3 浮かび上がる疑問
ちょこちょこ修正すいません。
今回は大丈夫なはずです・・・
ビケ達のサナギを担いで宿屋に戻るわけにいかないし、〈部屋〉に隠して宿に戻ることもできるが、ゴルゴンの娘にまた会いに行く約束をしている。宿がある市内から遺跡の最下層までは片道2時間ほどかかる。どうしようか迷っているとルルゥがはい!と手を挙げた。
「はい、ルルゥさん!」
「はい、先生!ここで野宿すればいいと思います!」
「えぇ?ここで?」
「だってアガットの〈部屋〉があるし、外には泉があるし、地下は池があるんでしょう?そこで水浴びすればいいよ?」
確かにそうすればゴルゴンの娘との話をするのも便利だし、カシュン達をいちいち移動させなくてもいい。
だが、問題はある。〈箱庭〉を展開するスペースがないこと。最下層は天井も高くて広いが箱庭を展開するには狭すぎる。樹海のような森に戻るにしても木々が邪魔して展開など無理だ。
そして、遺跡に入るきっかけとなった男達だ。満身創痍ではあるがまた戻ってくる可能性が高い。その際に発見されて戦いになる可能性だって無くはないのだ。アガットが渋っているとルルゥが再度提案する。
「ドラゴンの傷を癒せば大丈夫だと思う!そして私がこの穴をツタで塞げば大丈夫!」
「そうだけど・・・・う〜ん。・・・・じゃあ地下一階のゴーレムの魔法石戻して警備を再開してもらいましょう!」
決まれば後は早い。早速ドラゴンの傷を治していく。気絶しているだけのようなので塗り薬をぬり、ルルゥに穴の修繕と一緒にドラゴンの様子を確認しててもらう。壁に〈部屋〉を出現させ、魔物図鑑を調べる。地下2階の気持ち悪いスライムのことは載ってなかったが、スライム全般どうやら肉食らしく、実験用に貯蓄していた塊肉をダリルにスライムにあげてもらう。
「つまみ食いしちゃダメだからね。後でご飯作るから。」
ちょっと食べようと思っていたのだろうダリルはぶすぅと頬を膨らませ拗ねている。その頬をツンツンと突き、頭を撫でてあげて塊肉を渡す。肉をサイコロ状に切ってスライムにばら撒いているダリルを見てからアガットは地下1階に行く。
ゴーレムのコアにあたる緑色の魔法石を岩山に戻して行くと、光と共に元のゴーレムに戻った。また攻撃されたら堪らないと逃げようとするが、予想に反してゴーレムは攻撃せず、アガット達をじっと見ている。手を伸ばしてきたので、その指に手を置くと何か感じたのか頷いた。敵意がないことで、うずうずしていたティルケはゴーレムの肩に乗ってはしゃぐ。スライムの餌やりが終わったダリルも混じって2人はゴーレム達と遊んでいる。
ほどほどにと注意してからアガットは地下3階に戻った。
きれいとまでいかないが植物のツタと瓦礫をうまくつなぎ合わせた石畳の床は以前以上に強度をもった。ドラゴンは意識が戻ったらしく、ルルゥに攻撃を仕掛け、ツタでぐるぐる巻きされていた。動けず、鳴いているドラゴンに近づき目隠しを取ってやると一瞬眩しそうに目を細めた後アガットを確認して鳴くのをやめた。
「ごめんね。荒らすつもりはなかったの。あなたのご主人は下の階にいるゴルゴンの娘さん?」
〈真龍の都〉での戦で戦ったボルボラドラゴンと違って知能が高いらしく、言葉を理解しているようでアガットの質問にグルゥとひと鳴きした。敵意がなくなったのを確認してルルゥにツタを引いてもらう。
アガットは魔物図鑑をめくってドラゴンの種類を確認すると珍しいドラゴンだと記載されていた。
ゾーアドラゴン
小型ドラゴン。ワイバーンとドラゴンの混合種ではないかと考えられている。翼がない代わりに強靭な筋肉がついており、断崖絶壁を素早く駆けることも可能な身体能力を持つ。尾は鞭のようにしなり、岩をも砕く。ヤギのような2本のツノは雷電を貯めることが出来るので魔法素材としても価値が高い。知性が高く礼儀をもって接すれば信頼関係を築くことが可能。ただし背中に乗るのはだいぶ信頼を勝ち得ないと嫌がり不可能となる。200年前に火をも通さない白い毛皮とツノのために乱獲され、現在では絶滅危惧種に指定されている。
絶滅危惧種・・・だから初めて見るのか・・・
そうするとこの遺跡は最低でも200年以上前に建てられた事となる。柱の見たこともない模様を見ればもっと前の可能性もある。アガットは塊肉をドラゴンに与えて、下顎を撫でてやる。了承を得て、更に怪我がないか体を触らせてもらう。アガットが礼儀を持って接しているのが分かったのか、ドラゴンは大人しくされるがままだ。触診をして問題ないと確認し、ドラゴンをひと撫でしてから、アガットは最下層までの階段を降りて、ゴルゴンの娘に会いに行く。
「本当に戻って来てくれた・・・」
「約束だからね。」
嬉しそうに笑うその姿にアガットも笑顔を向ける。2人で池の近くの瓦礫に座り、話をする。ゴルゴンの娘はオリガと名乗った。現存する最後のゴルゴン族なのだという。この周辺は元々ゴルゴン族の縄張りで、遺跡はゴルゴン族の神殿だったのだという。1000年ほど前に起きた人間とゴルゴンの戦いで母を亡くしてからは祖母に育てられたが、その祖母の100年前に亡くなったのだという。
「私が大きくなってから一度人間が侵入しそうになった事があって、おばあちゃんが上層階に魔法で仕掛けを施したの。」
「それってどれぐらい前のこと?」
「えっと・・・たぶん200年前ぐらいだと思う。」
「あのドラゴンの世話してるのってオリガ?」
「えぇ、おばあちゃんがお世話を忘れるなって言ってたから。」
そしてこの遺跡を離れないことも厳守させたのだ。泉に沈んでいる宝石はここにやってくる人間への目くらましだ。だが、遺跡の入り口である1階にある宝石は呪いがかかっており、人間が手に取れば衰弱するというもの。更に強欲に地下に行こうとするものにはゴーレム、ヘドロスライム、ドラゴンをけしかけた。ゴルゴンの最後の生き残りである大事な孫娘を守るために。
「この泉はあなたの祖母が亡くなってから出来たもの?」
「よくわかったわね。この遺跡の仕掛けを作ってからおばあちゃんの体調が急激に悪くなって、しばらく安定してたんだけど・・・。160年前ぐらいかな急な落雷と共に木が倒れてその衝撃で遺跡に穴が空いちゃったの。」
アガットは遺跡に空いた穴を見ながら考えていた。朝にここ樹海を通った際にはそんなもの一切確認できなかった。つまりは遺跡の入り口とは正反対の方に出来ていることになる。あの男達がこの穴を見つけるのも時間の問題だろう・・・どうするべきか・・・
「ねえ、オリガ。しばらくこの遺跡に滞在することになるんだけどいいかな?」
「えぇ、もちろん!」
敵意のないアガットにリラックスしたオリガは心よく引き受けてくれた。最下層はアガット達が通って来た巨大な柱が並んでいる場所が神殿の祭壇らしく、そこから奥に進むとオリガ住んでいる場所になる。10畳ほどの部屋が4つ分かれており、その一つがオリガの寝室らしい。
「食事はどうしてるの?」
「池に生息している植物とかたまに紛れた鳥とかを食べてるの。」
つまりはキッチンもないのだろう。オリガに許可を得て、祭壇近くのスペースをアガット達の滞在する場所して、早速料理をする。まだブロック肉が残っているためダリル達に枝を集めてもらって焚き火をする。鉄のプレートをどこからかティルケが拾ってきたので、池で洗って簡単に塩胡椒と薬草で味付けをした肉を焼く。
明日市場で食材を買い足さなければ・・・・
アガットがそう考えているのが分かったのか、ティルケとダリルが樹海でブラッドボアを狩ってきた。それを解体してアガットに料理して欲しいらしい。
「アガットも食べてみなよ。」
「えぇ〜?美味しいの?」
「「「ボアは美味しい(から)!」」」
急かされるがまま食べてみると、少し獣臭かったが、記憶の中のイノシシ肉のようで意外と美味しかった。ルルゥ達の方を見ればアガットの方を見ながらニヤニヤしている。
「美味しいでしょう〜?」
「う〜ん、まぁまぁ、かな〜。」
「またまた〜」
「とりあえずはサナギになった2人の様子を見つつ、ここで生活するか・・・・」
「自給自足の生活だね!」
「楽しみ!」
「僕も!」
3人は楽しそうに拳を突き出しやる気満々だ。アガットはため息をついて食事を続けた。
食事も終わり、ドラゴンの世話を3人に任せて、アガットはオリガのところへステーキを持っていく。初めて見る巨大なボアのステーキに興奮しているオリガをなだめて食事をしてもらう。
「おいしい〜〜〜〜!!!」
「そんな大げさだよ。」
「うぅん!すっごく美味しいし熱々だし。こんなお肉食べるの初めて!」
さっき話しをした時に聞いた話を思い出し、アガットは心が痛んだ。祖母が亡くなってからはずっと1人だったのだ。ドラゴンがどんなに頭がよかろうと寂しさはあっただろう。
「ねぇ、オリガ、寂しくない?」
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、ドラゴンちゃんもいて、それにこの子達もいるから。ひとりひとりにちゃんと名前があるんだから!」
そういってオリガは髪の蛇達を撫でる。オズ、ララ、マルニ、1匹づつ名前を教えてくれる。火花が飛び散るため、アガットは触れないが、名前を呼んで手を振る。蛇達もアガットに挨拶するように鳴き、頭を振ってくれる。それが可愛くってアガット思わず笑顔になった。
「明日もっと美味しいの食べさせてあげるから!」
「本当に!?楽しみにしてる!」
〜〜〜〜〜
次の日ルルゥ達を遺跡に残し、アガットは市内に戻る。食材と調味料、それからある人物に会うために。〈トルバンテの宝石店〉の看板がかかっている店に入る。
「アガットさん!よくいらしてくれました!」
「レザントさん、依頼が終わりましたので、報酬を受け取りに来ました。」
「もうですか!?流石はアガットさんだ!」
「それとちょっとお話しをしたくて・・・・」
それでは商談室に、と招き入れてくれるレザントの後ろをついて行きながらアガットは店内を観察する。店に客は2人だけで、若い店員が接客していた。その店員を観察しながらアガットは商談室に入る。依頼の報酬である銀貨5枚を受け取り、茶菓子を食べながらたわいもない話をする。レザントはアガットの言った話が何か気になるらしく、手をもぞもぞさせている。
「それでお話しというのは?」
「レザントさん、さっきの若い店員はいつ頃働き始めたんですか?」
「店員?あぁ!ジュノスかい!もうウチで働いて1年になるよ。」
「賊に入られたのは?」
「4ヶ月前だけど・・・・」
「ジュノスさんには今回の買い付けを話してますよね?」
「もちろん!だって店番を頼まないといけないし・・・・・ねぇ、ジュノスと賊に入られたのは関係ないよ?」
「分かってます。ただ気になることがありまして、もやもやを解決するために、もしよければでいいんです。」
私のわがままに付き合ってくれませんか?とお願いすればレザントは強く出れずアガットに話しをし始めた。ジュノスはバール街貧しい地区の生まれの孤児だそうで、ジュノスに出会ったのは別の村で買い付けに行く商人の元働いていたからだ。宝石に対する知識があり、ウマが合う。なおかつバール街の出身ならばとレザントが雇ったのだ。1年間しかレザントの店で働いてないが、それよりも前から顔見知りだった。
その宝石商の事を聞けば、半年前ぐらいに店をたたんだそうだ。その話を聞いてアガットは黙った。
1年前に馴染みの宝石商で働く青年を引き抜いたら、半年後にその店が無くなり、その1ヶ月後に賊に入られ、ライバル店が出来てる。更に買い付け先で盗賊に出くわし、買い付けた宝石を盗まれている。更にそのライバル店の宝石のいくつかは遺跡の1階から盗られたものが並んでいたため、昨日遺跡で出会った男達も無関係だとは考えづらい。
あまりにも都合が良すぎるのだ。
「レザントさん。遺跡で宝石を発見した話はジュノスさんにしましたか?」
「え?えぇ、多分してるかもしれないです。なんせ飲みにいく事もありますから。」
その言葉が答えだった。遺跡を襲った男達はそこに宝石があるのを知ってて遺跡の地下に潜ろうとしているのだ。オリガの祖母が仕掛けた目眩しが悪い方へ向かってしまったのだ。
組織的なものが裏で手を引いているのであれば、全て辻褄が合ってくるのだ。何者かがレザントをターゲットにして、商売をかっさらう。そしてバール街に遺跡の噂があるのを知り、遺跡を荒らしている。
ただ、話を聞いててもう一つ気になったのはわざわざゴーレムを攻略したいと思うか、だ。
あの男達の様子では初めての遺跡攻略のようには見えなかった。レザントが話したのは泉までのはずで、それから遺跡内で宝石を見付けたとしてもゴーレムを攻略してまで下層に行きたい理由がないのだ。下にもっとお宝がある確証がない以上そう何度も遺跡に入れば最悪自分たちの人員を減らす事になるのだ。男達の様子を思い出すと難しいゴーレムを倒してまで手に入るお宝があると確証しているみたいな雰囲気だった。
レザントを探ってみても知らない雰囲気だったため、彼が情報源ではない。では他に下層でお宝があるという情報源があるはずだ。
まだ結論づけるには情報が不足しているため、一旦保留する事にした。レザントには宝石を購入しに来た客だというようにクギを刺した後、アガットは宝石店を後にする。帰る時に視線を感じたのは気のせいではないだろう。
食料を次々購入して馬に乗せていく。多分明日までにアガットがレザントの宝石店を訪れた事が伝わるだろう。その前にさっさと買い物をして遺跡に引き返す。遺跡の周辺はアガットの心境とは逆に穏やかだった。




