柔軟でしなやかなだが屈強な体つきになったため、義手だけ盛り上がってしまっている。額のツノは頭にそって伸び、その色が緑とも黒とも言えない宝石のような輝きを放ち、更に長くなった黒髪がサラサラと風になびいている。顔は渋さと落ち着きはそのままにどことなく若々しくなり、尖った犬歯が見えなくなったのもあってかだいぶ柔らかい雰囲気になった。


「「顔が怖くない!!」」

「若い!」

「すごい優しそう!」

「言い過ぎだから!」


喜んでいいのか悲しむべきなのか分からずサナギから上半身だけ起こした体をしょんぼりとしている。アガットは慰めながら服を渡す。服を着替え終わってわかったことだが、2メートルを超える巨体は180ぐらいに縮んでおり、以前の服は少し大きくなってしまった。とりあえず袖を捲って着てもらう。後で手直ししてあげよう・・・・


2人とも急激にお腹が空いているはずだからと急いで食事の支度をする。

ティルケとダリルが狩った巨大なボアの塊肉を香辛料やハーブを塗って1日置いたものを串に刺し、焼き目に偏りがないようにゆっくり回しながら、じっくりとローストしていく。

付け合わせの野菜は歯ごたえを残すため、キャベツやブロッコリー、パプリカ等をさっと茹でて、ワインビネガー、砂糖、レモン、オリーブオイルを絞って漬けておく。

茹でたジャガイモを荒く潰して小麦粉と卵、ミルクと混ぜ合わせ鉄のプレートに薄く伸ばして焼く。焼きあがったらボアの肉を薄くスライスしたものと漬けていた甘めのピクルス、レタス、玉ねぎなどを一緒に挟めば即席のボアサンドの完成だ。好みで唐辛子入りのチリビーンズソースとチーズを挟んでもとても美味しいのだ。


昨日、ボアの骨などを鍋に入れ出汁をとっていたので、余った野菜、ビーンズ、ベーコンを全部入れてポトフにすれば食事の完成だ。

久々の6人での食事を楽しみながらアガットはジャガイモパンをどんどん焼いていく。ボアの肉は既にふたつ目に突入した。空腹のためはカシュンとビケはほとんど喋らずにボアサンドに齧り付いている。足りるといいなぁ・・・


途中でオリガにご飯を運びに行って、アガットはそこで食べた。あのまま一緒に食べているとアガットの分すらなくなりそうだったからだ。オリガにもボアサンドは好評で5つ持って行ったのにすぐに無くなってしまうほどだった。


オリガに目隠してをしてもらって戻ると、結局足りなかったらしく、余ったジャガイモパンにクリームチーズとはちみつをかけたデザートを出して、ビケは初めて見る幻の魔物に興奮して、自分と同じ爬虫類科なのが嬉しいみたいで盛り上がっている。カシュンはオリガを観察した後に柱の間にある石像を確認して頷いた。


次にアガットが不審に感じた宝石商に関しての大筋を話した。カシュンも何か引っ掛かるようで、質問は無いものの眉間にシワを寄せて考えている。初日に来た男達はあれから姿を見ていない。ティルケ達に聞けば遺跡の近くに人の気配はちらほらしたのだという。つまりは諦めていないということだ。


「その男達がただ強欲で遺跡探査しに来た可能性もあるよね?」

「そうね。そうだと思うんだけど、男達のあの様子がなんか引っかかるんだよね・・・・」

「少し調べてみましょうか。」


〜〜〜〜〜


アガットはレザントの宝石店を再度訪れた。レザントはアガットの再訪に喜んだが、商談部屋に入ってアガットの話しを聞くと悩み始めた。


「何もなければ、私の思い違いということで損害費をお出しします。ですが万が一という可能性もあります。」

「ですが・・・・」

「あなた、お願いしてみましょう。最近の事は呪いというにはちょっとおかし過ぎますもの。」


アガットに礼を言いたいと妻のゾゾも同席しており、アガットの話を真剣に聞くとレザントを説得し始めた。ゾゾの説得もありレザントは渋々了承した。


「ダリル。お願いね。」

「はい!」


名前を呼べば、何処からともなく声がして、夫婦は顔を見合わせる。アガットは苦笑しながら話を続けた。

レザントにはカシュンと一緒にまた買い付けに行ってもらう。カシュンならば道中の護衛として申し分ないし、金で雇った護衛として十分言い訳できる。アガットの予想が合っていれば、レザントは今回も盗賊に捕まるだろう。その際にカシュンがうまく盗賊に紛れ込めればこっちのものだ。


レザントはカシュンが護衛になるならばと了承してくれた。礼を言い、店を後にする際にも店員の視線を感じたが、今回は好都合だった。その隙にダリルが影に紛れ込めたのだから。


遺跡に戻る道中わざと市場で買い物をしながらゆっくり帰る。案の定視線を感じた。お菓子を試食しながらティルケを呼べば、買ったお菓子の袋と一緒に影から抜けるのを感じる。買ったばかりのクッキーを持って行かれたためアガットは再度買い足す。食い意地の張った奴め・・・終わったらお菓子を作ってあげよう・・・


途中でビケに姿くらましの魔法をかけてもらい、追ってをまいて遺跡に帰る。最下層に戻り、全て滞りなくいったと伝え、次の作業に進む。


地下3階にいるドラゴンを連れて遺跡に開いた穴を修復していく。瓦礫をドラゴンにどかしてもらい、カシュンとビケに浮遊魔法で瓦礫を浮かせ、ルルゥが巨木を急成長させて補強していく。太陽の光が無くなってあたりは薄暗くなってしまったが、侵入者が穴から入られるよりはいいだろう。カシュン達が羽化した後も男達は遺跡に侵入しようとしていた。それを樹海で迷わせ、追い出していたが穴が見つかるのは時間の問題だった。


「オリガごめんね。せっかく空を見れたのに・・・」

「いいの。確かにアガットが言ってるのは正しい。せっかくのおばあちゃんの魔法もこの穴から入られたら意味がないもの。」


ごめんねと再度謝り、アガットはお茶菓子を差し出した。この前買ったクッキーが好評だったのでそれとタルトを一緒に食べながら談笑する。


〜〜〜〜〜


1週間後、レザントと共に買い付けに行った。カシュンから連絡があった。うまく盗賊団の一員として潜入することができた事を姉妹石で知らせてくれた。そしてアガットの想像以上の話も。


「間違い無いですか?」

「えぇ、ティルケに今その者の後をつけてもらってますが、ほぼ間違いないかと。」

「だいぶ大ごとになって来ましたよ〜!うぅ〜〜〜ん・・・とりあえずもう少し潜入をお願いします。私の方でも出来るだけ情報を集めますので。」

「アガット?大丈夫?」

「オリガ〜〜」


うんうんと悩んでいるとオリガから声がかかった。アガットは遺跡を転げまわり、駄々をこねまくる。オリガは訳も分からずアガットを励まそうとしてくれる。その優しさが身に沁みた。やりたくないと駄々をこねても見て見ぬ振りはもうできないのだ。オリガの顔を見てアガットは決心がついたため、体を起こす。


「ありがとうオリガ!決心ついた。ちょっと目隠しして一緒に来てくれる?ルルゥ!ビケ!!ちょっと話があるの!」


オリガの目をハンカチで隠しながらビケとルルゥの名前を呼ぶ。2人はドラゴンと戯れているのだろう、しばらくして階段から降りてきた。ドラゴンをつれて。アガットとオリガを見て嬉しかったのだろうドラゴンが突っ込んできた。避けようとするアガットと対象的にオリガは難なく受け止め頭を撫でている。さすが魔物だけあって体が丈夫な事で・・・


3人と1匹に座ってもらって、茶菓子を用意しながらこれからの話をする。


「それでどうなったの?」

「ちょっと大ごとになってきたから作戦を練ろうと思って・・・」

「「どういう事?」」


アガットが予測していた通り、レザントは買い付け帰りにまたしても盗賊に出くわす。たまたまなはずがなくわざわざレザントをつけていたのだ。カシュンはうまく取り入り盗賊の仲間に加入することができ、そこで聞いたのはやはりレザントの宝石店と遺跡荒らしは同一犯の犯行で、裏で手を引いていたのは盗賊団だった。


レザントが買い付けに行っていた商店は実は盗賊団が盗んだ商品をさばいていた店だった。その村にも元は別の宝石店があったが、経営が難しくなっていき店を畳んだという。状態のいい宝石を安く販売していれば客はそちらに流れるのは当たり前だ。その潰された店の主人に話を聞くと、レザントと同じことが何回かあったらしい。盗賊団は店を畳んだ店主の代わりにレザントに目を付けたのだ。店員がレザントの店に引き抜かれるよう仲良くなる。そして内部から情報を流せば簡単だった。


更にレザントから聞いた遺跡の話をすれば盗賊団がそれに食いつかないはずがないのだ。遺跡を荒らしていると面白い男に出会う。装飾加工を得意とする男で、デザインの考えるために遺跡に頻繁に足を運んでいたのだ。その男をうまく取り入れアクセサリーの店を出すことができた。これで盗んだ宝石だけを売る必要はなくなった。


「更にその男は遺跡の最下層に来たことがあるらしいの。」

「えぇ!?どうやって?」

「男は簡単に口を割らなかったみたいで、ただ最下層には美しいものがあったとしか言わなかったらしい。」

「でも私以外にはここは何も無いわ。黄金も、宝石も全て地上にばらまいたもの。」

「その人が話してるのはオリガの事だと思う。その一言以外何も言わないんだって。多分塞いだ最下層までの穴を知ってたんだと思う。じゃなきゃ武器も持たない男がここまで来るのは不可能だもの。」


そう言えばオリガは恥ずかしそうに微笑んだ。誰だって綺麗だと褒められれば嬉しいのだ。蛇達も嬉しそうにオリガの顔を見たり、すり寄ったりしている。どんな姿であれ、オリガも女性なのだ。


「その人を捕まえてアクセサリーを作らせてるんだよね。逃げることは?」

「厳しいみたい。ティルケとダリルにも確認してもらったんだけど、結構監視体制が厳しいみたい。」

「じゃあその盗賊団を潰せばいいんじゃない?」

「簡単に言えばそうなんだけど、更に問題があってね、実ば盗賊団の元締めってトバール国のもう一つの街らしいのよ・・・・」

「「「え?」」」



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